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偽善者と公害対策 二十五月目
偽善者と東の北奥 その07
しおりを挟む事情を狐から直接聞く。
鑑定スキルを使えない以上、自身で見聞きした情報だけが頼りとなる。
真剣に狐の言葉を聞き、その真偽を自身で判断しながら要すると──
『ぼくは……こうしないとおそとにいけないから。ゆきがないばしょだと、ぼくはなにもできなくなっちゃう』
「なるほど……そういうことか」
狐の名は『雪蝕染狐[シラセツゾメ]』。
ユニークモンスターは鑑定スキルを所持しておらずとも、名前だけは認識できる。
魔獣の大半がユニーク個体なため、接触する前からなんとなく察しがついていた。
理由が無いただの悪逆なら、殺して特典でも貰おうと思っていたが……理由がなぁ。
従魔にすることができないのも、ユニーク個体の特徴だ。
しかも、雪が無ければいけないとなると、できたとしても連れ回すのは難しいだろう。
俺は[ディヴァース]をユニーク個体ながら有しているが、それは奴が一度死ぬことを許容したレアな魔物だから。
……無垢な狐っ子に一度死ねとか、さすがに言いづらい。
偽善者ならなおのこと、どうにか別の方法で解決してやらねば。
「方法は二つ。時間は掛かるけど、いっしょに俺と方法を考える。一瞬で済むが、一度死ぬ……どっちかだ」
『しにたくないよ!?』
「[ディヴァース]、来てくれ……こんな風に召喚される形になるんだけどな。一度死ぬと二度と死ななくていい形になるぞ」
『うぅ……でも、いやだなぁ』
とはいえ、いちおう言っておく。
聖人君主なわけでもないし、最悪の場合的なものも知っておいた方がいいだろう。
ネロには離れてもらい、ソロという条件を満たした状態で召喚したディーは、前とは異なる姿をした俺にやや驚きつつも、自身の使命を理解したのか狐と遊び始めた。
「そのままでいいから聞いてくれ。まず、雪は自分のものじゃなくても大丈夫なのか?」
『えっと……うん、たぶん』
「魔力が籠もっていないとダメか? あと、水や氷じゃダメなのか?」
『うーん、つめたいならちょっとだいじょうぶかもだけど、やっぱりゆきじゃないといたくなるとおもう。まりょくがないと、すぐになくなっちゃうよ?』
痛い……つまり、ダメージを負うのか。
そして狐は雪から魔力を吸い上げて、生存しているようだ。
自然物の場合、中に眠る微精霊を徴収しているからこそほんの少しだけ持つのだろう。
仮に魔力のまったく無い雪だったら、吸収できないか瞬時に消滅するな。
ディーが狐の因子から姿を形どり、興味を引いている間に考える。
殺すという条件を満たさないとアイテム化できない以上、それ以外の方法を探す。
たとえ魂魄を奪っても、死んだと判断されない限りはアイテム化は起きない……眷属がすでに調べ上げてくれたことだ。
「水系統だし。前にもこんな風にやったし良いか──“下級精霊召喚・氷”」
一時的に精霊魔法を使えるようにして、氷属性の精霊を召喚する。
イメージが凝り固まっていた結果、生みだされた氷の精霊は狼型となっていた。
いつもなら、精霊たちを合精霊にしたりするが……今回はコイツで充分だ。
「“精霊遊具《エレメンタルグッズ》”──とりあえず、この髪留めにでもなってくれ」
『これは?』
「精霊だ。常時冷気を発するから、もしかしてと思ったが……ダメか?」
狐の耳に取り付けてると、自然界から得た魔力で冷気を発する精霊。
俺謹製の逸品なので、狐が必要とする魔力も賄えると思ったのだが……どうだ?
『うん! これなら、ゆきをふらせなくてもいいかも!』
「なら、活動にはそれを使ってくれ。次に移動だが……髪留めを改良して、常時氷の道を構築するようにしてみようか」
『やだ! これはこのままがいい! やだやだやだ、このままにして!』
「……まあ、外されるのは心配か。装備枠がどうなのか気になるけど、二つあった方が片方が壊れたときにいいかもな。ただ、もう一個用意したら、そっちも貸すんだぞ」
もう一つ、異なる用途を持つ髪留めを用意して内部に精霊を宿らせる。
それを渡したうえで先ほどの髪留めを回収して、同じように仕込みをしてから返す。
『ありがとう!』
「気にするな、俺がやりたかっただけだからな。これから先、お前を狙ってここに来る奴がいるかもしれない。優しい人かもしれないし、悪い人かもしれない……そんな時、渡した髪留めが役に立つ」
『えっと、ありがとう?』
まあ、そんなこと言われても理解しづらいだろう。
一つ目の髪留めが宿す氷の精霊によって、狐は進む道と活動エネルギーを得ている。
その辺りの恩恵は分かるだろうが、二つ目の髪留めは目に見える効果を今は示さない。
……できるならただの飾りとして、そのまま着けていてもらいたいな。
「じゃあ、俺たちはもう行く。ディー、戻ってくれ」
『……♪』
『いっちゃうの?』
「ああ。寂しかったら、二つ目の髪留めに俺と話がしたいと願ってくれ。そうすれば、連絡が付くようになっているからな」
無属性の精霊が宿っているため、念話的なこともすることができる。
他にもいろいろと機能があるが、大半が狐の身を守るためのものだ。
「ネロ、帰るぞ」
「うむ、雪も止んだようだな。結局、吾の祝福はあまり必要なかったようだ」
「いや、ネロに守られていると思えてやりやすかった。似たような機会があったら、またやってくれ」
「……うむ、了解した」
狐に見送られて、俺たちは下山する。
雪が無くなったことで、彼らも俺たちが何かしたことは理解するだろう……さて、ネロ様に感謝させなければ。
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