上 下
1,620 / 2,519
偽善者と貯蓄期間 二十四月目

偽善者と生死の試練 その12

しおりを挟む


「──えっ?」


 そりゃあもう、アイの表情ったらひどいことになっている。
 俺に嵌めようとした指輪が急に消えて、彼女の手は宙を切ったのだから。

 俺を助けようとして、自分なりの覚悟を定めたのだろう。
 そしてそれを無為にされ、己のナニカを削り生み出したアイテムを消失された。

 ──まあ、アイは何も悪くないんだが。

 感触を確かめ、自由に動かせるようになった左手・・でアイの頬を撫でる。


「……えっ?」


 さっきとは異なる抑揚の、違った心情が籠められた声だった。
 実際、さっきまではアイが治してくれた右手しか動かせなかったからな。


「指輪は受け取った。ただ、その指だけは特別だからな……いろいろとあって、誰かのモノと証明できないようになっているんだ」

「どういう、ことでしょうか?」

「まあ要するに──こういうことだ」


 左の掌を上に向けると、勝手に薬指から指輪が抜けて中央で漂う。
 そして、小さく光を放つと──無数の指輪がその周囲に出現した。

 その中には、先ほどまでこの場に在った黒い指輪もあって──


「『統合の指輪』って言ってな。入れた指輪のスキルを全部使える……でまあ、他の眷属から貰った物もここに入っているんだ」

「皆さん平等に、ということですね」

「らしいな。前に左手をたくさん用意すればいいんじゃないか? って言われて本気にするヤツがいたから、そういう纏め方で納得してもらうことになった」


 創るために、これまただいぶ苦労したのだが……それはまた、別のお話。
 その後は眷属たちが、最高の指輪を作ろうと努力したりするが……これもまた(ry。


「アイの指輪もちゃんと受け取った。だからこうして、手を動かせるようになった」

「……少々想定外ですが、揉めたくはありません。メルス君が指輪を受け取ってくれた辺りで、満足しておきます」

「試練も終わったし、余韻に浸りたい……けど、やらないといけないことがあったな」

「やらないといけないこと……ですか?」


 これもまた、俺の独り善がりな考えではあるんだが。
 指輪の一つに意識を集中し、イメージを浮かべて魔法を発動する。

 魔力によって肉体が包まれ、俺の体は少しずつ小さくなっていく。
 体も華奢なものへ、何より『相棒マイサン』が一時的に失われる。

 顔もモブ顔から眷属たちに匹敵する、愛らしさを誇る美少女フェイスに。
 パチパチと目を瞬かせ、俺の変化にアッと驚いた表情を浮かべるアイに声を掛ける。


「いろいろと話したいことがあるんだ。もう少し、付き合ってくれる──アイちゃん?」

「はい、もちろんです──メルちゃん」


 互いに初めて出会った時の呼び方で、自分たちを呼び合う。
 理解者として一歩関係が進んだ今なら、話し合いもより楽しくなりそうだしな。


  ◆   □   ◆   □   ◆


「……えっ? アイちゃんが、眷属になりたいの? あ、あんまりオススメはしてないんだけど……」

「ダメ、でしょうか?」

「ううん、なってくれるなら大歓迎だよ! でも、アイちゃんにはお仕事もあるし、そもそもなる必要が無いんじゃないかなーって」


 俺から話す話題が尽きた辺りで、衝撃的な話をしてきたアイ。
 なんと、俺の眷属になりたいと言ってきたのだ……特典とかあったっけ?

 能力値の補正は停止中だし、スキルを共有しようにもアイの方がスキルも優秀だ。
 経験値? もうカンスト以上に育っているアイに今さら必要ないだろう。

 しいて言うのであれば、俺や他の眷属たちとの繋がりが生まれるくらいだが……俺とて自分という存在を理解しているつもりだし、そういうことではないだろう。


「──私はメルちゃん……いえ、メルス君の試練を行うということで、調査を行っていました。メルちゃんは普段、亜空や異空間に居るようですので今のことは分かりませんが、終焉の島に関することは分かりました」

「うん、最初は異空間のスキル──夢現空間も使えなかったから、普通に暮らしてたよ」

「漂う霊体たちから聞きました。メルちゃんたちが、どんなことをしてきたのか。彼らもメルス君の活躍に胸躍り、一部の方は成仏されたようです。誰かに広めたかったと、私に伝えて成仏された方も居られました」

「そ、そんなに凄いことしたかな? 私は別に、みんなを事情も知らずに勝手に救いたいだけだったし……」


 偽善という大義名分にもならない理由を背負い、勝手にやらかした結果がそれだ。
 霊体たちがそのどこに刺激されたのかは不明だが……そうか、観られていたのか。


「私はメルちゃんたちのことを、もっと知りたいと思いました。これまで死者の方々のことだけを考えてきた私にとって、それは初めての経験でした」

「……うん」

「そして、メルちゃんは私を理解してくれました。共に歩くことを、受け入れてくれました……すべてが初めてのことばかりです。何か間違えてしまうかもしれませんし、支えてほしいとも思っています」

「だから……眷属なの?」


 俺にとって眷属とは家族、共に居て欠けたナニカを埋め合う関係だ。
 アイもまた、その欠けたものを補うために理解者を探していた。


「嫌ならば、否定してください。ですが、私はメルちゃんの居る世界に混ざりたいと……そう思いました。これから生きる世界を、メルちゃんたちといっしょに見たいのです」

「……アイちゃんの望むような場所じゃ、無いかもしれないよ?」

「ふふっ、大丈夫ですよ。そういうことを心配してくれるメルちゃんの世界なら、間違いなく私は満足できます」

「……もう、しょうがないなぁ」


 こうして、新たに眷属が加入する。
 それは『還魂』という『超越種スペリオルシリーズ』でも、霊体たちを導く生死の冥王でもなく……アイという、可愛らしい一人の女の子だった。


しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

World of Fantasia

神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。 世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。 圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。 そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。 現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。 2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。 世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。

パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。

荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品 あらすじ  勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。  しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。  道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。  そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。  追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。  成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。  ヒロインは6話から登場します。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

処理中です...