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偽善者と公害対策 二十五月目
偽善者と旅での修行 その10
しおりを挟む先ほど使った【万能克復】の影響か、まだ足元がふらつくわたしは、女性の言葉を受けて手伝いを止めます。
「すぐに始めます。クラーレ様は、しばらくお休みになってください」
「わ、わたしも手伝います!」
「いえ……クラーレ様は、魔力を温存してください。ここは、私たちにお任せを」
すでに対策は伝えていますので、現状を改善するために彼女たちは動き始めました。
それはとても簡単で、とても難しい──距離を取る、これだけで感染速度が落ちます。
教会に収容された患者の方々を、可能な限り隔離しなければなりません。
ネズミ──『呪病鼠』の能力は、射程が短いことだけが唯一の弱点なのですから。
「すぐに“浮遊”を! 空間魔法を使える祈念者の方は、ぜひご協力してください!」
幸い、教会は仕込まれた魔法陣の効果で、ネズミの能力を外に漏らしません。
外部からの隔離はこれでよいのですが、問題は内部での隔離でした。
仮に呪いと称するそれは、能力同士が周囲にあることで増殖を行います。
蝕んだ相手から必要なエネルギーを奪い、免疫──つまり耐性をおかしくします。
特定の回復魔法しか効かなくなるのも、それが原因です。
間違った回復魔法を行使すると、感染速度が高まると調べた際は出ました。
周囲に同じ患者が居なければ、その反応が無いため再発するリスクが下がります。
なのでそれを抑えるため、物理的か魔法的に人々を遠ざけることになりました。
自由民の方々は、あまり空間属性の適性を得られないのですが……スキルを任意で選べる祈念者の中には、空間魔法を習得している方がいたようです。
「やっぱり……ロマンでしょうか?」
《ますたーも習得してみる? ポイントが足りないなら、援助もしてあげるよ。それに、眷属の力を使えば、一時的にだけど使うことも可能だけど……今は禁止だよ》
呟くと返してくれる、やっぱりわたしの様子を窺っていたメルでした。
すでに知っていた眷属の能力ですが、もともと禁止されているので使えません。
便利すぎるという理由なそうですが……他にも理由がありました。
「うっ……ダメ、ですか?」
《私の魔法なら、何でもできるよ。だけど、それは私の力をますたーが借り受けているだけ。暇潰しにスキルや魔法を試すためならともかく、緊急時に頼りにするのは止めてほしいかな?》
「……はい、分かりました」
《ますたー。必要な力には、使い時がちゃんとあるんだよ。見誤らないで、ますたーの力は信じれば必ず応えてくれる》
わざわざ魔法陣を用意してまで、わたし自身に魔法を使わせていたのですから、そこに意味があるのでしょう。
しかし、メルはなぜ“完全蘇生”を予め覚えさせようとしたのでしょうか?
最悪の事態……考えたくはありませんが、記憶の片隅にでも留めておきましょう。
◆ □ ◆ □ ◆
「クラーレ様、準備が整いました。話されていた通り、隔離を意識してからは再発速度が遅くなったように思えます」
「そうですか。それでも、完治には至らないのですね……重症の方が出ましたら、すぐに伝わるようにしてください」
「はい、畏まりました」
一度根治させているお陰か、スムーズに連絡してもらえるよう取り付けられました。
わたしたちの目的はあくまで時間稼ぎ、そのための方法も理解しています。
この呪いの厄介な点は、時間経過でも症状が悪化すること。
それを防ぐため、発病した場合はすぐに解除する必要がありました。
ただし、治療すれば治療するほど、使用する魔法の難易度が向上していくようです。
祈念者の方々の協力で、ある程度難しい魔法は発動しますが……根治はできません。
「──“聖光所”、“聖域”」
わたしは周囲に、光系統の魔法で結界を生成していきます。
呪いと称するだけあって、浄化すればさらに再発速度を抑えられるのです。
重ならないように発動させていると、再びわたしの出番が来てしまいました。
……無いなら無い方がいいのですが、必要とあらば迷わず使いましょう。
「こちらです」
「……これは」
「どうやら、刻一刻と危険度が増しているようなのです。状態異常は分かりませんし、必要な魔法が──増えています」
彼女の言った通り、鑑定スキルで視た状態異常に変化が起きています。
表示するならば『呪病鼠:■■・■■』といったモノになっていました。
「同時に使用すれば治るのか、それもまだ不明でして……大変申し訳ありませんが、先ほどの御業をもう一度お願いします」
「分かりました。では、先ほど同様に少し距離を取ってください」
再び【万能克復】を発動し、状態異常を解消します。
当然、激しい痛みが伴なうのですが……先ほど以上の痛みでした。
「“回聖”と“精神恢復”……二つを、同時に使わねば、いけないのですか。痛ッ!」
状態異常を調べれば調べるほど、痛みはより深刻になっていきます。
それでも、原因を解明すべくより深い情報まで調べていきました。
「……こ、これは!?」
その結果、わたしは知ることになります。
なぜこの呪いは蔓延し続けるのか、そしてどうすれば止まるのかを。
メルがわたしを予め鍛えたのも、それが理由でした……ならば、それに応えないと。
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