1,629 / 2,518
偽善者と公害対策 二十五月目
偽善者と東の北奥 その06
しおりを挟む目標は山頂に隠れているようなので、必然的に山登りをしなければならなかった。
しかし俺には頼れるネロが居るため、わざわざ準備をする必要はない。
用意してもらった『骨羽』が、翼をはためかせて空を飛ぶ。
当然雪が苛烈に吹き荒れるが、水の膜で覆うことで、雪状の魔力から骨羽を防ぐ。
視界内に魔物の姿はなく、それ以上の範囲は雪の妨害によって探ることができない。
ネロの生みだしたアンデッドを先行させ、俺たちはその後ろを付いていった。
「──ここだな。ここで反応が途切れた」
「まったく気配が無いんだが……雪の中だと隠れられる能力でも持っているのか?」
「だが、居ることはたしかだ。領域を広げて探ってみるか?」
「そうだな、頼む」
ネロは、自身が展開していた死や霊体に関する事象を強化する空間によって、雪で覆われた魔獣の支配領域を侵蝕していく。
この地は高位の魔物──魔獣によって支配されているが、世間一般ではネロもまた魔獣に分類される。
魔獣は自分に有利な空間を、『超越種』や『災厄種』には劣るが展開可能だ。
ただし、それら二種ほど強力なものではないため、侵蝕し返すこともできる。
これまでは遠かったので防御にしか使えなかったが、山頂に居ると分かったので、それ以外の用途も生まれた。
「──居たぞ。領域を引き剥がす、交渉する準備をしておれ」
「といっても、魔獣相手に下手な態度は取れないしな……とりあえず、武器とかは全部片づけておくか」
聖女の従者(役)として振る舞っていたため剣を装備していたが、そのことで不快を買うのは避けたい。
魔獣の領域でも緊急時には多めに魔力を支払えば魔法が使えるし、ネロの領域内なら俺も普段通りに動くことが可能だ。
「こほんこほんっ。初めまし──」
『なんでじゃまをするの!?』
「ぐっ……ネロ」
「いきなり決裂……というわけでもないようだな。どうするつもりだ?」
この場合のどうするつもり、とは魔獣──目の前の狐の扱いに関して。
負けるつもりはさらさらないが、そこに至るまでの過程が膨大に存在するからな。
魔物の言語で伝わってきたのは、強い拒絶の意志……そして、幼さ。
どうやらここの魔獣はまだ子供で、悪意を以って何かやらかしたわけじゃないようだ。
今の力の爆発に合わせ、雪となっている魔力が一瞬胎動した。
やはりこの魔獣は、身の丈に合わない力ながらも使えてはいるんだろう。
「とりあえず俺が戦う。ネロは周囲の警戒、第三者の介入が無いようにしてくれ。あと、領域の相殺を頼めるか?」
「問題ない。武運とやらを祈っておくか? 聖女らしくな」
「姿はあの状態と変わらないしな……せっかくだし、それも頼めるか?」
「ふっ、魔王であった吾がまさか人族に祈ることになろうとは……ふむ、人族?」
そこに違和感を抱くなよ。
ネロは聖属性の力を使い、いくつか補助魔法を掛けてくれた。
不死者の王だったネロが、聖女っぽいこともできるように……うん、成長したよな。
「ここから見ているからな、素晴らしい魂魄の輝きを期待している」
「俺はともかく、あの子が昏く淀んだ光とやらを生まないようにやってみるよ」
領域の中では雪は降っていないが、足元では未だに敷き詰められている。
これが何を意味するのか、残念ながら解析系のスキルを持たない俺では分からない。
だが、今なおネロの領域内で力を維持し続けるのだから、意味はあるのだろう。
俺の縛りは水系統限定、間違いなく──相性が悪い相手だ。
「やぁ、始めまし──」
『じゃましないで!』
再び狐が咆えると、雪は形を成して俺に襲い掛かってくる。
いきなり雪がぶわっと天を覆うと、そのまま地面に降ってくる──雪崩だ。
「──“水鉄砲”」
圧縮した水を放つ魔法。
本来は牽制ぐらいにしかならないが……圧縮率を高め、籠める水の量を増せば──その威力は岩をも穿つ一撃となる。
発動する時間はほんの一瞬、代わりに射程距離を伸ばして水を飛ばす。
すると雪崩は俺を避けるように二つへ分かれ、動かずとも生存する道が切り開かれる。
「──“氷路”、“滑氷”」
狐が動揺している間に、移動手段を確保。
氷で張った道の上を、これまた氷でできたスケート靴で進んでいく。
それに対応しようと雪を動かそうとするものの、魔力を過剰に籠めたので道そのものをどうにかすることはできない。
代わりに周辺の雪を先ほどのように雪崩にして襲わせるが、氷の道は雪の上でなくても使えるので、少々魔力を多めに払って空中に道を作って回避する。
「とはいえ、雪を触媒に混ぜて燃費をよくしていたのにな……ちょっと強引だが、一気にやるか──“水進”」
後ろ足から水を発射し、速度を上げて狐に急接近する。
速度が上がった分制御しづらいが、事前に練習はしているので乗りこなせていた。
そうして狐に接近すると、俺はいったん魔法を解除する。
無防備になった俺を、狐は警戒して様子を窺ってくれた。
「俺はメルス、始めまして。ちょっと、話をしないか?」
『…………なんで?』
「なんでってそりゃあ、俺が話をしたいと考えたからだ。もしかしたら、お前のやりたいことを協力できるかもしれないぞ? 雪を降らすのを止めろ、なんて言わないからさ」
『ほんとう? ……わかった』
とりあえず、対話はできるようだ。
問題はこれから……狐が望むことを叶えられるかどうか、だな。
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
俺と異世界とチャットアプリ
山田 武
ファンタジー
異世界召喚された主人公──朝政は与えられるチートとして異世界でのチャットアプリの使用許可を得た。
右も左も分からない異世界を、友人たち(異世界経験者)の助言を元に乗り越えていく。
頼れるモノはチートなスマホ(チャットアプリ限定)、そして友人から習った技術や知恵のみ。
レベルアップ不可、通常方法でのスキル習得・成長不可、異世界語翻訳スキル剥奪などなど……襲い掛かるはデメリットの数々(ほとんど無自覚)。
絶対不変な業を背負う少年が送る、それ故に異常な異世界ライフの始まりです。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる