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偽善者と公害対策 二十五月目

偽善者と東の北奥 その09

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 町を抜けて北奥の中央へ向かうべく、俺とネロは再び移動を開始した。
 狐の居る山を通ればすぐなのだが、普通は遠回りするらしいので迂回することに。


「雪が止んだばかりだからか、全然人を見かけないな……これじゃあ、襲われている馬車で偽善プレイという俺の計画が台無しだ」

「ふむ、せめて一台馬車が動いていれば、吾のアンデッドで行うことができたのだがな」

「マッチポンプは止めてくれ。俺が俺の望むままにやるならまだしも、眷属にやらせるのはなんというか……心が痛む」

「今さらというかなんというか、メルスは小心者でもあるな。仮定の話で心を痛まれても困るのだが」


 そんな会話をする余裕があるのは、周囲をアンデッドたちが警護しているから。
 人が居ないということは、目撃者を気にしなくていいということだからな。

 そして、仮に魔物が観ていたとしても……協力者になってもらうしょうこいんめつするので、問題なし。


「雪は人とか魔物とか関係なく、すべてに効果があったからな。そりゃあ強制的に冬眠しなきゃいけない状況なわけで、人もいないんだから魔物なんて出てこないか」

「人族からすれば、安全に道を通れるという機会であるはずだがな。吾らからすれば、退屈な時間となってしまうわけか」

「……本当、傍から見るとだいぶ狂人度が高い気がする。もともとこうだったのか、それとも毒されたのか。まあいいや、とにかく今の内に街に行こう。採取できそうな素材を集めておくのも、忘れるなよ」


 島が迷宮で繋がっているからか、組合は井島すべてで共通している。
 なので素材を持ち込めば、お金稼ぐぐらいはできるだろう……問題はあるけど。


「西京に居たとき、依頼を放置したみたいな感じになったんだよな。繋がっているってことはそれは露見するし、最悪お尋ね者になりかねない……これはこれで、面白くなりそうだから別にいいんだけど」

「では、何がダメなのだ」

「……いや、なんとなく。人に責められるのは、やっぱり嫌だからな。たとえ自分に責任があったとしても、嫌なモノは嫌だ」

「子供か……」


 本質は『偽善者』ではなく『俺』なので、そこら辺はネロの言う通り小心者である。
 どれだけ力を得ても、蓄えても変わらない弱さがあるわけだな。


「アンデッドに採取をさせよう」

「……瘴気が付いて、品質が下がるだろう。ネロ、お前だって繊細な仕事は自分でやっているだろう? こういう採取だって、その一環だと思ってやってくれ」

「ふっふっふ、過去の吾であれば瘴気を抑え込めずに断ったであろうが……今の吾ならば可能としてみせよう──はっ!」


 再び聖性の因子を活性化させるだけで、挙げた問題はすぐに解決した。
 ……が、それはそれで別の問題が発生してしまうことに。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 街に辿り着き、組合を訪れた俺とネロ。
 未達成の依頼に関しては、あのときの受付嬢がいろいろと手を回してくれたのかどうにかなった……のだが。


「──こ、これは! 伝説の『聖草ホーリーリーフ』ではありませんか!」

「…………」

「まあ、こうなりますよね」


 瘴気が出なくなる代わりに、ネロの体は聖気を放つようになる。
 抑え込むのではなく入れ替えただけなのだから、変質する物が変わるだけ。

 邪気を吸わせれば『邪草イビルリーフ』、聖気を聖草になる……元の植物の効能に加えて、そのどちらかの性質が付くのだ。

 前者は危険な場所にしか生えておらず、後者は存在が怪しまれるレベルでレアなため、貴重なのだ……物語でも定番な、やらかしたアレである。

 そんな薬草を無数に持ち込んだネロは、非常に評価されていた。
 登録ついでに提出させたのだが、受付嬢が一人でヒートアップするほどに。

 ……なので、その盛り上がっている内に悲しい俺の採取結果を提出した。


「こちらは……はい、一束ですね」

「ノゾムの持ち込んだこれは、同じ物なのだが……何が違うのだ?」

「全然違いますよ!? ネロさんと言いましたね。貴女様の見つけてきた聖草は、従者の方が持ち込んだ薬草の数百倍の価値を持つ、大変希少なモノなのですよ!」

「そ、そうなのか……」


 まさか実在したなんて……とトリップしている受付嬢にネロも若干引いている。
 彼女は知っているのだ、同じ草やその上位版が栽培されている場所を。

 ちなみに品質で言うと、俺もそれなりに良品を叩き出せている。
 普段からやり慣れているので、補正無しにしてはマシな品質で採れました。


「と、とりあえず、これらは丁重に扱いますのでご安心を。えっと、従者の方が持ってこられた薬草は常駐依頼の品ですので、すぐに報酬金を用意しますね」

「……まったく態度が違うのだな」

「当たり前だろ。ネロが居なかったら、これ以上に扱いがひどかったはずだからな。だいぶ無理をして庇ってくれたみたいだし、次に行ったら必ずお礼をしないと」


 そうしないために八咫烏の羽なんていう、レアなアイテムを渡していたが……それ以上の恩義を受けたなら、まあ返さないと。


「まあ、それも後の話だ。今はここで何が起きているのか、調べてみよう……村長の話も気になるからな」

「偽善者として、だろう?」

「当然」


 東西南北、少なくともその内三つで問題が起きている井島……祈念者の介入は、本当にいろんな問題を引き起こすな。


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