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偽善者と公害対策 二十五月目
偽善者と屍検証 前篇
しおりを挟む井島──それは祈念者たちが主に活動拠点としている大陸、その隣に位置する島国だ。
その島国は主に四つの異なる文化に分かれており、そこを領主が統べている。
その一つ、東に位置する都『東都』。
木造の町並みが見渡す限りに広がり、着物や刀などのジャパニーズな恰好をした人々が辺りを闊歩している。
「うーん、久しぶりでござるなぁ……」
俺もまた、そんな昔懐かしの恰好を纏って町の中を歩いていた。
顔も今は取り繕っているため、誰も嫌悪感剥き出しで睨んでこない……うん、普通だ。
久しぶりに訪れたこちらの島国だが、あまり変わっていない。
そしてそれは、こちらでまだ争いごとの火種が芽吹いていないことを指す。
──かつて、ここの長であるオダ氏は隣の大陸に死兵を送り込もうとしていた。
理由は祈念者、不死身の軍団という厄介な連中を拒むための術である。
俺はそれを防ぎに来たとある家柄の少女に協力し、一時的な作戦中止を勝ち得た。
「祈念者はすでに、こちらの島に現れているとのこと。特に揉めることなく、平和に収められてよかったでござるよ」
「──メルス、一つ頼みたいことがあるのだが……良いか?」
「ん? どうしたんだよ、急に」
さて、そんな俺だが今回はいっしょに来ている眷属が居た。
白髪黒眼、普段は黒いローブを身に纏っている巨乳美女(元骨)。
ただし今は髪を黒くしている彼女──ネロマンテことネロは、今回の変装用に与えた着物の襟の部分を掴みながら、俺に頼み事とやらをしてくる。
「アンデッドであるとはいえ、不快感ぐらいある。少々蒸れるのだが……緩めても良いだろうか?」
「却下。前に巫女服を着たときは、特に何も言わなかったのに……どうしたんだ、急に」
「あのときは降霊や交霊など、夢中になれるものがあったから気づけなかっただけだ。あとで気づいたとき、人族の体にかなり不満を覚えたことは今でも忘れない」
「……普段があんな痴女みたいな恰好だし、着込めばそう思うのは当然だろう」
ローブを普段は身に纏うネロだが、逆に言えばそれ以外は基本的に着ていない。
そこに苦言を申し立てたら、今度は骨で最低限隠すようになったんだよな……。
まあ、そんな超絶クールビスによって、普段から汗が出ないネロ。
アンデッドはもともと流れないのだが……今回は違和感が出るので調整してある。
人化スキルは、完全に人族の性質を得るのか姿だけを取り繕うかの二パターン。
今回は前者を選んだため、ネロは慣れない汗に不快感を抱いているわけだ。
「まあ、しょうがいないか──“冷却”」
「ひゃ!? ……う、うむ、程よく火照りも冷めた。礼を言おう」
「いや、今『ひゃ!?』って言った──」
「何をしているメルス! やることがあると言っていたではないか! ほら、早々に済ませようではないか!」
どんな理由であれ、やる気を出してくれたのならばそれに越したことはない。
俺たちの居る町部を見下ろす、和風の城郭へ向けて歩を進めるのだった。
◆ □ ◆ □ ◆
前回の侵入はあくまで、忍びプレイ中だったので正式なアポは存在しない。
なので今回は城には潜り込まず、とりあえずは一般人でもできる範囲で確かめていく。
「どうなっている?」
「……問題ないだろう。ここ以外で、現在も動いていることはない。その残滓は観測できるが……どうする?」
「どうするって、何かできるのか?」
「残滓から、過去を探ることができる。いつ生まれた物なのか、またどういった理由で消えたのかも判明するだろうな」
すぐにそれを頼み、ネロは周囲からサンプルを集めると言ってこの場を離れる。
俺は彼女が調べている間、手持無沙汰なので……昼寝をすることに。
俺たちが居たのは、城郭……の堀に張られた水の底。
魔法で濡れないようにしたうえ、呼吸できるようにしておけば活動できた。
なぜここを選んだかといえば、オダさんがここに屍を廃棄していたからである。
水の中なら腐臭はしないし、呼吸を不要としない屍に警備もさせられるからな。
──といった提案を、俺は前回彼に直接提案していた。
防水の符が必要となるのだが、最初から実験用にお高い物を使っていたらしく、そのまま水に沈めていたようだ。
なお、すでにそれらはネロが掌握済み。
一部を残してネロに追随し、残滓集めの協力をさせられていた。
「なんかもう、超常現象みたいなことにも慣れてきたよな。水底に沈んで、そこで昼寝をするとか……」
水の中は本来、ぼやけた視界しか確保できないが……そこは魔法、明瞭に水の中をくっきりはっきり見ることができる。
堀の中とはいえ、緊急時に備えてか魚なども放たれている……魔物なので、対策をしていなかったら襲ってきただろうけど。
「まあでも、細かいことはどうでもいいか。【怠惰】にだらける……これがベスト」
用意した【怠惰】の魔武具『堕落の寝具』が、俺の意識に呼応して形を変える。
水の中にも対応した、ベッドに……いやまあ、たしかにウォーターベッドだな。
ネロが戻ってくるまでの間、俺はただひたすら惰眠を貪るのだった。
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