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偽善者と公害対策 二十五月目
偽善者と東の北奥 その15
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再び連続更新となります(01/12)
===============================
お偉い様の作戦はこうだ。
ネロ(ドッペルゲンガー)の魔力がそう長くは持たないので、可能な限り早めに決着を付けたい。
なので有志を募り、攻撃に出る。
呪力に蝕まれる可能性は、用意した魔法薬でどうにかしてくれるそうだ。
「……どう思う?」
《無茶だな。ポーション……いや、こちらの島国では魔法薬だが、たしかに一時的に状態異常を無効化できるものもある。だが、ヤツの呪力はその程度では防げぬだろう。せめてメルスの品であれば、話は別であろうが》
「それを言ったらお仕舞だろう。せっかく用意してくれた、超高額の魔法薬だぞ? 大切に使ってやらないと……まあ、死にたくないから俺は使わないけど」
レアな素材を使って作成する魔法薬。
東洋版のポーション……とかそういうことではなく、単純な読み方の違いである。
なぜなら錬金術で作成するため、アイテムの名前は違っても出来る物はほぼ同じ。
素材の違いで多少性能に差はあるものの、効能そのものはだいたい似たり寄ったりだ。
今回使うのは、ちょっと高額だが一定時間内に発生するであろう状態異常が防げる品。
品質によって、防げる状態異常の強さが変化するのだが……今回は特にキツイ。
ただの呪いならまだしも、呪いに特化したユニーク種[コウジュコウ]の代物だ。
相当品質が高いならともかく、配れるような廉価版だと耐えられないだろう。
「──でまあ、俺は志願したわけだ。今は水系統の魔法しか使えないから、念入りに準備しておかないと」
《ふむ、何をするのだ?》
「それは見てのお楽しみだな。一つ約束すると──周りは間違いなく引く」
《なるほど、それは面白そうだ》
約束できてしまうほど、確約された未来。
そこに向かう第一歩、そのために必要なアイテムを俺は準備するのだった。
◆ □ ◆ □ ◆
水魔法といえば、使うのは水である。
大気中の魔力から水を生みだすよりも、当然ながら自然界に存在する水を触媒に使った方が魔力の消費も軽くて済む。
……ならばそれ以外にも、水を触媒にする利点があるだろう。
具体的には、魔力で作る水よりも──その純度を調整できる点とか。
「──だいぶ片付いてきたな」
現在、俺の周りには誰も居ない。
それは『呪殖蝗』を倒すために砦から出た有志だけでなく、その討伐対象であるイナゴもである。
その理由は当然、俺にあった。
問題点を分かりやすく描写するなら──尻尾のように生えている、色取り取りな水が原因である。
《なるほど、考えたモノだ。水を触媒とするならば、それが純水や自然界にある水そのものでなくとも良い。毒水や薬液、それに……聖水でも良いわけか》
「そういうこと。水は“水尾”で自律的に動いてもらえばいいわけだし、他の魔法に必要ならその時々に触媒とすればいい」
そう言いながら、“水柱巨砲《|ハイドロポンプ》”で遠くからやってくるイナゴたちを押し返す。
触媒にしたのは聖水、しかも聖気を極限まで籠めた特製の品をぶつけてやった。
ボスである[コウジュコウ]の親衛隊レベルが率いた群れであったが、呪力を聖水が完全に無効化していたので、ただのイナゴに落ちぶれた奴らは瞬時に水圧に押し負ける。
水とはいえ、量が尋常ではない。
勢いよく発射された大量の水が、壁のような強度で高速に迫ってくれば……グチャッという音が、その結果を表していた。
「けど、これをやっているとすぐに水が無くなりそうだよな。まあ、今回のために水用の魔法袋を用意してあるから、尽きる心配はしなくてもいいんだけど」
《わざわざか……無駄遣いだな》
「まあまあ、そういうなよ。ちなみに、今回は使わないけど、やっぱり定番の辛子入りの水とかもあるんだぞ? 対人とか、視覚頼りの魔物相手なんかには使えるよな」
《…………》
呆れられてしまったが、実際に効果があることは確認済み。
便利なんだよなぁ……と思いながらも、今度は毒水を魔法で飛ばしてイナゴを殺す。
「毒もわざわざ科学的な毒にしてあるんだ。呪力は魔力が素で、それを抵抗力にしているから無効化しづらいよな?」
毒、というか酸である。
皮膚に付いた途端イナゴたちをドロドロに融かしていき、そのまま地面に墜とす。
科学的な毒は魔力で強引に代謝や再生力を高めて防ぐこともできるが、今回は魔法である程度ダメージを与えているので対応する間もなく、酸にやられて逝った。
「他の奴らも凄いな……一時的なブーストの間に倒そうと頑張っている」
少し離れた場所では、有志たちが派手なエフェクトが出る攻撃を行っている。
威力はその分凄まじく、確実にイナゴたちが減っていると分かるほどだ。
後ろでは砦からの援護射撃も行われているし、精いっぱい戦っている。
まさに背水の陣、追い込まれた人族による必死の抵抗だった。
《メルスと違い、この機会を逃せば死ぬ可能性があるからな。出し惜しみをせず、自身の出せる最大の力を振り絞っている》
「なんだか嬉しそうだな、ネロ」
《当たり前だ! 命を賭すからこそ、生まれるのが魂魄の輝きだ! 元が小さかろうと、その一瞬だけは誰もが激しく輝いている! 生存という奇跡の対価に、命を支払うからこそ魅せられるほどの光が放たれるのだ!》
要するに、足掻けば足掻くほど魂魄は輝くということだ。
魂魄マニアのネロからすれば、死線を掻い潜る彼らは最高の光を見せるのだろう。
「こればかりは俺だと満足させられないし、彼らに頑張ってもらうか──“水蒸気沫”」
再び聖水を触媒にして使った魔法は、水を水蒸気に変えて泡に閉じ込め、広範囲に届けるというもの。
今回の場合は聖気を届けるという結果になるため……イナゴたちは地獄を見る。
悶え苦しむイナゴたちを見ながら、俺は次の魔法を発動するのだった。
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お偉い様の作戦はこうだ。
ネロ(ドッペルゲンガー)の魔力がそう長くは持たないので、可能な限り早めに決着を付けたい。
なので有志を募り、攻撃に出る。
呪力に蝕まれる可能性は、用意した魔法薬でどうにかしてくれるそうだ。
「……どう思う?」
《無茶だな。ポーション……いや、こちらの島国では魔法薬だが、たしかに一時的に状態異常を無効化できるものもある。だが、ヤツの呪力はその程度では防げぬだろう。せめてメルスの品であれば、話は別であろうが》
「それを言ったらお仕舞だろう。せっかく用意してくれた、超高額の魔法薬だぞ? 大切に使ってやらないと……まあ、死にたくないから俺は使わないけど」
レアな素材を使って作成する魔法薬。
東洋版のポーション……とかそういうことではなく、単純な読み方の違いである。
なぜなら錬金術で作成するため、アイテムの名前は違っても出来る物はほぼ同じ。
素材の違いで多少性能に差はあるものの、効能そのものはだいたい似たり寄ったりだ。
今回使うのは、ちょっと高額だが一定時間内に発生するであろう状態異常が防げる品。
品質によって、防げる状態異常の強さが変化するのだが……今回は特にキツイ。
ただの呪いならまだしも、呪いに特化したユニーク種[コウジュコウ]の代物だ。
相当品質が高いならともかく、配れるような廉価版だと耐えられないだろう。
「──でまあ、俺は志願したわけだ。今は水系統の魔法しか使えないから、念入りに準備しておかないと」
《ふむ、何をするのだ?》
「それは見てのお楽しみだな。一つ約束すると──周りは間違いなく引く」
《なるほど、それは面白そうだ》
約束できてしまうほど、確約された未来。
そこに向かう第一歩、そのために必要なアイテムを俺は準備するのだった。
◆ □ ◆ □ ◆
水魔法といえば、使うのは水である。
大気中の魔力から水を生みだすよりも、当然ながら自然界に存在する水を触媒に使った方が魔力の消費も軽くて済む。
……ならばそれ以外にも、水を触媒にする利点があるだろう。
具体的には、魔力で作る水よりも──その純度を調整できる点とか。
「──だいぶ片付いてきたな」
現在、俺の周りには誰も居ない。
それは『呪殖蝗』を倒すために砦から出た有志だけでなく、その討伐対象であるイナゴもである。
その理由は当然、俺にあった。
問題点を分かりやすく描写するなら──尻尾のように生えている、色取り取りな水が原因である。
《なるほど、考えたモノだ。水を触媒とするならば、それが純水や自然界にある水そのものでなくとも良い。毒水や薬液、それに……聖水でも良いわけか》
「そういうこと。水は“水尾”で自律的に動いてもらえばいいわけだし、他の魔法に必要ならその時々に触媒とすればいい」
そう言いながら、“水柱巨砲《|ハイドロポンプ》”で遠くからやってくるイナゴたちを押し返す。
触媒にしたのは聖水、しかも聖気を極限まで籠めた特製の品をぶつけてやった。
ボスである[コウジュコウ]の親衛隊レベルが率いた群れであったが、呪力を聖水が完全に無効化していたので、ただのイナゴに落ちぶれた奴らは瞬時に水圧に押し負ける。
水とはいえ、量が尋常ではない。
勢いよく発射された大量の水が、壁のような強度で高速に迫ってくれば……グチャッという音が、その結果を表していた。
「けど、これをやっているとすぐに水が無くなりそうだよな。まあ、今回のために水用の魔法袋を用意してあるから、尽きる心配はしなくてもいいんだけど」
《わざわざか……無駄遣いだな》
「まあまあ、そういうなよ。ちなみに、今回は使わないけど、やっぱり定番の辛子入りの水とかもあるんだぞ? 対人とか、視覚頼りの魔物相手なんかには使えるよな」
《…………》
呆れられてしまったが、実際に効果があることは確認済み。
便利なんだよなぁ……と思いながらも、今度は毒水を魔法で飛ばしてイナゴを殺す。
「毒もわざわざ科学的な毒にしてあるんだ。呪力は魔力が素で、それを抵抗力にしているから無効化しづらいよな?」
毒、というか酸である。
皮膚に付いた途端イナゴたちをドロドロに融かしていき、そのまま地面に墜とす。
科学的な毒は魔力で強引に代謝や再生力を高めて防ぐこともできるが、今回は魔法である程度ダメージを与えているので対応する間もなく、酸にやられて逝った。
「他の奴らも凄いな……一時的なブーストの間に倒そうと頑張っている」
少し離れた場所では、有志たちが派手なエフェクトが出る攻撃を行っている。
威力はその分凄まじく、確実にイナゴたちが減っていると分かるほどだ。
後ろでは砦からの援護射撃も行われているし、精いっぱい戦っている。
まさに背水の陣、追い込まれた人族による必死の抵抗だった。
《メルスと違い、この機会を逃せば死ぬ可能性があるからな。出し惜しみをせず、自身の出せる最大の力を振り絞っている》
「なんだか嬉しそうだな、ネロ」
《当たり前だ! 命を賭すからこそ、生まれるのが魂魄の輝きだ! 元が小さかろうと、その一瞬だけは誰もが激しく輝いている! 生存という奇跡の対価に、命を支払うからこそ魅せられるほどの光が放たれるのだ!》
要するに、足掻けば足掻くほど魂魄は輝くということだ。
魂魄マニアのネロからすれば、死線を掻い潜る彼らは最高の光を見せるのだろう。
「こればかりは俺だと満足させられないし、彼らに頑張ってもらうか──“水蒸気沫”」
再び聖水を触媒にして使った魔法は、水を水蒸気に変えて泡に閉じ込め、広範囲に届けるというもの。
今回の場合は聖気を届けるという結果になるため……イナゴたちは地獄を見る。
悶え苦しむイナゴたちを見ながら、俺は次の魔法を発動するのだった。
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