上 下
1,640 / 2,519
偽善者と公害対策 二十五月目

偽善者と東の北奥 その17

しおりを挟む
連続更新となります(03/12)
===============================



「解体解体っと」


 後腐れなくユニーク種を解体できる、絶好の機会だった。
 取り出すのは『狂愛包丁』、手に入るアイテムを根こそぎ手に入れる魔武具である。

 さっそく包丁を差し込もうとする俺だったが、そこに待ったを入れる者が現れた。


《メルス、少し待ってほしい》

「……ん? 呪いが発動する前に、さっさと解体したいんだが?」

《そのイナゴの魂魄、吾に寄越してほしい》

「…………まあ、解体すると魂魄はリソース化されるからな。なら、先にネロが抽出しておいた方がいいか」


 ユニーク種がドロップするアイテムの内、概念系……つまり生前のユニーク種の能力がアジャストされたアイテムには、本当にその個体の魂魄が用いられている。

 なので事前に処理をしなければ、魂魄の大半がアイテム化に使用されてしまう。
 魂魄を有効的に活用したネロとしては、そのような事態は避けたいのだ。


「それに、包丁があれば強引にアイテム化させられるからいいぞ。“着色自在カラーリング”……これで外から見えないから、出てきていいぞ」


 物に色を付ける、そんなネタのようで有効な魔法で氷を半透明から白色に染め上げる。
 その状態で影に話しかけると、影から波紋が生まれ……ネロが出てくる。


「では、さっそく行われてもらおう……ふふふっ、ユニーク種の魂魄はかつての吾では掴めなかったからな。だが、今の吾であれば話は別! 今こそ、その謎に満ちた構造のすべてを暴いてみせよう!」

「あー、はいはい、頑張ってなー」


 ネロがこれから行うのは、俺ではまったく理解できない儀式染みたアレやコレだ。
 気にしても仕方が無いので、しばらくは放置するしかない。

 放置した[コウジュコウ]の死体が心配ではあるが、ネロに包丁を渡してある。
 終わったらすぐに解体して、アイテム化してくれることを信じよう。


「ちょうどセットしてあったし、転移もこれでできるな──“水鏡転陣ミラーポーター”」


 触媒として立てた『水柱ウォーターピラー』を目印に、氷の中から柱の一つに転移する。
 未だに尾は生やした状態、つまり聖水や死によって呪力が高まった呪水もたっぷり。


「盛り上がろうぜ──“放圧水炮ハイドロカノン”!」


 膨大な量の水をたっぷりと使い、頭が死んだことで混乱している『呪殖蝗カースドローカスト』たちに向けてソレを放つ。


「──“送水道路フロードコネクト”、“水進ウォータードライブ”!」


 水の柱の上からピョンっと降りると、瞬時に生成された水路がイナゴたちの下へ向かう道を築き上げた。

 事前に使った“水上歩ウォーターウォーク”の魔法により、俺は水の上を自在に動ける。
 ついでに“水剣ウォーターソード”を唱えて聖(水の)剣を生みだし、近接戦の準備をしておく。


「さて、ネロが帰ってくるまではだいぶ暇だしな……最後の無双でもしますか」


 やり過ぎてもネロのお陰とか言っておけば問題ないし、水魔法でどこまでできるのか試しておきたい。

 足りない部分は後で補えるように、また魔法を開発してもらうことにしよう。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 イナゴ狩りに励んでしばらく、掃滅することに成功した義勇軍たち。
 俺が地道に厄介な呪力持ちを屠っていたのも理由だが、大半は彼らが頑張ったからだ。

 怪我人を治すネロ(ドッペルゲンガー)の負担も少しずつ減り、“聖域”の効果を高められたことも理由だ……という演出をして、さらにネロへの信仰度を上げておいた。

 対して、本当のネロは──


「ぐふふふ、この魂魄の昏さ。呪力の影響がここまであるとは……魔虫程度の魂魄と初めは思っていたが、その単純さゆえに呪力への親和性も高かったということかもしれぬな」

「おーい、人としての尊厳を忘れかけた顔は止めてくれ」

「っと……せっかく分析をしていたというのに、無粋な男だ」

「自分の家族がそんな人に見せられない顔をしているのを止めない奴は、男とか家族である前に人としてダメだと思う」


 俺の身の回りでは科学者や何かにどっぷり嵌るぐらい好きな奴なんかが、だいたい同じような顔をするので慣れてきた。

 男なら魔法でどつき、女ならまずは言葉でその深度を確認したうえで魔法を使う。
 眷属ならば可能な限り言葉で語り掛け、ダメならとある方法で呼び起こす。

 対処に差があるのは当然だし、いつまでも言葉だけでなんとかしようとする無意味さも学習済みなのだ。


「それで、何かいいアイテムはドロップしたのか?」

「これだな」

「……お香?」


 イメージ的にはお香というよりアロマのような感じだが、ジャパニーズな俺である。
 ネロが差し出したそのアイテムを視て、名前はやっぱりお香だったと知った。 


「使いどころに困る……というか、俺には不要かもしれないな。今の縛り状態でアジャストされたせいか?」

「いや、そうではなかろう。メルスのアレでは対処できぬものも、いずれ現れるかもしれぬぞ。そうなったとき、これが力になる可能性もある」

「……まあ、こっちの方が効果の解釈は広めだしな」


 そんなお香が再び登場し、活躍するのははるか先のことである…………かもしれない。
 妖しくも心を落ち着かせる地面の匂いがするお香は、その出番の時を待つのだった。


しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

ヒトナードラゴンじゃありません!~人間が好きって言ったら変竜扱いされたのでドラゴン辞めて人間のフリして生きていこうと思います~

Mikura
ファンタジー
冒険者「スイラ」の正体は竜(ドラゴン)である。 彼女は前世で人間の記憶を持つ、転生者だ。前世の人間の価値観を持っているために同族の竜と価値観が合わず、ヒトの世界へやってきた。 「ヒトとならきっと仲良くなれるはず!」 そう思っていたスイラだがヒトの世界での竜の評判は最悪。コンビを組むことになったエルフの青年リュカも竜を心底嫌っている様子だ。 「どうしよう……絶対に正体が知られないようにしなきゃ」 正体を隠しきると決意するも、竜である彼女の力は規格外過ぎて、ヒトの域を軽く超えていた。バレないよねと内心ヒヤヒヤの竜は、有名な冒険者となっていく。 いつか本当の姿のまま、受け入れてくれる誰かを、居場所を探して。竜呼んで「ヒトナードラゴン」の彼女は今日も人間の冒険者として働くのであった。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

World of Fantasia

神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。 世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。 圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。 そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。 現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。 2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。 世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。

死んで全ての凶運を使い果たした俺は異世界では強運しか残ってなかったみたいです。〜最強スキルと強運で異世界を無双します!〜

猫パンチ
ファンタジー
主人公、音峰 蓮(おとみね れん)はとてつもなく不幸な男だった。 ある日、とんでもない死に方をしたレンは気づくと神の世界にいた。 そこには創造神がいて、レンの余りの不運な死に方に同情し、異世界転生を提案する。 それを大いに喜び、快諾したレンは創造神にスキルをもらうことになる。 ただし、スキルは選べず運のみが頼り。 しかし、死んだ時に凶運を使い果たしたレンは強運の力で次々と最強スキルを引いてしまう。 それは創造神ですら引くほどのスキルだらけで・・・ そして、レンは最強スキルと強運で異世界を無双してゆく・・・。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。

荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品 あらすじ  勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。  しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。  道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。  そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。  追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。  成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。  ヒロインは6話から登場します。

処理中です...