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偽善者と公害対策 二十五月目
偽善者と旅での修行 その05
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連続更新となります(09/12)
===============================
俺とクラーレ、そしてプーチは魔物の被害で負傷した人々を癒すことになった。
……まあ、俺は最終手段なので、最期まで何もする気は無いが。
「というわけで、ここが教会でーす!」
「「…………」」
「いやー、そんな目で見ないでほしいなー。特にプーチお姉ちゃん、人を殺せるレベルで汚物扱いしているからね」
「……姿はメルでもー、クソ野郎だったわ」
後半は普段の伸びた口調もなく、吐き捨てるように告げるプーチ。
時折それを諫めてくるクラーレも、今回ばかりは完全にスルーしていた。
「まあまあ、私が何もしないための特訓だったんだからね? ちゃんとサポートはするから、頑張ってね……どういう結果でも、それは必ずますたーに影響を及ぼすんだから」
「! ……プーチ、行きましょう」
「うーん、了解ー」
彼女たちは依頼人の下へ向かい、これからやるべきことを聞くことになる。
俺はメルモードなので、気にされない……が、このままだと厄介事が起きてしまう。
「隠れないと──“隠光”」
「あら? 今、ここに女の子がいたように見えたのだけど……気のせいかしら?」
光系統の魔法で身を隠す。
そう、教会で子供が彷徨っていたら、間違いなくシスターに捕まる。
今はクラーレたちも庇ってくれなさそうなので、そのまま行き先は──孤児院!
子供……いや、ガキどもに巻き込まれるのは依頼の時だけで充分なのだ。
「さて、と……見ているかな──ガー?」
《メルス様……本当によろしいのですか?》
「何が、とは言わないよ。私に命じられたから、嫌々だけど仕方がない、なんて後腐れしか無い関係なら、最初からやらない方がいいもんね。私はガーの意志を尊重する」
《ありがとうございます、メルス様》
腰に提げたラッパを介して、ガーはクラーレがどう振る舞うかを観察している。
実際にその目で判断して、決めてもらうために誘っておいたのだ。
ガーも俺が命令と言えば、クラーレに協力していただろう。
だがそれでは、ロクでもない結果しか訪れない……なんとなく、そう思った。
「ますたーはやるよ。きっと【慈愛】は応えるし、ガーも認めてくれると思う」
《……私が信じ、愛を捧げるのは、メルス様ただ御独りです》
「うん、ありがとうね。ガーは家族のみんなにも、そう言って優しくしてくれる。想いは一つじゃない。信愛じゃない、家族愛で。ますたーにも、友愛を抱けるかどうかを見てもらう……それが今回の目的なんだから」
《……はい、そうですね。メルス様は……とても、彼女たちを大切にしているのですね》
ガーの想いが伝わってくる。
決して【嫉妬】ではなく、そこに宿るのは単純な寂しさ。
「ガー、私たちは私たちだけで生きていけるわけじゃない。私から生まれたガーが、分からないはずないよね? ──大切の形」
《メルス様は私たちを愛してくださり、私たちもメルス様を愛しております。これは揺るがない事実、ですが……》
「うん、他の関係にはなれないよ。少なくとも、ますたーたちみたいな間柄にはね」
いつでも彼女たちは俺を追い出すことができるし、俺も抜け出すことができる。
それでもそうしないのは──互いに今の関係を、そう悪いモノではないと思うから。
俺と眷属……特に武具っ娘たちは、最初から関係が定まっている。
そう在るべきと俺が望み、そう在りたいと受け入れてくれたのが彼女たちなのだから。
《彼女を通じて……メルス様の想いを、知ることができるでしょうか?》
「どうだろうね? 止めはしないけど、それだけを目的にはしないでほしいな。ますたーはますたーで、私を知るための道具じゃないよ。ますたー自身の価値を、ガーには見定めてほしいかな?」
《……分かりました。メルス様、今回は私の想いで判断をさせていただきます》
「ありがとう、ガー」
悪いことをさせてしまった。
ガーに寂しい思いをさせていたのは、俺がそれに気づけなかったからだ。
完璧な人間……いや、『選ばれし者』ならば正しい対応もできただろう。
しかし、俺は凡庸な人間で、人並み以下の対人性能しか持ち合わせていない。
「眷属のみんなに足りないものは、自分たちで補うしかない。私はそれを支えるけど、私だけじゃ絶対に全部を補えない」
俺が彼女たちに求めるのは家族。
しかし、世の中にはさまざまな対人関係が存在し、それらすべてを俺がカバーすることなど到底できない。
「それじゃあ、ますたーが何をするのかいっしょに観ようね。念話でサポートして、私は介入しない。もし、ダメだったら……ガーの言うとおりにする。これでいいよね?」
《はい、お願いします》
俺とガーの密談を、クラーレに教えることはない。
彼女は彼女だけの意志で、果たすべきことが無数に存在する。
俺はさまざまなモノを与えた。
彼女もまた、俺にさまざまなモノを与えてくれた……なればこそ、対等な関係として俺は振る舞う。
「奇跡を起こすとき、ますたーはどんな在り方を望むのかな?」
魔法で隠れ、傍観者を気取り……俺はそんなことを呟くのだった。
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俺とクラーレ、そしてプーチは魔物の被害で負傷した人々を癒すことになった。
……まあ、俺は最終手段なので、最期まで何もする気は無いが。
「というわけで、ここが教会でーす!」
「「…………」」
「いやー、そんな目で見ないでほしいなー。特にプーチお姉ちゃん、人を殺せるレベルで汚物扱いしているからね」
「……姿はメルでもー、クソ野郎だったわ」
後半は普段の伸びた口調もなく、吐き捨てるように告げるプーチ。
時折それを諫めてくるクラーレも、今回ばかりは完全にスルーしていた。
「まあまあ、私が何もしないための特訓だったんだからね? ちゃんとサポートはするから、頑張ってね……どういう結果でも、それは必ずますたーに影響を及ぼすんだから」
「! ……プーチ、行きましょう」
「うーん、了解ー」
彼女たちは依頼人の下へ向かい、これからやるべきことを聞くことになる。
俺はメルモードなので、気にされない……が、このままだと厄介事が起きてしまう。
「隠れないと──“隠光”」
「あら? 今、ここに女の子がいたように見えたのだけど……気のせいかしら?」
光系統の魔法で身を隠す。
そう、教会で子供が彷徨っていたら、間違いなくシスターに捕まる。
今はクラーレたちも庇ってくれなさそうなので、そのまま行き先は──孤児院!
子供……いや、ガキどもに巻き込まれるのは依頼の時だけで充分なのだ。
「さて、と……見ているかな──ガー?」
《メルス様……本当によろしいのですか?》
「何が、とは言わないよ。私に命じられたから、嫌々だけど仕方がない、なんて後腐れしか無い関係なら、最初からやらない方がいいもんね。私はガーの意志を尊重する」
《ありがとうございます、メルス様》
腰に提げたラッパを介して、ガーはクラーレがどう振る舞うかを観察している。
実際にその目で判断して、決めてもらうために誘っておいたのだ。
ガーも俺が命令と言えば、クラーレに協力していただろう。
だがそれでは、ロクでもない結果しか訪れない……なんとなく、そう思った。
「ますたーはやるよ。きっと【慈愛】は応えるし、ガーも認めてくれると思う」
《……私が信じ、愛を捧げるのは、メルス様ただ御独りです》
「うん、ありがとうね。ガーは家族のみんなにも、そう言って優しくしてくれる。想いは一つじゃない。信愛じゃない、家族愛で。ますたーにも、友愛を抱けるかどうかを見てもらう……それが今回の目的なんだから」
《……はい、そうですね。メルス様は……とても、彼女たちを大切にしているのですね》
ガーの想いが伝わってくる。
決して【嫉妬】ではなく、そこに宿るのは単純な寂しさ。
「ガー、私たちは私たちだけで生きていけるわけじゃない。私から生まれたガーが、分からないはずないよね? ──大切の形」
《メルス様は私たちを愛してくださり、私たちもメルス様を愛しております。これは揺るがない事実、ですが……》
「うん、他の関係にはなれないよ。少なくとも、ますたーたちみたいな間柄にはね」
いつでも彼女たちは俺を追い出すことができるし、俺も抜け出すことができる。
それでもそうしないのは──互いに今の関係を、そう悪いモノではないと思うから。
俺と眷属……特に武具っ娘たちは、最初から関係が定まっている。
そう在るべきと俺が望み、そう在りたいと受け入れてくれたのが彼女たちなのだから。
《彼女を通じて……メルス様の想いを、知ることができるでしょうか?》
「どうだろうね? 止めはしないけど、それだけを目的にはしないでほしいな。ますたーはますたーで、私を知るための道具じゃないよ。ますたー自身の価値を、ガーには見定めてほしいかな?」
《……分かりました。メルス様、今回は私の想いで判断をさせていただきます》
「ありがとう、ガー」
悪いことをさせてしまった。
ガーに寂しい思いをさせていたのは、俺がそれに気づけなかったからだ。
完璧な人間……いや、『選ばれし者』ならば正しい対応もできただろう。
しかし、俺は凡庸な人間で、人並み以下の対人性能しか持ち合わせていない。
「眷属のみんなに足りないものは、自分たちで補うしかない。私はそれを支えるけど、私だけじゃ絶対に全部を補えない」
俺が彼女たちに求めるのは家族。
しかし、世の中にはさまざまな対人関係が存在し、それらすべてを俺がカバーすることなど到底できない。
「それじゃあ、ますたーが何をするのかいっしょに観ようね。念話でサポートして、私は介入しない。もし、ダメだったら……ガーの言うとおりにする。これでいいよね?」
《はい、お願いします》
俺とガーの密談を、クラーレに教えることはない。
彼女は彼女だけの意志で、果たすべきことが無数に存在する。
俺はさまざまなモノを与えた。
彼女もまた、俺にさまざまなモノを与えてくれた……なればこそ、対等な関係として俺は振る舞う。
「奇跡を起こすとき、ますたーはどんな在り方を望むのかな?」
魔法で隠れ、傍観者を気取り……俺はそんなことを呟くのだった。
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