上 下
1,639 / 2,518
偽善者と公害対策 二十五月目

偽善者と東の北奥 その16

しおりを挟む
連続更新となります(02/12)
===============================


「──『水柱ウォーターピラー』」


 触媒の水は用意せず、属性魔法士や精霊しか習得できない水魔法を発動する。
 ……理論上、術式を自前で用意すれば発動できるのだ。

 至る所で吹き上がる膨大な水。
 それらはイナゴたちを阻む壁のようにも、有志たちを守る盾のようにも思える。

 しかし、正解はどちらでもない。
 その答えはすぐに、俺が発動する魔法が証明することになる。


「──“激流トレント”、“送水道路フロードコネクト”」


 今度は水の柱を触媒にして、二つの魔法を発動した。
 一つ目の魔法はただの水を溢れさせ、強引に激流と化す魔法。

 それによって勢いが増し、イナゴたちを呑み込み始めた水流に二つ目の魔法を使う。
 これは“氷路トリムライン”に似た魔法なのだが、触媒が水な点と同種魔法の上位版な点が違いである。

 水から道を生みだし、それをさまざまな水源と繋げることができる“送水道路”。
 それによって俺の足元まで、水の柱まで向かう道が生成された。


「──“水上歩ウォーターウォーク”、“水進ウォータードライブ”」


 水の上を歩ける魔法、そして水を踵から噴射して加速する魔法で準備は万端。
 無数の“水尾ウォーターテール”で生やした尻尾が揺れ動く中、俺は水の上を駆け抜ける。


「武器も調達しないと──“水剣ウォーターソード”」


 こちらはオリジナルの魔法。
 尾の水を触媒に、二本の剣を生みだして握り締める。

 そのどちらも聖水で生みだされており、呪力をエネルギー源とするイナゴ『呪殖蝗カースドローカスト』にはとても有効的だ。


「なんちゃって武技──『双刻回斬スピニングソード』」


 武技の動きを再現した、不完全な動き。
 剣、もしくは体自体を回転させて周囲の者に斬撃を刻み込む。

 イナゴたちは聖水の剣を体に受け、呪力が払われ絶命する。
 ……呪力で歪に生かされているみたいで、その元を断つとこうなるのだ。


「──“水刃ウォーターエッジ”」


 水を刃にして飛ばす魔法。
 水の剣を触媒にすれば、振るうたびに斬撃が飛ぶようにできる。

 その分聖水が減ってしまうが、減った分だけ補っているので使いたい放題だ。
 舞うように剣を振り、イナゴたちを屠りながら突き進み……辿り着く。


「[コウジュコウ]。お前を潰せば、アイツらだけでもどうにかなりそうだ。さぁ、俺のために死んでくれ──“氷柱針アイシクルスピア”」


 足元の水が一部氷へ、[コウジュコウ]に向けて飛んでいく。
 ただの水なので攻撃にはならないが、それでも目晦ましぐらいにはなる。

 氷の飛沫が飛び散る中、新たな魔法を構築していく。
 それは“送水道路”で描く道を、すべて触媒とした大規模な魔法。


「──“氷結世界グラシエイト”」


 水路は[コウジュコウ]を包み込む球体の形をしており、それらが凍っていく。
 つまりは、俺と[コウジュコウ]だけを閉じ込める密閉空間が生まれたわけだ。


「正々堂々、勝負しようぜ」

『──!』

「開幕早々厄介だな──“水盾《ウォーターシールド》”」


 呪力の塊が飛んでくるので、尾の一部を触媒にしてそれを防ぐ。
 まだ使っていなかった『純水』、その性質は他を受け入れやすい親和性。

 呪力の塊を呑み込んだ純水は、その色を黒く禍々しいモノへ変質させていく。
 その結果に一満足し、『収納袋《マジックバック》』に仕舞いこんで奪われないように確保した。

 だが[コウジュコウ]としては、いつ同じ方法を取られるのか警戒するはずだ。
 遠距離から呪力を放つ選択は封印され、奴は呪力を武具のように体へ纏っていく。


「──“滑氷スケート”、“破氷槌アイスバンカー”」


 氷の舞台用に新たな魔法を準備しつつ、辺りの氷から生みだした破城槌で殴りつける。
 至る所から現れたそれらだが、呪力の壁はそれでも砕けない。

 しかし、再び布石が蓄積される。
 氷の飛沫が砕けたことで生まれ、少しずつ[コウジュコウ]の足元で蓄積されていく。

 まだ足りない。
 ネロ(ドッペルゲンガー)の“聖域”もそう長く持たないので、蹴りを付けたい……使うしかないか。


「──“凍結鏡地ミラーバーン”、“氷操作アイスコントロール”」


 氷の性質が書き換わり、スケートリンクのように滑らかなものとなる。
 しかし、それだけではなく氷の上に広がる無数の氷でできた剣山。


「『水払いウォータークリーブ』、『氷断ちアイスカット』」


 水が引き起こす現象を破壊する武技と、その氷版となる武技を再現する。
 剣山はキラキラと光り輝き、辺り一面に降り注いでいく。

 当然、[コウジュコウ]の周りにもそれは集まっており……準備ができた。


「凍れ──“永劫凍土《エターナルブリザード》”」


 武技を使っていたのは水の剣、そしてそれは聖水によって創られたもの。
 氷の飛沫にはその成分も混ざっており……[コウジュコウ]の周りが一気に凍てつく。

 これまでのような抵抗は、聖水の力が激しく拒絶する。
 時間を掛ければ突破してくるかもしれないが、そんな時間を用意する気はない。


「これで終わりだ──“停滞氷獄ニブルヘイム”」


 すべてのエネルギー運動が停止する。
 俺の保有魔力をごっそり持っていく対価として、そんな異常な事象を起こすこの魔法。

 呪力も、[コウジュコウ]の命の鼓動すらゆっくりと動きを遅めていき……眠るように[コウジュコウ]は生命の活動を止めた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?

破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。 そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。 無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた… 表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと イラストのurlになります 作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)

虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

処理中です...