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偽善者と公害対策 二十五月目

偽善者と東の北奥 その06

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 目標は山頂に隠れているようなので、必然的に山登りをしなければならなかった。
 しかし俺には頼れるネロが居るため、わざわざ準備をする必要はない。

 用意してもらった『骨羽ボーンウィング』が、翼をはためかせて空を飛ぶ。
 当然雪が苛烈に吹き荒れるが、水の膜で覆うことで、雪状の魔力から骨羽を防ぐ。

 視界内に魔物の姿はなく、それ以上の範囲は雪の妨害によって探ることができない。
 ネロの生みだしたアンデッドを先行させ、俺たちはその後ろを付いていった。


「──ここだな。ここで反応が途切れた」

「まったく気配が無いんだが……雪の中だと隠れられる能力でも持っているのか?」

「だが、居ることはたしかだ。領域を広げて探ってみるか?」

「そうだな、頼む」


 ネロは、自身が展開していた死や霊体に関する事象を強化する空間によって、雪で覆われた魔獣の支配領域を侵蝕していく。

 この地は高位の魔物──魔獣によって支配されているが、世間一般ではネロもまた魔獣に分類される。

 魔獣は自分に有利な空間を、『超越種スペリオルシリーズ』や『災厄種ディザスターシリーズ』には劣るが展開可能だ。
 ただし、それら二種ほど強力なものではないため、侵蝕し返すこともできる。

 これまでは遠かったので防御にしか使えなかったが、山頂に居ると分かったので、それ以外の用途も生まれた。


「──居たぞ。領域を引き剥がす、交渉する準備をしておれ」

「といっても、魔獣相手に下手な態度は取れないしな……とりあえず、武器とかは全部片づけておくか」


 聖女の従者(役)として振る舞っていたため剣を装備していたが、そのことで不快を買うのは避けたい。

 魔獣の領域でも緊急時には多めに魔力を支払えば魔法が使えるし、ネロの領域内なら俺も普段通りに動くことが可能だ。


「こほんこほんっ。初めまし──」

『なんでじゃまをするの!?』

「ぐっ……ネロ」

「いきなり決裂……というわけでもないようだな。どうするつもりだ?」


 この場合のどうするつもり、とは魔獣──目の前の狐の扱いに関して。
 負けるつもりはさらさらないが、そこに至るまでの過程が膨大に存在するからな。

 魔物の言語で伝わってきたのは、強い拒絶の意志……そして、幼さ。
 どうやらここの魔獣はまだ子供で、悪意を以って何かやらかしたわけじゃないようだ。

 今の力の爆発に合わせ、雪となっている魔力が一瞬胎動した。
 やはりこの魔獣は、身の丈に合わない力ながらも使えてはいるんだろう。


「とりあえず俺が戦う。ネロは周囲の警戒、第三者の介入が無いようにしてくれ。あと、領域の相殺を頼めるか?」

「問題ない。武運とやらを祈っておくか? 聖女らしくな」

「姿はあの状態と変わらないしな……せっかくだし、それも頼めるか?」

「ふっ、魔王であった吾がまさか人族に祈ることになろうとは……ふむ、人族?」


 そこに違和感を抱くなよ。
 ネロは聖属性の力を使い、いくつか補助魔法を掛けてくれた。

 不死者の王だったネロが、聖女っぽいこともできるように……うん、成長したよな。


「ここから見ているからな、素晴らしい魂魄の輝きを期待している」

「俺はともかく、あの子が昏く淀んだ光とやらを生まないようにやってみるよ」


 領域の中では雪は降っていないが、足元では未だに敷き詰められている。
 これが何を意味するのか、残念ながら解析系のスキルを持たない俺では分からない。

 だが、今なおネロの領域内で力を維持し続けるのだから、意味はあるのだろう。
 俺の縛りは水系統限定、間違いなく──相性が悪い相手だ。


「やぁ、始めまし──」

『じゃましないで!』


 再び狐が咆えると、雪は形を成して俺に襲い掛かってくる。
 いきなり雪がぶわっと天を覆うと、そのまま地面に降ってくる──雪崩だ。


「──“水鉄砲ウォーターガン”」


 圧縮した水を放つ魔法。
 本来は牽制ぐらいにしかならないが……圧縮率を高め、籠める水の量を増せば──その威力は岩をも穿つ一撃となる。

 発動する時間はほんの一瞬、代わりに射程距離を伸ばして水を飛ばす。
 すると雪崩は俺を避けるように二つへ分かれ、動かずとも生存する道が切り開かれる。


「──“氷路トリムライン”、“滑氷スケート”」


 狐が動揺している間に、移動手段を確保。
 氷で張った道の上を、これまた氷でできたスケート靴で進んでいく。

 それに対応しようと雪を動かそうとするものの、魔力を過剰に籠めたので道そのものをどうにかすることはできない。

 代わりに周辺の雪を先ほどのように雪崩にして襲わせるが、氷の道は雪の上でなくても使えるので、少々魔力を多めに払って空中に道を作って回避する。


「とはいえ、雪を触媒に混ぜて燃費をよくしていたのにな……ちょっと強引だが、一気にやるか──“水進ウォータードライブ”」


 後ろ足から水を発射し、速度を上げて狐に急接近する。
 速度が上がった分制御しづらいが、事前に練習はしているので乗りこなせていた。

 そうして狐に接近すると、俺はいったん魔法を解除する。
 無防備になった俺を、狐は警戒して様子を窺ってくれた。


「俺はメルス、始めまして。ちょっと、話をしないか?」

『…………なんで?』

「なんでってそりゃあ、俺が話をしたいと考えたからだ。もしかしたら、お前のやりたいことを協力できるかもしれないぞ? 雪を降らすのを止めろ、なんて言わないからさ」

『ほんとう? ……わかった』


 とりあえず、対話はできるようだ。
 問題はこれから……狐が望むことを叶えられるかどうか、だな。


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