上 下
1,630 / 2,519
偽善者と公害対策 二十五月目

偽善者と東の北奥 その07

しおりを挟む



 事情を狐から直接聞く。
 鑑定スキルを使えない以上、自身で見聞きした情報だけが頼りとなる。

 真剣に狐の言葉を聞き、その真偽を自身で判断しながら要すると──


『ぼくは……こうしないとおそとにいけないから。ゆきがないばしょだと、ぼくはなにもできなくなっちゃう』

「なるほど……そういうことか」


 狐の名は『雪蝕染狐[シラセツゾメ]』。
 ユニークモンスターは鑑定スキルを所持しておらずとも、名前だけは認識できる。

 魔獣の大半がユニーク個体なため、接触する前からなんとなく察しがついていた。
 理由が無いただの悪逆なら、殺して特典でも貰おうと思っていたが……理由がなぁ。

 従魔にすることができないのも、ユニーク個体の特徴だ。
 しかも、雪が無ければいけないとなると、できたとしても連れ回すのは難しいだろう。

 俺は[ディヴァース]をユニーク個体ながら有しているが、それは奴が一度死ぬことを許容したレアな魔物だから。

 ……無垢な狐っ子に一度死ねとか、さすがに言いづらい。
 偽善者ならなおのこと、どうにか別の方法で解決してやらねば。


「方法は二つ。時間は掛かるけど、いっしょに俺と方法を考える。一瞬で済むが、一度死ぬ……どっちかだ」

『しにたくないよ!?』

「[ディヴァース]、来てくれ……こんな風に召喚される形になるんだけどな。一度死ぬと二度と死ななくていい形になるぞ」

『うぅ……でも、いやだなぁ』


 とはいえ、いちおう言っておく。
 聖人君主なわけでもないし、最悪の場合的なものも知っておいた方がいいだろう。

 ネロには離れてもらい、ソロという条件を満たした状態で召喚したディーは、前とは異なる姿をした俺にやや驚きつつも、自身の使命を理解したのか狐と遊び始めた。


「そのままでいいから聞いてくれ。まず、雪は自分のものじゃなくても大丈夫なのか?」

『えっと……うん、たぶん』

「魔力が籠もっていないとダメか? あと、水や氷じゃダメなのか?」

『うーん、つめたいならちょっとだいじょうぶかもだけど、やっぱりゆきじゃないといたくなるとおもう。まりょくがないと、すぐになくなっちゃうよ?』


 痛い……つまり、ダメージを負うのか。
 そして狐は雪から魔力を吸い上げて、生存しているようだ。

 自然物の場合、中に眠る微精霊を徴収しているからこそほんの少しだけ持つのだろう。
 仮に魔力のまったく無い雪だったら、吸収できないか瞬時に消滅するな。

 ディーが狐の因子から姿を形どり、興味を引いている間に考える。
 殺すという条件を満たさないとアイテム化できない以上、それ以外の方法を探す。

 たとえ魂魄を奪っても、死んだと判断されない限りはアイテム化は起きない……眷属がすでに調べ上げてくれたことだ。


「水系統だし。前にもこんな風にやったし良いか──“下級精霊召喚サモンエレメンタルフラウ”」


 一時的に精霊魔法を使えるようにして、氷属性の精霊を召喚する。

 イメージが凝り固まっていた結果、生みだされた氷の精霊は狼型となっていた。
 いつもなら、精霊たちを合精霊にしたりするが……今回はコイツで充分だ。


「“精霊遊具《エレメンタルグッズ》”──とりあえず、この髪留めにでもなってくれ」

『これは?』

「精霊だ。常時冷気を発するから、もしかしてと思ったが……ダメか?」


 狐の耳に取り付けてると、自然界から得た魔力で冷気を発する精霊。
 俺謹製の逸品なので、狐が必要とする魔力も賄えると思ったのだが……どうだ? 


『うん! これなら、ゆきをふらせなくてもいいかも!』

「なら、活動にはそれを使ってくれ。次に移動だが……髪留めを改良して、常時氷の道を構築するようにしてみようか」

『やだ! これはこのままがいい! やだやだやだ、このままにして!』

「……まあ、外されるのは心配か。装備枠がどうなのか気になるけど、二つあった方が片方が壊れたときにいいかもな。ただ、もう一個用意したら、そっちも貸すんだぞ」


 もう一つ、異なる用途を持つ髪留めを用意して内部に精霊を宿らせる。
 それを渡したうえで先ほどの髪留めを回収して、同じように仕込みをしてから返す。


『ありがとう!』

「気にするな、俺がやりたかっただけだからな。これから先、お前を狙ってここに来る奴がいるかもしれない。優しい人かもしれないし、悪い人かもしれない……そんな時、渡した髪留めが役に立つ」

『えっと、ありがとう?』


 まあ、そんなこと言われても理解しづらいだろう。
 一つ目の髪留めが宿す氷の精霊によって、狐は進む道と活動エネルギーを得ている。

 その辺りの恩恵は分かるだろうが、二つ目の髪留めは目に見える効果を今は示さない。
 ……できるならただの飾りとして、そのまま着けていてもらいたいな。


「じゃあ、俺たちはもう行く。ディー、戻ってくれ」

『……♪』

『いっちゃうの?』

「ああ。寂しかったら、二つ目の髪留めに俺と話がしたいと願ってくれ。そうすれば、連絡が付くようになっているからな」


 無属性の精霊が宿っているため、念話的なこともすることができる。
 他にもいろいろと機能があるが、大半が狐の身を守るためのものだ。


「ネロ、帰るぞ」

「うむ、雪も止んだようだな。結局、吾の祝福はあまり必要なかったようだ」

「いや、ネロに守られていると思えてやりやすかった。似たような機会があったら、またやってくれ」

「……うむ、了解した」


 狐に見送られて、俺たちは下山する。
 雪が無くなったことで、彼らも俺たちが何かしたことは理解するだろう……さて、ネロ様に感謝させなければ。


しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

World of Fantasia

神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。 世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。 圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。 そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。 現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。 2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。 世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。

パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。

荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品 あらすじ  勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。  しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。  道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。  そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。  追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。  成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。  ヒロインは6話から登場します。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

処理中です...