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偽善者と公害対策 二十五月目

偽善者と東の北奥 その02

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 空を飛んで島を渡る。
 説明するのは簡単だが、行うのは非常に難しい方法によって移動した俺とネロ。

 そして、到着した島で迎えられた──異様な寒さに。


「いやまあ、北陸とか北海道とかは寒いらしいけどな……ここまでじゃないだろう」

「メルス……この寒さは異常だ。本来、寒さというものを感じない吾ですら、寒気のようなものを覚えている」

「まあ、実際に今は人化しているしな。でもたしかに、寒すぎるか……たぶん、普通の寒さじゃなくて、魔力系の何かで生み出された冷気なんだろう」


 雪や氷があるわけではなかった。
 それらはたしかに降りる前に見た山々に在りそうだったが、少なくとも地表にこれらが散らばっているわけではない。

 単純に寒い。
 呼吸するだけで体内に冷気が取り込まれ、芯から冷えていく……そんな感覚だ。

 ハァと息を吐けば、白い蒸気が自身の口から漏れ出る。
 息吹とか言って、昔は遊んでたな……今は本当にできちゃうけど。


「魔力の冷気だから、生きるために魔力が必要なお前らみたいな生物にも、この冷気は影響する。対策としては、魔力の供給をいっさいしないか、寒さの対策をするか……後者しかないな」


 俺は縛りによって水系統の魔法しか使えないので、水か氷魔法で対処するしかない。
 だが、スキルのレベルアップで得た魔法と眷属が作った魔法以外は使用不可能だ。

 そしてその魔法の中に、冷気をどうこうするような魔法は存在しない。
 攻撃系統の魔法は多いのだが、補助的な魔法は冷やすものばかりなんだよな。


「他の魔法があればあるほど、そういうときに対応する魔法が少ないんだよな。火魔法なら温めることは簡単だし、結界魔法で冷気を断つのもいいかもしれない……」

「だが、それらは今使えぬぞ」

「まあ、仕方ないよな……開発する時間が必要だろうし、今はこれで我慢するか」


 魔道具『魔法袋マジックバック』から、ポーションを二本とりだして片方をネロに渡す。
 かつて赤色の世界で飲んだ物とは逆に、冷気から身を守るためのホットなドリンクだ。

 それをグイっと飲み干せば、冷えていた体の芯が少しずつ温め直されていく。
 ネロもほぅっと息を漏らしているので、おそらく大丈夫だろう。


「しばらくはこれで活動できる。保温対策もバッチリだし、改めて寒さを覚えるようなことはない。ネロも違和感はないか?」

「問題ない。これならば、平常通りに魔力が扱えるだろう」

「よし、なら行ってもいいか。この先に何があるのか……確かめよう」

「より眩い魂魄があればいいのだが……」


 旅をするための準備は終えた。
 ここは井島において、北部に位置する冬の島──『北奥』。

 いったいこの先で、何と出会うのか……とても楽しみである。


  ◆   □   ◆   □   ◆


「楽しみにしていたはずなんだがな……なあネロ、どうしてこうなったんだ?」

「知れたことを。吾とメルス、互いに問題を起こした結果だろう」

「いや、お前だけだろう? 俺がやったのはせいぜい、親切な偽善だけだ」

「……その顔を晒してか?」


 魔物と人、本来それらは相反し敵対する者たちだ。
 従魔という形で仮初の契約を結ぼうと、時に裏切り殺し殺される関係になることも。

 まあ、個人と個人(魔物)という形で向き合えば、その通りになるわけではないが。
 概念的な話だと、実際にそういう弱肉強食な間柄をしている……はずだったんだがな。

 魔物と人が力を合わせ、共に戦っている。
 決して上手なものではなく、互いには手を出さずに目標にのみ力を注ぐ……そのために一時的な共闘のような形ではあるが。

 ──そして、その標的が俺たちだった。


「あー、認識の偽装を忘れてたっけ? 気持ちよく水底で寝ていたから忘れてた……けどそれだって、ネロがアイツらを呼ばなければ気づかれなかったんじゃないか?」

「だから、吾とメルスの双方に問題があると言ったのだ……吾はメルスのように未熟ではないからな、自身の責任は感じるのだ」

「くっ、情況的にここは俺の分が悪いか。仕方ない、ここは9:1ぐらいの責任は感じておいてやろう」

「……2:8ぐらいだと思うがな」


 俺とネロ、そしてアンデッドたちが攻撃の対象となっている。
 自衛手段として用意してもらったのだが、どうやら見てくれが悪かったようだ。

 それを弁解するために、俺も説得に回ろうとしたら……顔を認識されてしまい、追いかけ回されてしまっていた。


「とりあえず偽装はしたから、アイツらをどうにかすればいいんだが……」

「いっそのこと、吾らと出会った記憶を消してしまえば良いのではないか?」

「それ、ピンポイントに俺たちの部分だけ消すことができるのか?」

「…………」


 魂魄の研究が進んでいるネロだが、わざわざ安全面に気を使って行う研究が少なかったからか、求めることができないようだ。

 しかしまあ、記憶は精神魔法とか闇系統の魔法が向いているんだよな……水魔法でも、できないことはないんだけど。


「まあ、失敗したら眷属に頼もう。ネロ、全員を安全に捕縛してくれ。魔物で試したうえで、アイツらの記憶をどうにかする」

「うむ、承知した──やれ」


 明らかに悪役の所業だが、背に腹は代えられない……偽善がしたいのだから、いきなり悪人認定は勘弁なのである。


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