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偽善者と公害対策 二十五月目

偽善者と旅での修行 その05

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 俺とクラーレ、そしてプーチは魔物の被害で負傷した人々を癒すことになった。
 ……まあ、俺は最終手段なので、最期・・まで何もする気は無いが。

「というわけで、ここが教会でーす!」

「「…………」」

「いやー、そんな目で見ないでほしいなー。特にプーチお姉ちゃん、人を殺せるレベルで汚物扱いしているからね」

「……姿はメルでもー、クソ野郎だったわ」


 後半は普段の伸びた口調もなく、吐き捨てるように告げるプーチ。
 時折それを諫めてくるクラーレも、今回ばかりは完全にスルーしていた。


「まあまあ、私が何もしないための特訓だったんだからね? ちゃんとサポートはするから、頑張ってね……どういう結果でも、それは必ずますたーに影響を及ぼすんだから」

「! ……プーチ、行きましょう」

「うーん、了解ー」


 彼女たちは依頼人の下へ向かい、これからやるべきことを聞くことになる。
 俺はメルモードなので、気にされない……が、このままだと厄介事が起きてしまう。


「隠れないと──“隠光ハイドライト”」

「あら? 今、ここに女の子がいたように見えたのだけど……気のせいかしら?」


 光系統の魔法で身を隠す。
 そう、教会で子供が彷徨っていたら、間違いなくシスターに捕まる。

 今はクラーレたちも庇ってくれなさそうなので、そのまま行き先は──孤児院!
 子供……いや、ガキどもに巻き込まれるのは依頼の時だけで充分なのだ。


「さて、と……見ているかな──ガー?」

《メルス様……本当によろしいのですか?》

「何が、とは言わないよ。私に命じられたから、嫌々だけど仕方がない、なんて後腐れしか無い関係なら、最初からやらない方がいいもんね。私はガーの意志を尊重する」

《ありがとうございます、メルス様》


 腰に提げたラッパを介して、ガーはクラーレがどう振る舞うかを観察している。
 実際にその目で判断して、決めてもらうために誘っておいたのだ。

 ガーも俺が命令と言えば、クラーレに協力していただろう。
 だがそれでは、ロクでもない結果しか訪れない……なんとなく、そう思った。


「ますたーはやるよ。きっと【慈愛】は応えるし、ガーも認めてくれると思う」

《……私が信じ、愛を捧げるのは、メルス様ただ御独りです》

「うん、ありがとうね。ガーは家族のみんなにも、そう言って優しくしてくれる。想いは一つじゃない。信愛じゃない、家族愛で。ますたーにも、友愛を抱けるかどうかを見てもらう……それが今回の目的なんだから」

《……はい、そうですね。メルス様は……とても、彼女たちを大切にしているのですね》


 ガーの想いが伝わってくる。
 決して【嫉妬】ではなく、そこに宿るのは単純な寂しさ。


「ガー、私たちは私たちだけで生きていけるわけじゃない。私から生まれたガーが、分からないはずないよね? ──大切の形・・・・

《メルス様は私たちを愛してくださり、私たちもメルス様を愛しております。これは揺るがない事実、ですが……》

「うん、他の関係にはなれないよ。少なくとも、ますたーたちみたいな間柄にはね」


 いつでも彼女たちは俺を追い出すことができるし、俺も抜け出すことができる。
 それでもそうしないのは──互いに今の関係を、そう悪いモノではないと思うから。

 俺と眷属……特に武具っ娘たちは、最初から関係が定まっている。
 そう在るべきと俺が望み、そう在りたいと受け入れてくれたのが彼女たちなのだから。


《彼女を通じて……メルス様の想いを、知ることができるでしょうか?》

「どうだろうね? 止めはしないけど、それだけを目的にはしないでほしいな。ますたーはますたーで、私を知るための道具じゃないよ。ますたー自身の価値を、ガーには見定めてほしいかな?」

《……分かりました。メルス様、今回は私の想いで判断をさせていただきます》

「ありがとう、ガー」


 悪いことをさせてしまった。
 ガーに寂しい思いをさせていたのは、俺がそれに気づけなかったからだ。

 完璧な人間……いや、『選ばれし者』ならば正しい対応もできただろう。
 しかし、俺は凡庸な人間で、人並み以下の対人性能コミュりょくしか持ち合わせていない。


「眷属のみんなに足りないものは、自分たちで補うしかない。私はそれを支えるけど、私だけじゃ絶対に全部を補えない」


 俺が彼女たちに求めるのは家族。
 しかし、世の中にはさまざまな対人関係が存在し、それらすべてを俺がカバーすることなど到底できない。


「それじゃあ、ますたーが何をするのかいっしょに観ようね。念話でサポートして、私は介入しない。もし、ダメだったら……ガーの言うとおりにする。これでいいよね?」

《はい、お願いします》


 俺とガーの密談を、クラーレに教えることはない。
 彼女は彼女だけの意志で、果たすべきことが無数に存在する。

 俺はさまざまなモノを与えた。
 彼女もまた、俺にさまざまなモノを与えてくれた……なればこそ、対等な関係として俺は振る舞う。


「奇跡を起こすとき、ますたーはどんな在り方を望むのかな?」


 魔法で隠れ、傍観者を気取り……俺はそんなことを呟くのだった。


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