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偽善者とお祭り騒ぎ 二十六月目
偽善者と迷宮建築案 前篇
しおりを挟む童話世界 セントラルターミナル
俺が創りだしたその場所は、異なる文化を上手く合わせるために築かれた。
各世界はこの場所を通じて、自分の世界とは異なる場所へ向かうことができる。
……ちなみに、第一から第四世界でも似たような施設を建設していた。
移動方法は転移だとしても、やっぱりそういう場所はあった方が面白いからな。
なお、デザインはだいぶ日本チック。
所々ファンタジー要素を交えるも、大半が地球の大きな駅を模した感じの建物だ……そしてその中央には、塔が建てられている。
「さて、だいたい揃ってくれたようだな」
そんな塔の一室にて、俺は議長のようなポジションをやらされていた。
周囲には眷属、そして童話世界における代表者の人々が座っている。
全然俺の脳みそはその名前を把握していないのだが、そこはスキルの方で補ってくれるため問題なく議題を進められる。
「かねてより、皆からの要望として挙げられていた問題の数々。それらを解決する策をいくつか提案するゆえ、考えてもらいたい」
ちなみに似たようなことを始めた初期は、偉そうな奴とか訳の分からない主張をする者などが居たが……彼らは座から下ろされた。
残念ながら、現段階では俺という存在が強力なストッパーとして機能している。
しかしこういうときは便利なので、有能な奴らをここに派遣するように仕組んだのだ。
お陰様で初回以降は真面目に話してくれる人々が集まり、各世界もより良い方向へ進んでいった……反論するヤツ? そんな奴もういないよ(物理)。
「まずは素材だ。食料もそうだが、鉱物や植物などいろいろと足りない物が多い。お前たちの世界は、あくまで彼女たちの周辺を模したもの。あまり、大規模にはできていなかったのだから当然と言えよう」
童話世界は、あくまでも童話に必要な領域しか用意されていない。
なので彼女たち──リア、シャル、リラ、カグヤたちに関する場所しか無いのだ。
魔法で空間を拡張することはできるし、それを恒常化することも問題ない。
しかしその後、どう土地を活用するのかはその世界の人々の委ねていた。
「リアの世界には空きがあった。それを用いて実験を進めてきた。その結果、充分に効果のあったものを今回の提案とする──資料を配る、そちらを読んでほしい」
俺が口上で語るよりも、眷属たちが纏めた詳細なデータの方がいいだろう。
指を鳴らすと資料が参加者の目の前に転送され、彼らはそれを読み始める。
「読みながら聞いてもらいたい。記してある通り、提案するのは──世界の迷宮化だ。魔物の発生に関しては、資料を見てもらえば分かる通り、ある程度制限が可能だ」
「質問が。資料には世界ごと、異なる分野での産業を行うとのことですが……これにはどのような意図が?」
「これからも世界は増えるかもしれない。たしかに一つの世界ですべてを補えるのが一番だが、本当にそれは君たちの世界か? あくまで迷宮は、欠けた領土で行われていた産業の補助だ。それを忘れないでほしい」
そりゃあ迷宮の階層ごとに違う産業を行えるフィールドを用意すれば、いつでも好きなだけ素材を回収できるだろう。
しかしそれでは楽園だ。
あくまでも人が住む世界として、不完全性は取っておくべきだろう……何でもある場所とは、いつだって戦争しか生まない。
──まあ、全部の場所に等しく万能性があろうとも、似たような結果になるだろうな。
「迷宮は各世界の端に配置する。これには二つの目的がある。一つは経済を循環させるため。こちらは資料を読んでほしい。二つ目だが……あえて書いていない」
遠くに置けば移動するために費用は掛かるし、休憩するための施設も生まれる。
そこで金は巡っていくだろうし、人も行き交いするだろう。
俺の説明に、一つ目の理由は納得しているであろう彼らは首を傾げる。
俺の言い方からして、プラスなことではないと察しているからだろう。
「二つ目の理由だが……迷宮には一定期間ごと、意図的に暴走を行わせる。無論、従来のものと何ら変わらないレベルでだ」
『っ……!?』
「迷宮の権限は、基本的にお前たち代表の誰かが持つことになる。階層を増やすもよし、魔物を増やすもよし、フィールドを改造するのも良しだ。だが、これに関しては全権限を固定化する。俺も干渉は不可能になる」
「ッ……なぜですか! 安全な迷宮があるというのに、それを意図して暴走など……!」
若者(俺もだけど)がそう叫ぶが、周りの人々は誰も答えない。
彼はどうやら今回が初参加のようで、招いたとされる代表者が申し訳なさそうだ。
研修のようなもので、有望な人材をこの会議に招いているのだが……いやー、こういうストレートな言い方をしてくる奴は久しぶりな気がする。
「まあ落ち着け。ちゃんと説明してやる……お前の言う理想の迷宮は、本当に存在するのか? 絶対に人を害さない、そんな魔物が居るのかと言っているんだ」
「そ、それは……」
「それを制御することは、いちおうできる。だが、俺にしかできない……お前たちにとっての俺はなんだ? 迷宮を管理するための道具なのか? そして、俺だけにしかできない以上、俺の死後はどうなるか分からない」
死ぬ気はまったく無いが、[ログアウト]ができたあと、現実世界に居る間に問題が生じたら眷属に任せるしかない。
そんなことはさせたくないし、迷宮を望むならば責任は彼らにも生じることになる。
……他の代表が招いた彼と同年代の子たちは、そう言った事情を理解したのだろう。
どんな時でも、もしもに備えなければならない……そういう考えを迷宮にも抱き続けねばならないのだ。
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