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偽善者と公害対策 二十五月目
偽善者と旅での修行 その14
しおりを挟むSIDE:クラーレ
「まーすたー♪ それで、どうなったの?」
「……メル、ですか?」
ネズミの救済を終えると、洞窟の外から声が掛かります。
声の主はとても大切で……わたしがもっとも救うべき人──メル。
「はい、ネズミはわたしが助けました。これで町の人々も救われます」
「うんうん、さすがますたーだよ。みんな、ますたーに感謝するよ」
「いえ、感謝は必要ありません。わたしはただ、わたしの望むままに──」
「そんなこと、言っちゃダメだよ」
少し強くなったと自負しても、やっぱりメルの方が凄いです。
知覚できない動きでわたしのすぐ近くに来たメルは、指でわたしの口を塞ぎました。
「感謝はますたーが受けるものじゃない。救われた人がその想いを形にするためにするんだよ。報われない想いは救われない……ますたーなら、分かるよね?」
「救われない……そうですか。では、感謝は受けることにしましょう」
「うん、ますたーは偉いね。やっぱり、心が温かいからできるんだよ」
「そうでしょうか?」
わたしにできることなら、何でもします。
それでも、わたしにできないことは星の数ほど存在しました。
今の話だってそう。
メルには救われる人々のことが分かっていて、わたしには分かりませんでした……やっぱり、メルは凄いんです!
「……ますたーは、これからどうするの?」
「そうですね、何も変わりませんよ。みんなといっしょに冒険して、自分にできることをやり続けます」
「今のますたーが、これまでと違うことは自分でも分かっているよね? 自分が、シガンお姉ちゃんみたいになったことも」
「…………そう、ですね。自分ではおかしくないと思っているのですが、メルがそこまで心配してくれているということは……そういうことなんでしょう」
わたしとしては、これまでとそう変わりがないとしか言いようがありません。
ですが、わたしよりも優れたメルが言うのですから、そうなのでしょう。
かつてのシガンと同様に、今のわたしもまた『侵蝕』されているようです。
傍から聞けば、意識すれば止められるのでしょうが……わたしにその気はありません。
「メル、力って何なんでしょう?」
「自分自身を表すもの、かな? 単純な戦闘力だけじゃなくて、財力、権力、統率力……力にはいろんな形があるけど、それら全部がその人のものだからね」
「今のわたしは、そんな力が溢れています。これを捨てることはできません」
「……そうならないように、【慈愛】というか眷属のスキルも渡したんだよ? ますたーは、これまで通りの関係をみんなと築いていけないよ。力を持つ代償は、自分以外にも及ぶから」
シガンは『侵蝕』され、わたしたちと関係がギスギスしていたことを思い出します。
たとえいっしょに居たいと思っても、今のわたしはそれを拒む選択をするのでしょう。
「では、どうすればいいんでしょうか」
「普通ならここで、力を捨てた方がいいとか言うのが定番だけどね。私はますたーのやることにとやかく言う気はないから、そこは好きにしてくれていいよ」
「なら──!」
「でも、私以外はそう思わないかもしれないからね。いっしょにここで待って、みんなの話を聞こう」
ここで逃げるのが、定番な気もします。
ですがメルを相手に逃げられる可能性は皆無ですし、『侵蝕』状態がみんなから見てどうなのかも気になりました。
わたしはメルの話を承諾し、ここでゆっくりと待ちます……となるはずだったのに──
「じゃあ、ますたーは特訓だね!」
「…………え゛っ?」
「ますたは強引に【万能克復】を使いこなしたよ。でも、まだまだ私から見ると甘い部分が多いからね。みんなが『説得(物理)』をしても対抗できるように、これからますたーの特訓をするよ」
あ、あれ……今のわたしは、固有スキルを得ていろいろと自信に満ちていたはずです。
正直、これならメルを…………と思ってもいたはずでした。
ですが、メルの笑顔を見ていると、なんだかどんどんそんな気が薄れてきます。
万能感とか、そういうものもないですし、メルに勝てる気がまったくしません。
「ますたーは……うん、定着は自力でできるようになったんだ。それができるとできないとで、ますたーの限界調整がだいぶ難易度が変わるからね」
「め、メル……?」
「まずは生命力の絞りだし、それから魔力変換……はすぐにできるか。なら、禁忌魔法を教えてもいいかな? 今の状態だとできないかもしれないけど、アレを試してみるのもいいかもしれないね」
「メ、メル! わたしの、わたしの話を聞いてください! なんだか、物凄く嫌な予感がするのですが……」
なんでしょう、登場時は謎のキャラだったのに、しばらくしたらギャグキャラに……みたいな感覚です。
考えたくありませんが、もしかして今のわたしは……ギャグキャラですか!?
「ますたー最凶化計画の始まりだー! ついでだし、魔改造ぐらいやってもいいよね?」
「嫌ですよ!」
「うんうん、普段のますたー……とは少し違うけど、笑ってくれるようになったね。そのままを保てるように頑張ろう!」
「……もう、疲れました」
でも、メルなりに考えてくれているのは分かります。
やっぱり、わたしはメルを…………。
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