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偽善者と公害対策 二十五月目

偽善者と旅での修行 その04

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「これは……どういった状況なのだ?」

「ディオンお姉ちゃん、世の中には知らなくていいこともあるんだよ」

「そ、そうなのか……ではない! 二人が倒れているではないか!」

「うん、状況だけ見ればそうだよね」


 帰ってきた『月の乙女』のメンバーたち。
 彼女たちが目にしたのは、ベッドの上に寝かされたクラーレとプーチ。

 俺は椅子に座って、そんな彼女たちを見ていたのだが……事案とか、無いよな?


「メル、今は何をやっていたの?」

「一時的に体を動かせないようにして、精神干渉でいろいろと教えているんだよ。まあ、簡単に言えば夢の中で修業中なんだ」

「それで、その内容は?」

「ますたーは光系統の属性に関するお勉強。造詣が深くなれば、その分魔法の扱いも上手くなるからね。プーチお姉ちゃんは錬金術用の術式を刻んでいるよ。目的が就職だけだから、難易度が高いモノを重点的にね」


 光と言っても説明は多岐に渡る。
 地球なら科学的なアプローチをするのが当然だし、こちらの世界なら神話だの精霊を参考にした捉え方だろう。

 事象の書き換えを行う魔法には、イメージが重要となる。
 クラーレには光の多様な捉え方を覚え、これまでとは異なる使い方を学んでもらう。

 対してプーチの場合、戦闘ではなく安全な場所で生産を行うための知識だ。
 錬金術はレベルを上げることで使える陣の数が増えるのだが、方法はそれ以外もある。

 本などで学び、完璧な陣を使えるようになればいいだけの話。
 ……こちらも魔力や技術で失敗する可能性があるのだが、そこは頑張ってもらう。


「いちおう、みんな用のお勉強プランもあるけど聞いておく?」

「……ええ、いちおう、ね」

「シガンお姉ちゃんは時間と空間への干渉、そしてその上位概念。ディオンお姉ちゃんは私の知っている盾と剣を使う武術。ノエルお姉ちゃんは井島の暫定的な忍術。コパンお姉ちゃんは魔力を視る技術かな」


 おうおう、反応しているな。
 これまでは武具で軽く補うだけでどうにかなっていたが、今のレベルに見合う技術を彼女たちは持ち合わせていない。

 そこに来て、俺の提案は渡りに船だろう。
 寝ているだけで自分に足りないモノを補うヒントが手に入り、強くなる可能性を上げられるわけなのだから。

 しかし、皆が懸念していることもある。
 ……俺の提案が、ただただ自分たちが楽をするだけで目的のモノが手に入るわけではないと、理解していることだ。


「ますたーたちに後で聞いてからやろう、とかそんなことを考えてないよね? やることが全然違うから、参考にならないからね」

「「「「…………」」」」

「私と違って、みんなはこっちの世界で寝ることがほとんど無いから……枕の下に入れて使える学習装置も、使えないんだよね。最悪強制ログアウトになっちゃうし、こうして傍に居ないと……逃げられちゃうからね」

「「「「…………ッ!?」」」」


 本当、強制ログアウトは面倒である。
 普通の[ログアウト]機能は状態異常にしたり接触していれば防げるが、こちらは後でペナルティが起きる代わりに絶対発動だ。

 とりあえずの対策として、それが必要な状態ではないと誤認させることでなんとかしている……ただし、それには俺が近くに居なければならない。

 睡眠学習装置はできるだけ抑えているのだが、完璧に防ぐことはできないでいる。
 ……なぜそんなことになるのか、察した彼女たちは少々引いていた。


「まあ、成果についてはこれからの二人を視れば分かると思うよ。それより、そろそろ起こしてあげないとね。シガンお姉ちゃんたちが見つけてきた情報を、共有しないと」


 先に精神に再度干渉して、一度中止することをお知らせしてから起こすことにしよう。
 強制中断をすると問題が生じるかもしれないし、念には念を入れておくぞ。


  ◆   □   ◆   □   ◆


「──魔物の後始末、ですか?」


 寝起きのクラーレは目蓋の近くを擦りながら、シガンに尋ねる。
 冒険ギルドで見つけてきたのは、どうやら他の祈念者が終わらせた依頼のようだ。


「つい最近、この町の近くで魔物が大量発生して、もうボスの駆除は終わった。けど、まだ残りがいるらしいの。私たちは二手に分かれて、片方がその処理を行うわ」

「もう片方は何を? それに、どういった編成なのですか?」

「そこはもう、メルと決めておいたわ。二人と護衛としてディオンには、被害者の治療に行ってもらうわ。クラーレは回復、プーチはポーションで治療すればいいでしょう?」


 寝ている間に得たモノは知識と感覚のみ。
 スキルのレベルや熟練度を上げるならば、起きた状態で実際に使わねばならない。

 依頼を介して力を試す。
 そこには自由民たちの生き死にが関わっているので、本来以上の力を発揮しなければという意志が生まれる。


「ますたー、これは試練だよ」

「……人の命を使う、それがですか?」

「今回、私は助けない。この格好はたしかにシスターとしても機能するけど、それ以上にもっといい使い方ができるんだよ──死体を使うことなんかにはね」

「メル……まさか!」


 アイの試練を経て得た物だから、生だけでなく死に関する能力も使えるわけだ。
 俺の縛りは聖職者……アイのような行いを目指すので、ギリギリセーフだろう。


「メル……! シガン、これもあなたが了承したのですか!?」

「信じているもの、二人を。メルがやるというからには本当にやるだろうけど、それは二人が失敗したら。二人が成功するように支えることは誓わせているし、折れるまでは何もしないと言ったわ」

「私だって、ますたーたちが嫌がることがしたいわけじゃないよ。あくまで縛りの中で、もっとも効率的にますたーを育てようとしているだけ。──死んだ人に【慈愛】を捧ぐ、これなんてピッタリだよね?」


 ガーに武具を創ってもらう方法の中に、そういう提案があったのも事実。
 ……死に対する【慈愛】を持てるならば、考える余地ぐらいは生まれると。


「ねぇ、ますたーは奇跡を起こせる。それは万人を救い、偉業と称えられる。望めば死人だって、何人だって救える……そんな力があるますたーは、どうするのかな?」


 彼女が彼女である以上、避けては通れない分水嶺を用意した。
 ただ、これはまだ始まりに過ぎない……どうあるべきか、今の内に知っておくべきだ。


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