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偽善者と公害対策 二十五月目
偽善者と旅での修行 その06
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連続更新となります(10/12)
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SIDE:クラーレ
「──“回復”、“回復”、“回復”……」
ただひたすらに、魔法を唱えていく。
詠唱は最低限、それでいて消費を抑えるために発動名だけは告げる。
速く、そして強く魔法を使う。
それが目の前で苦しむ人たちを、救うために必要なことだから。
「うぅ……」
「大丈夫ですよ、必ず良くなりますから」
薄っすらと目を開けた患者は、震える手でわたしに手を伸ばしてきます。
その手をギュッと握り、少しでも良くなるようにと“回復”を使いました。
その甲斐があったのか、苦しそうな表情は和らいでいきます。
何かを求めていた手もゆっくりと力を失っていき、わたしが床にそっと置きました。
「お疲れ様です……少し、お休みになられますか?」
「いいえ、次に行きましょう」
「分かりました」
少し前、この町の近くに『呪病鼠王』という魔物が出現し、周囲に甚大な被害を及ぼしました。
祈念者の皆さんによる防衛が間に合わず、自由民の方々にも怪我人が出ます。
……それが、すべての始まりでした。
自由民の中から、奇妙な症状を訴える方々が出始めたのです。
回復魔法で治る人も、病気用のポーションが無ければ治らない人もいました。
共通点として、患者の方には鼠の歯形が体のどこかに付いており、その原因が取り逃がしたネズミによるものだと分かります。
祈念者の皆さんがそれから王の個体を討伐しましたが、それでも止まりませんでした。
歯形が残る限り治す手段は確定せず、変化する症状に対応するしかありません。
「ここは?」
「“解毒回復”です」
「分かりました──“解毒回復”!」
唯一、治す手段はありとあらゆる状態異常と傷を癒すアイテム。
ただしそれは、錬金術でしか生みだせない産物……わたしではどうにもできません。
なのでわたしが治療することで時間を稼ぐことで、プーチが必要数を揃えられるように魔法を使っていました。
きっとメルであれば、片手間で作れるアイテムなのでしょう……それでも、今回だけはメルに頼ってはいけません。
「……“解毒回復”、“解毒回復”!」
「次は“解痺回復”ですが……本当に、休まれなくてよろしいのでしょうか?」
「構いません。それよりも、次の場所へ」
この教会では、患者の症状に合わせて必要な魔法を施しています。
浮遊魔法もありますので、同じ場所には同じ魔法で治せる方々が集まっていました。
次に向かった場所でも、“解痺回復”を施していきます。
お話によると、おおよそ三時間ほどはこれで安定するとのこと。
石化、眠り、魔力操作の不調など、さまざまな症状で悩まされる人々を治します。
メルのお陰で回復魔法への理解度が深まっているため、今はまだ治せていました。
「……この先は複合された状態異常の方々です。一つひとつ解除することは難しく、一度に治す必要があります」
「分かりました──“異常恢復”!」
使う魔力もその分多くなる代わりに、複数の状態異常を治すことができる魔法です。
できるだけ魔力を浪費しないよう、繊細な魔力操作で魔法を完成させました。
それを何度も繰り返して、苦しむ患者さんへ行います。
強張った顔は緩んでいきますが……体に刻まれたネズミの跡は消えませんでした。
「くっ……魔力が」
「ポーションを飲んでください。それから、しばらくは自然回復に委ねてください」
「で、ですが……」
「すでに十本目です。これ以上は、中毒症状に罹る可能性が高くなりますよ」
ポーションでの回復量が減衰し、最終的にポーションを受け付けなくなる中毒症状。
一度罹ればしばらくその症状が続いてしまうので、治療どころでは無くなります。
「……分かりました」
「あなたは立派にやっています。まるで、聖女様のようです」
「……ありがとうございます」
休むと認識した瞬間、体からドッと疲れが噴き出してきました。
言い返す気力も失われ、自分がただの人でしかないことを伝えられません。
案内された場所に座ると、目を閉じて集中します。
このままでは完治までに時間が掛かる……ならば、それを早める必要がありました。
「はぁ、はぁ……ふぅ──“活魔”」
魔力の自然回復速度を高め、すぐに再開するための準備を行います。
メルにやり方は習っています……大気から魔力を取り込むイメージでした。
「……結局、メルに頼ってばかりですね」
これまでも、そして今も……ですが、これからはそうじゃないと決めています。
借りモノばかりのわたしですが、せめてメルに追いつくための力を手に入れたい。
「だから……頑張らないと」
「もう、平気なのですか?」
「はい。少しでも多く、速く治さないと。わたしの仲間たちが、手段を見つけてくれているはずです」
プーチはネズミの能力に効く薬の錬成を。
ディオンはプーチの護衛、シガンたちは薬に必要な素材集め……みんながみんな、力を合わせています。
おそらく、わたしが【慈愛】を使いこなせば薬は必要ありません。
未熟なわたしと違い、メルが動いても治すことができるでしょう。
……今は、自分の力不足を嘆く時ではありませんでしたね。
今の自分にできること、少しでも患者に皆さんが苦しまないように頑張らないと!
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SIDE:クラーレ
「──“回復”、“回復”、“回復”……」
ただひたすらに、魔法を唱えていく。
詠唱は最低限、それでいて消費を抑えるために発動名だけは告げる。
速く、そして強く魔法を使う。
それが目の前で苦しむ人たちを、救うために必要なことだから。
「うぅ……」
「大丈夫ですよ、必ず良くなりますから」
薄っすらと目を開けた患者は、震える手でわたしに手を伸ばしてきます。
その手をギュッと握り、少しでも良くなるようにと“回復”を使いました。
その甲斐があったのか、苦しそうな表情は和らいでいきます。
何かを求めていた手もゆっくりと力を失っていき、わたしが床にそっと置きました。
「お疲れ様です……少し、お休みになられますか?」
「いいえ、次に行きましょう」
「分かりました」
少し前、この町の近くに『呪病鼠王』という魔物が出現し、周囲に甚大な被害を及ぼしました。
祈念者の皆さんによる防衛が間に合わず、自由民の方々にも怪我人が出ます。
……それが、すべての始まりでした。
自由民の中から、奇妙な症状を訴える方々が出始めたのです。
回復魔法で治る人も、病気用のポーションが無ければ治らない人もいました。
共通点として、患者の方には鼠の歯形が体のどこかに付いており、その原因が取り逃がしたネズミによるものだと分かります。
祈念者の皆さんがそれから王の個体を討伐しましたが、それでも止まりませんでした。
歯形が残る限り治す手段は確定せず、変化する症状に対応するしかありません。
「ここは?」
「“解毒回復”です」
「分かりました──“解毒回復”!」
唯一、治す手段はありとあらゆる状態異常と傷を癒すアイテム。
ただしそれは、錬金術でしか生みだせない産物……わたしではどうにもできません。
なのでわたしが治療することで時間を稼ぐことで、プーチが必要数を揃えられるように魔法を使っていました。
きっとメルであれば、片手間で作れるアイテムなのでしょう……それでも、今回だけはメルに頼ってはいけません。
「……“解毒回復”、“解毒回復”!」
「次は“解痺回復”ですが……本当に、休まれなくてよろしいのでしょうか?」
「構いません。それよりも、次の場所へ」
この教会では、患者の症状に合わせて必要な魔法を施しています。
浮遊魔法もありますので、同じ場所には同じ魔法で治せる方々が集まっていました。
次に向かった場所でも、“解痺回復”を施していきます。
お話によると、おおよそ三時間ほどはこれで安定するとのこと。
石化、眠り、魔力操作の不調など、さまざまな症状で悩まされる人々を治します。
メルのお陰で回復魔法への理解度が深まっているため、今はまだ治せていました。
「……この先は複合された状態異常の方々です。一つひとつ解除することは難しく、一度に治す必要があります」
「分かりました──“異常恢復”!」
使う魔力もその分多くなる代わりに、複数の状態異常を治すことができる魔法です。
できるだけ魔力を浪費しないよう、繊細な魔力操作で魔法を完成させました。
それを何度も繰り返して、苦しむ患者さんへ行います。
強張った顔は緩んでいきますが……体に刻まれたネズミの跡は消えませんでした。
「くっ……魔力が」
「ポーションを飲んでください。それから、しばらくは自然回復に委ねてください」
「で、ですが……」
「すでに十本目です。これ以上は、中毒症状に罹る可能性が高くなりますよ」
ポーションでの回復量が減衰し、最終的にポーションを受け付けなくなる中毒症状。
一度罹ればしばらくその症状が続いてしまうので、治療どころでは無くなります。
「……分かりました」
「あなたは立派にやっています。まるで、聖女様のようです」
「……ありがとうございます」
休むと認識した瞬間、体からドッと疲れが噴き出してきました。
言い返す気力も失われ、自分がただの人でしかないことを伝えられません。
案内された場所に座ると、目を閉じて集中します。
このままでは完治までに時間が掛かる……ならば、それを早める必要がありました。
「はぁ、はぁ……ふぅ──“活魔”」
魔力の自然回復速度を高め、すぐに再開するための準備を行います。
メルにやり方は習っています……大気から魔力を取り込むイメージでした。
「……結局、メルに頼ってばかりですね」
これまでも、そして今も……ですが、これからはそうじゃないと決めています。
借りモノばかりのわたしですが、せめてメルに追いつくための力を手に入れたい。
「だから……頑張らないと」
「もう、平気なのですか?」
「はい。少しでも多く、速く治さないと。わたしの仲間たちが、手段を見つけてくれているはずです」
プーチはネズミの能力に効く薬の錬成を。
ディオンはプーチの護衛、シガンたちは薬に必要な素材集め……みんながみんな、力を合わせています。
おそらく、わたしが【慈愛】を使いこなせば薬は必要ありません。
未熟なわたしと違い、メルが動いても治すことができるでしょう。
……今は、自分の力不足を嘆く時ではありませんでしたね。
今の自分にできること、少しでも患者に皆さんが苦しまないように頑張らないと!
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