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偽善者と公害対策 二十五月目

偽善者と東の北奥 その13

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 本来、『呪殖蝗カースドローカスト』に高度な知性は無い。
 ただ呪力を貪り育ち、世界に呪いを振りまくだけの魔物。

 周囲の個体が死んでも、それは呪力を散布する餌としか認識しない。
 自分以外のすべてが餌であり、餌を生みだす苗床……そういった思考を持っている。

 どれだけ死んでも誰かが自分を喰らい、呪いは無限に連鎖していく。
 呪いは世界に痕跡を刻み、そう遠くない未来に再び発露し──死ぬことがない。

 井島において、聖気の概念は無く神聖な力というものを人族たちは扱えない。
 用いられる力は、陰陽道──清濁を持ち合わせた使い方だからだ。

 火で呪殖蝗を消し去ろうとも、呪いは決して消えることが無い。
 呪いの根源を消し去り、再発を防ぐためには完全なる光──聖なる力が必要だった。

 それが今、存在する。
 自分たちの中で高まらず、逆に減りつつある呪力に違和感を覚える呪殖蝗たち。
 
 ……そう感じられるのも、呪いが少し晴れたからだろう。
 感じ、思うことができていることこそが、これまでの呪殖蝗とは異なる証拠だった。

 体内に直接取り込むならば、まだギリギリ確保できている。
 しかし、外部から火を受けた場合、呪いの力は高まらない。

 同時に、自分の居る場所がとても不快だと気づいた。
 存在を否定され、拒絶される感覚は、自分の体を重く感じさせる。

 不味い、そうとある呪殖蝗は考えた。
 自分たちが有利だったのは、その増殖速度と高まる呪力があったからこそ……今さらながらそれを理解する。

 だが、忌まわしい力が自分たちの呪力を抑制し、抑え込まれている現状では、いずれ全滅する未来を視てしまう・・・・・

 それがとある個体が宿していた呪い──最悪の結末を視る呪いであることを、その個体は知る由もない。

 これまでは感じたことの無かった恐怖に怯え、呪殖蝗は考えた。
 どうすれば生き残れるのか、逃走は不可能だと状況を認識し、打開策を練る。

 ──そして、とある結論に至った。

  □   ◆   □   ◆   □


「……うん、生まれるな」

《生まれるとは……何がだ?》

「見ていれば分かる。俺たちの世界でも定番だぞ──追い込まれた敵は、いつだって想像もつかない手段を見せてくれるって」


 呪力の高まり。
 魔力に瘴気が混ざったような異物の感覚なのだが、それがイナゴたちの中で少しずつ膨らんでいる。

 現在はネロの“聖域サンクチュアリ”が呪力を抑え、そのすべてを振るえない現状。
 脱する方法は二つ──術者であるネロを倒すか、それ以上の力を手に入れるか。

 知らずして、イナゴは後者を選んだ。
 一つ目を選んだら破滅を迎えると勘に告げられたからか、あるいは生き残る方法はそれしかないと察したからか。


「よーく視てみな──“望遠水鏡アクアレンズ”」

「科学が使われた魔法か……むっ、そうか。メルスの言いたいことがよく分かった」


 魔法で生みだした水球を調整し、レンズ代わりにした望遠鏡を覗き込む。
 鑑定スキルが無くとも認識できる、そんなイナゴが一匹。

 影から一匹のアンデッドを出現させ、共有した視覚からネロも同じ光景を視た。


「──『皇蓋呪蝗[コウジュコウ]』。新しいユニーク種が誕生したな」

《メルスはいつも、特殊な事態の原因となっているな》

「お前も似たような魔物だろうに。瘴気を使う聖人? 聖気を使うアンデッド? どっちにしても、特殊過ぎるからな」


 眷属にも魔獣は居るし、ユニーク種だった・・・者もいる。
 死んでアイテム化されるのは御免なので、その要因は取り除いてあるが。

 ……そう、ユニーク種や『超越種』がそこに至るためにはその要因が必要なのだ。
 今回の蝗……[コウジュコウ]もまた、それを持ち合わせていたがゆえに至った。


《で、奴はいったいどのような力を持っているのだ?》

「名前から分かるヒントは、『皇蓋』の部分だな。あと、元となる字は『蝗害』か。当然呪力を使えるだろうし、これまで蓄えていた分の呪いは強化されているはずだ」


 まあ、二つ名っぽい方は見た者が主に用いる言語で変わるから違う可能性もあるが。
 日本語版の情報から分かることを、違う言語で見ているであろうネロに伝える。

 ちなみに名前の方は変わらない。
 日本語っぽい名前ではあるが、あくまで誕生した井島に合わせた名前なだけなので、たとえ英語で見る奴でも読みだけは同じだ。


「今はまだ動かないみたいだけどな……まだネロの聖気に対応するだけの呪力が足りてないから、それを補おうとしているんだろう。そこらかしこに、呪いはあるわけだし」

《奴らにそれほどの知恵があるのか》

「今はユニーク個体が統率しているからな。どのタイミングで目覚めたかは不明だが、いずれにせよ目覚めたときには激しい戦いになるだろう」

《だが、力はまだ貸さぬと》


 当然だろうに。
 とりあえずユニークなイナゴを倒すことは決めたし、ある程度援助するつもりだ……だが、それはネロの格を高めたうえである。


「……そろそろ動き出すかな。ネロ、暇なら在庫を探しておいてくれよ。いろいろと残せそうだし、『術』の解析もしたいし。できる限り、集めておいてくれ」

《ドッペルゲンガーに任せればよかろう。吾は例のイナゴが気になる。ユニーク種の呪力ともなれば、さぞ魂魄に影響を及ぼしそうであるからな》


 相変わらずのネロだが、それで充分。
 従者としての振る舞いを忘れず、どうにかMVP賞を頂かないとな。


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