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偽善者と公害対策 二十五月目
偽善者と旅での修行 その16
しおりを挟む「──というわけで、今日は健康診断だね」
「えっと、どういうことでしょうか?」
「ますたーは前回、いろんなことが──」
「くっ、殺してください!」
突如として、聖職者が女騎士っぽいことを言い出した。
まあ、[ログアウト]してから自分の言動について思い出してしまったのだろう。
必要なことということもあり、周りのメンバーたちも誰も止めない。
……事前に承諾させておかないと、強引に止めてくる奴がいそうだったしな。
「からかうつもりで言っているわけじゃないから、ちゃんと聞いてね。それとも、そのつもりで話した方がいいの?」
「……うぅ、メルがイヂメてきます」
「本当に大切なことだからね。自分で大丈夫だと思っても、そうじゃないことは多いよ。私はますたーの精神状態を完璧に把握してあるから、確認すれば分かるよ」
「わ、わたしのすべてを!?」
いや、その反応は少し……体をギュッと抱かれていると、俺の犯罪臭が。
すべてじゃなくて、あくまで精神状態だけだ……今から知ろうと思えば知れるけど。
「たぶん、何も無いとは思うけどね。私は事前のフォローを大切にするもん」
「はぁ……では、お願いします」
「りょうのかーい! ──“精神再現”」
「うぐっ……!」
俺が憶えていた精神構造を、そのまま転写する精神魔法。
ただし今回は、呪いで暴走する少し前に憶えていた構造を彼女に張り付ける。
制限を解除してから、少しずつ彼女に寄り添い──蝕んできた【万能克復】。
共に得た【慈愛】が抑制してはいたが、今回の時間が無くともいずれ表面化していた。
元の精神状態に、その後に経験したことを加えればある程度精神は安定できる。
絶対の保証は無いが……そうなったら、仲間たちがなんとかするだろう。
「どう、何か変化はあった?」
「特にありませんが……えっと、メルから見てわたしは変わりましたか?」
「変わらないよ。ますたーは、いつも通り可愛い女の子。変化なんてないよ」
「か、可愛い……」
そりゃあ外見は変わらないだろう。
復讐者が記憶喪失して、善人っぽい状態にでもならない限り……人相が変わるレベルの精神の変化って、こんな感じだぞ。
いつも通り、俺の発言のどこかに反応してトリップしたクラーレはさておき。
発動した魔法が、どう作用したのかを確認しておく。
「それで……どうだって?」
《まだ少し、残っていたそうです。メルス様の魔法によって、そちらは完全に活動を停止しました》
「うんうん、ならよかったよ」
《では、私はこれで……どうやら、彼女もまた────になったようですね》
最後のガーの発言に違和感を覚えたが、なぜか隠されているので気にしないことに。
念話なので、意図的に隠したいと思った部分は聞こえなくなる仕様なのだ。
閑話休題
ともあれ、クラーレの精神状態はこれで問題無しとなった。
なんやかんやあったが、終わりよければすべて良しというヤツだろう。
「それじゃあますたー、さっそく新しい力をみんなにお披露目しよう!」
「分かりました──“万能克復”!」
「はい、それじゃあみんな──攻撃開始!」
「えっ、なんでですか!?」
こちらも頼み込んで、安全性は確保してあると伝えてやってもらっている。
……実際には、見せかけのペラッペラな防御魔法モドキがあるだけだが。
全力の魔法や武技の攻撃がクラーレに放たれ、抗うこともできずに命中する。
だが、彼女の生命力が尽きることはない。
なぜなら──減ってもすぐに戻るからだ。
「これは……凄まじいわね」
「自分自身に使うなら、最上級のリジェネ効果があるんだよ。問題は、威力が高くても低くても、消費する魔力が一定な点。つまり、小さな攻撃をたくさん受けるとすぐに魔力が枯渇しちゃうことだよ」
「ポーションがあっても、中毒になるし満腹度も上がるわね。あんまり常用はできないということね」
「うん、その通り。けど、短期決戦とかならますたーも安全に前線へ出ることができるようになったよ。他のみんなも、触れたら完治させることができるからね」
なんだかチートっぷりが上がっているが、その分のリスクもたっぷりある。
特に自分以外を対象にした場合など、その代償は未だ健在だ。
「……その前に、何かわたしに言わなくてはいけないことがありませんか?」
「ん、何かあるの? えっと、ますたーはたしかあのとき、洞窟で──」
「何でもありません!」
しばらくはこのネタでからかえそうだな。
とやかく言われるよりも先に、彼女たちへ固有スキルの凄さを見せることに成功した。
これでそちらはよし。
あとは……少々不安げなクラーレの方をどうにかしよう。
「メル、他の方に【万能克復】を使用した場合……わたしはどうなりますか?」
「ますたーのイメージ次第かな? 読み取るイメージが膨大ならその分ひどくなるし、代わりに生命力や魔力を事前に支払っておけばだいぶ軽くなるよ。少しだけ改善されたね」
「……あれだけいろんなことがあって、それでも少ししか変わっていませんけど」
「そもそも、新しい能力が目覚めたり能力の効果が変わる方が珍しいんだからね。私のスキルの中には、まったく変わっていないモノもたくさんあるんだよ」
ちなみにその大半が、模倣したモノだ。
模倣したらその成長は、本人に依存しているためまったく更新されなくなる。
俺自身が持ち主を模倣して成長させるか、もう一度持ち主に接触して再度模倣しなければならない……クラーレの固有スキルは、後者でバッチリ更新できました。
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