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偽善者と公害対策 二十五月目
偽善者と旅での修行 その13
しおりを挟むわたしは意識を集中します。
イメージするのは、自分の身を今のまま保ち続ける姿。
「──“万能克復”!」
わたしがスキルを使ったのとほぼ同時、ネズミ──『呪病鼠王』の魂が入ったナニカが動き出します。
体から伸びた禍々しい力の塊を、爪や尾、無いはずの羽から延長してわたしを突き刺そうとしてきました。
わたしはそれを──受け止めます。
体一つでそのすべてを、これが必要なのだと自分を誤魔化して。
「……あっ」
痛い。
わたしが感じられたのは、これだけ。
このあとわたしは、ただ叫びます……そんなことをしている覚えはありません。
知覚できているのは、【万能克復】がわたしを癒し続けるから。
喉が枯れても治るため、鼓膜が破けても治るため……延々とそれを聞かされ続けます。
《────ッ!》
遠くで何かが聞こえてきました。
でも、それはひどく遠く思えます……わたしはわたしのことだけに、集中しなければなりません。
あらゆるものを治す、その対価は今まさに支払われています。
なぜこんなことをしたのか、自分を責めても答えは返ってきません。
少しずつ、自分がやらなければならないことを思い出していきます。
そう、わたしは救う……この力は、死ぬべき運命を覆すためのもの。
悲しむ必要も、苦しむ必要も、痛む必要もありません……わたしが力を使えば、すべてが丸く収まるのですから。
「──“万能克復”」
意識した途端、スッキリしました。
当たり前の力を、当たり前に使う……ただそれだけのことを、どうして今までできないでいたのでしょうか?
邪魔をする原因は歪なネズミ。
どうやら呪いをわたしに埋め込み、乗っ取りたいようです……祈念者なので死に戻りをすればいいのですが、それでは救えません。
「そう……救わないと──“聖域”」
命を捧げ、魔力量を爆発的に高めて魔法を発動させます。
たとえどれだけ死に近づいても、わたしは死ぬことはありません。
ネズミがどれだけ暴れようと、わたしの命が使われた聖域を壊すことは不可能。
なぜなら現在進行形で、魔法は展開され構築され続けるのですから。
今のわたしには分かります。
死に戻りとは■■を回収し、処理するための過程でしかないと。
ならば■■を剥がれないように定着させ、繋ぎ続ければ良いだけです。
そのための力──【万能克復】を今のわたしは完璧に使いこなせるのですから。
SIDE OUT
◆ □ ◆ □ ◆
「あれが……望んだ道なのか」
《メルス様……》
「まあ、偽善者としては面白いデータが取れたの一言でいいんだけどさ。ますたーの僕としては、ちょっとばかりな」
《メルス様、彼女は【万能克復】を使ったのです。【慈愛】ではなく、あの力を……そのことを、ご理解ください》
俺の両目において、現在異なる光景が映し出されている。
傍観者を気取るため、神眼を解放してわざわざ観察を行っていた。
一つは教会、必死に患者たちを治そうとする人々の足掻き。
もう一つは洞窟、救済の果てにすべてを投げ打つ道を選んだ……破滅の聖女。
俺がメルで在る理由は失われた。
そう認識したからか、変身魔法は自ずと解除され、妖女は偽善者と化す。
「まあ、それが彼女の選択だ。俺は一度、メルとして念話を送った。心のどこかで、他の道を選べたなら……届いただろうに」
《では、彼女はやはり……》
「侵蝕状態だろうな。けど、アレはちょっとおかしい。たぶんだけど、呪いが視野を狭めている。最初に【万能克復】を使ったのはクラーレ自身の選択だが、それにも考えがあってのことだろうしな」
彼女の発動した“聖域”が、『呪病鼠王』本体である呪いの塊をゴリゴリ削っている。
本来なら物語でも定番、命を燃やすアレを常時発動しているのだから当然の結果だ。
祈念者であるクラーレは、たとえ死んでも元の世界に戻るだけ。
そういった思考もあって、あのような無謀な選択を取らせたのだろう。
呪いは本来、乗っ取るためのモノなんだろうが、まずは人格を破壊する方を選んだか。
緊急ログアウトが発動しないのは、アレを平常だとシステムが判断しているからだ。
「魂は守られても、心も記憶も全部覚えている。このままだと不味いかな……あのままなら、行けただろうに」
《彼女が……ですか? たしかに、行動そのものを見るならば、そう思えたでしょう、しかし、彼女は失敗しました》
「まあな。とはいえ、このままだと問題になりそうだ。俺が直接干渉するのはアウト、メルでもたぶん説得できない。やっぱり、持つべきものは友だよな」
テンプレと言えばテンプレ、一度救った相手に救われるというイベント。
問題はいろいろと仕込んだ結果、救う相手が尋常ではない力を手に入れていること。
「おそらく、あの状態なら“完全蘇生”も成功するだろうな。いやー、こんな事態になるとは思ってもいなかった!」
《……メルス様?》
「さっそく連絡するとして、ガーは研究班に解析してもらうように連絡かな。俺は……私は、時間稼ぎをしてみるよ」
もうネズミは聖域の中で朽ち果て、肉体は完全に崩壊した。
存在を知覚できなくなった彼女が、次にすることは分かる……よし、先回りだな。
改めて変身魔法を施し、準備は万端。
再度縛りを掛ける前にもう一度、神眼を使い転移を行った。
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