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偽善者と貯蓄期間 二十四月目
偽善者と生死の試練 その11
しおりを挟む「これをどうすればいいんだか……」
「さぁ、いかがなされますか?」
試練をクリアして、報酬として用意された品々を[アイテムボックス]から確認する。
鐘に女性服に笛に、指輪と本……まあ、二番目と最後のモノではないな。
一つ目の鐘は浄化に関するアイテム、三つ目の笛は名前の通り霊体を集める物だ。
……ちなみに修道服は、アイの能力が限定的に使えるらしい。
「となると、これとこれだよな。けど、これでどうするんだ?」
二つの指輪を出現させる。
片方は真っ白で、もう片方は真っ黒。
どこか似たような意匠が凝らされた、対となっている指輪だ。
「さて、どうされますか?」
「……体が動かせないから、俺にはどうしようもないんだが」
「では、手だけ癒しましょう」
「……あのー、できれば全部治してほしかったんですけど。それと、質問が」
残念ながら俺の意見は届かず、温かな光は俺の右手だけを癒していく。
部分的にデスペナルティが解除され、ようやく動かせる部分ができた。
「質問ですか? 内容にもよりますが、ある程度は答えられますよ」
「ならそうだな……まず、アイはこの指輪の効果をちゃんと理解しているのか? 試練で用意された報酬について、最初から知っていたか知りたい」
「試練の報酬は、私の中にある力を削って生み出したもの。しばらく弱体化しますが……本望ですので。ともかく、ある意味私そのものとも言える力ですので、どういった物かはなんとなく分かります」
「ならいいんだが……けどこれ、本当に使う気なのか?」
指輪の効果は、対となるもう片方の指輪の装備者と仮初の契約を結ぶというもの。
そして、生死を偽装できる……彼女が使わせたいのは、この部分だろう。
今の俺は死んだことで、魂魄の定着が完了するまで弱体化している。
スキルも上手く発動せず、即時復活というわけにもいかない。
だが指輪を使用すれば、契約相手が魂魄が治るまで偽装に必要な力を提供してくれる。
その副次結果として一部スキルが使用可能となり、デスペナは解除されるのだ。
要するに、これを使えと言うことなのだろう……お互いに指輪を交わすことで、俺は貼れてデスペナ解消となるので。
だがそれは、アイが俺に縛られるということを意味する。
俺はそんな束縛など御免なので、それ以外の方法を探したいのだが……。
「契約がどういうものなのか、説明欄を見ている俺にも分からない。そのうえ、今は弱体化しているんじゃ……」
「使ってください。それに、メルス君は私にひどいことをするつもりなのですか?」
「そ、そんなことするつもりはない……が、指輪を嵌めた結果そうなるって言うなら、俺がどうこうできることじゃない。むしろ、そのせいでアイに悪影響が及ぶなんてことは避けたいんだ」
「……その言葉で、より強く覚悟が決まりました。私の理解者、メルス君ならば何をされても構いませんよ」
普段の俺なら平然と受け入れられる発言。
しかし、今の俺はただの凡人でしかなく、美少女な見た目を誇るアイにそんなことを言われると人一倍羞恥心を覚えてしまう。
ただ、最近は似たような状況が多かったので、ほんの少しだけ慣れてきた。
……結局紅潮して思考が停止するものの、回復するまでの時間が速くなるだけだが。
右手だけを動かせるようにしたのは、最初からこれが目的だったからだと理解する。
理解者として、応えねばという思いが白い指輪を俺に掴ませた。
「アイ、手を……いや、右手でもいいから」
「? 大切な指輪は、決まった場所に嵌める物だと教わったのですが……」
「大切って……うぅ、【色欲】に染まった方がどれだけ楽だったか」
「メルス君。さぁ、どうぞ」
動かせると言っても、まだまだ完治はしていない手をプルプルと動かす。
差し出された左手の内、どうにか例の場所から避けようと調整を行う。
──が、人差し指に辿り着いた指輪は、何かに阻まれるようにして通らない。
「…………」
「…………」
「……何も、してないよな?」
「はい、していませんよ」
中指、小指、親指と試してみるが、それでも指輪は通らなかった。
すべてのアンデッドに使える指輪なので、通す指に制限は無いはずなんだがな。
残った指はあと一か所。
右側はそもそも後ろに隠しているので、試すこともできません。
ごくりと唾を嚥下し、意を決して指輪を最後の指に向けて押し出す。
これまでのような抵抗もなく、指に触れたそれは、ゆっくりと奥へ進んでいく。
「……通った。アイ、何か変化は無いか?」
「いえ、今は何も。メルス君、今度は私がメルス君に通してあげますね」
「いや、無理じゃないか? ほら、見ての通り全部埋まっているし」
「むぅ……」
俺はすべての指に指輪を通してある。
嵌めるだけで使える装飾具は便利だし、それが十個所もあるからな。
だが、本当はもっとたくさん付けたいということで、意思を宿さない指輪を統合できるモノまで嵌めて、それでなお十個だ。
アイはそんな俺の手を一瞥するも、残った黒い指輪を掴む。
どうやら俺に指輪を嵌めて、デスペナを治したいという気持ちの方が強いみたいだ。
「メルス君……どれなら外してもいいでしょうか? やっぱり、これですか?」
「いきなり自分と同じ場所を指すのは、恥ずかしくないか?」
「ご安心を、覚悟は決めましたので」
どんな覚悟だろうか、そう尋ねる前にアイは新たな覚悟をしてしまったらしい。
うんうんと独りで頷くと、自分が指輪をはめた場所と同じ場所に通そうとする。
文字通り、指一本動かせない側への侵攻のため、俺には抗うことなどできなかった。
そして、指輪が先に嵌っていた方と接触したその瞬間──黒い指輪が消失したのだ。
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