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偽善者と公害対策 二十五月目

偽善者と東の北奥 その14

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 お偉い様がたも事態を重く見て、新しい作戦を立て始めていた。
 まだ[コウジュコウ]率いる『呪殖蝗カースドローカスト』軍は動いていないので、今の内である。


「そもそもこの戦い、接近戦は地獄だからやらないんだよな。遠距離からの攻撃、もしくは範囲攻撃で対応するしかないし」

《呪力に人族が対抗する術は少ない。吾らのように生まれつき耐性を持つ種族であろうとも、あの量は御免である》

「まあ、あれは耐性とか無効じゃダメだな。同化とか吸収みたいな適性が無いと必ず体に害が出てきそうだ」


 無効化スキルは完璧ではない。
 無効を無効にする、なんて鼬ごっこがあるのだから、当然と言えば当然だが。

 対して同化や吸収は、上手く取り込んでいるので悪影響自体は無い。
 そりゃあ、量が多くてダメなことはあるだろうが……食べ過ぎと同じような感じだ。


「ネロでもアレは耐えられないのか?」

《個々の呪いは変換できるだろうが、複数を同時に処理しきれるかどうかが微妙だな。従来のモノならともかく、メルスの言う通り奴はユニーク個体だ。油断はできぬよ》


 ユニーク個体は通常の個体よりも何らかの点で、通常の個体よりも優れている。
 単純に能力値であったり、スキルや種族性質だったり……そこは多岐に渡るそうだ。

 それがもし、呪力特化だった場合は俺でも多少の影響は受けるかもしれない。
 選ばれた才能を、より引き上げられる……ユニーク種とは、そういう存在だからだ。


「──終わったか。やっぱり、普通のイナゴ共とは違った風格みたいなモノがあるな」

《それこそが、ヤツの唯一性を証明していると言えよう。それにしても、凄まじい呪力だな……近づこうにも近づけまい》

「こっちの奴らも、存在に気付いたようだ。呪力の高まりは感じ取れても、ユニーク種の出現までは分からないものだし」


 お偉い様がたの作戦も、呪力の壁が失われたことでさらに更新された。
 大量の符が再度配られ、そこに魔力を籠めるように指示される。


「今だ、“緋槍ヒソウ”を使え!」

『──“緋槍”ッ!!』


 再び飛んでいく炎の槍。
 それはイナゴたちを焼き尽くす……はずなのだが。

 呪力が一瞬高まると、[コウジュコウ]を中心に拡散していく。
 それらは他のイナゴたちに吸い込まれ、炎の槍を受けた個体に変化をもたらす。


「ば、バカな……!」

「効いてない、だと……!?」


 盛大に魔力を糧として燃えていた炎は、イナゴたちへ触れた途端に減衰してしまう。
 しかもその現象が、すべてのイナゴたちの下で起きている……厄介な能力である。


「やっぱり『皇』は皇帝系の能力の象徴か。要するに、奴が保有する呪いはすべてのイナゴたちが使えると言っていいだろう」

《つまり、先ほどの間に聖気への耐性を持つ呪いを獲得していれば……》

「それも無効化するわけだ。というか、獲得したからこそ再度動き出したわけだし。皇帝だから統率の取れた動きで、アッチのネロを狙わせているな……さて、どうするか」


 火への耐性はもちろん、その他の攻撃にも対応できるようにしているのだろう。
 少なくともこの距離だとカウンター……つまり、報復呪術などは無いみたいだが。

 もしかしたら、そういう呪いも存在しているかもしれない。
 効果を減衰させるためにも、“聖域サンクチュアリ”は展開し続けなければならないだろう。


「ネロ、“聖域”の強化はできるか?」

《アレ越しの、であろう? 強めることはできるが、回復を行うための魔力が減るぞ?》

「今の呪いじゃ、即席で治そうにも時間が掛かり過ぎるだろう。最初に感染する呪いのレベルを下げた方が、生存確率も上がるだろ」

《そういうことか……うむ、承知した》


 ここから離れた場所では、ネロがドッペルゲンガーのアンデッドを操作している。
 ネロと同じ魔法を使えるので、ソイツを操作して聖属性の魔法を使わせていた。

 指示を出すと、砦の中から聖なる力がより一層高まる。
 すると呪力の反応はやや収まり、これまでと同程度までに弱体化した。


「もう一度、放て! 砦の中の癒し手の御業で、奴らは先ほどの力を使えない!」

『──“緋槍”ッ!!』


 今一度放たれた炎の槍。
 一度目の機会はすぐに数を戻され、二度目は無効化された攻撃……だが三度目は、本来の性能を取り戻し、イナゴたちを焼き殺す。


「まあ、あくまで皇帝の権能を抑えられているだけだがな。全部の範囲をカバーできるほど、まだ呪力が無いってことか。自分の周辺の個体、親衛隊みたいに少しずつ強化している個体はピンピンとしているわけだし」

《このままでは敗北するのではないか?》

「いやいや、人族もそこまで弱くはないぞ。今は符しか使っていないけど、もう少し射程が近づけば強力な攻撃が叩き込める。今はその数を減らす時間なんだ。これだけできれば充分だな」

《そういうものか》


 この地方における『術』のすべてを把握しているわけじゃないので、それが確実というわけでもない。

 具体的に何が該当するのか分からないが、きっとあるだろうという確信が持てる。
 ……ほら、お偉い様がたが次の準備をもう始めていたよ。


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