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偽善者と貯蓄期間 二十四月目
偽善者と生死の試練 その07
しおりを挟む思考を何千何万にも増やし、それらで魔手の制御を行っていた。
大量の武具を構えたまま、消していた魔手たちを再び動かす。
限界突破系の最上位スキル[神域到達]の効果で、俺自身のスペックが向上しており、さらに操縦精度がアップしていた。
同じく行使中の[代替行為]によって、俺と魔手の動きはインストールした過去の武人たちを完璧になぞれるようになっている。
「ここまでやれば勝てる……そう思ってたんだがな!」
「ふふっ。『超越種』として、『還魂』を冠する者としてのプライドがあります。とはいえ、有利ではないことが驚きです。対等で居る時点で、メルス君が一流の武人以上だと分かりますね」
「……腕二本でそれをやってのける、そんなアイさんに驚きだよ」
かつてネロは死者を纏い、振るう腕の数を増やす戦い方をしていた。
なのでアイも、同じことはできるはず……なのに、彼女はそれを行わない。
長杖を振るい、そこから魔法を飛ばす。
それをエンジンのように使って加速させ、無数の魔手が握る武器へ対応している。
そんな強引な動きをすれば、体に影響が出るだろう……が、今の俺や彼女に、そんな心配はいっさい要らない。
「……とはいえ、消費も尋常じゃない。回復が間に合わないレベルだな」
魔手と自身が握る武具、それらすべてに膨大な量の身力を注いでいる。
アイの持つ神器級の長杖に対抗するため、相応の力を注がなければ砕かれるからだ。
超高速での戦いを複数の思考で処理し、次に何をすればいいのかを別の思考で決める。
天才は一つの思考でできることを、凡人である俺は無数の思考で補っていた。
その対価として受ける脳細胞の死滅を、これまた別のスキルで直す。
これらすべてが[神域到達]により、普段より消費量が増えている……燃費が悪いのだ。
賄うのは[永劫回路]による、擬似的な無限増幅での供給のみ。
どれだけ無限に増やせようと、増やすための素が無ければ増やせない。
「となると──“湧き立つ衝動”!」
戦闘時に消費した身力分、回復速度が上がるというチート能力。
要するに戦えば戦うほど、継続戦闘能力が向上するというわけだ。
ただし、当然リスクも存在する。
一定時間ごとに判定が下され、確率で状態異常として強制的に【憤怒】の『蝕化』とされてしまう。
……なのでアルカは使わないが、俺の場合はそれは考えなくてもいい。
強引な『蝕化』の場合、{感情}で無効化されるらしいので。
「あら、メルス君の圧が上がりましたね」
「こうでもしないと、勝てそうにないから。やれることは、どんどんやっていくぞ」
「では、私も負けないように頑張らないと」
霊体たちからアイに向けて、身力が注がれていく。
何もせずに漂っていた霊体たちが、持て余すエネルギーがすべてアイの下へ。
これまでは考えて調整されていたものが、その枷を外された。
攻撃の処理速度も上げられてしまい、せっかく上げた回復量もどんどん削られる。
「んにゃろぉおお!」
「そう怒らないでください。メルス君、もう間もなくですよ?」
「もう間もなく……ああ、すっかり忘れていたな。なら──『憤怒纏魔』」
「これは……不滅の炎ですか」
アルカの生み出した魔法を、『模宝玉』経由で発動した。
ちょうど【憤怒】を使っていることもあって、纏う炎もなんだか火力が増している。
それらは武具を焼き焦がし、打ち合うアイにも影響を及ぼす。
溶けることはないが、炎が長杖に纏わりついてアイを焼こうとするのだ。
払うにも回復するにも、炎が粘りつくため膨大な身力を必要とする。
今は無敵状態のアイも、解除されたときに火が残っては困るので払うしかない。
「これなら……イケるか?」
「試されてみては?」
「ああ、最初から──その気だよ!」
果敢に攻め、少しずつ長杖にダメージを与えていく。
神器は不壊の性質を持つが、それは絶対ではない……条件を満たせれば破壊も可能だ。
そんな条件を満たしたうえで、俺はずっと攻撃を行っていた。
いかにアイが武人の技術を用いても、彼女自身が無敵だろうと──武器は必ず壊せる。
「砕けろ──“極斬撃”」
全身全霊を賭した、最高の一撃。
空飛ぶ二本の腕に力を籠めて剣を振るう。
その衝撃を受けた長杖は、とうとうその芯が折れ……砕け散った。
「お見事です、メルス君。できるだろうとは思っていましたが、それはこの後の試練を乗り越えた後だと思っていました」
「次? 次の試練が、長杖を攻略するヒントになっていたのか?」
「今となっては無意味な話ですが、次の試練が終わったとき、先ほどまで使っていた品は不壊では無くなっていました。──たった今無敵時間も終わりましたので、私自身への攻撃も可能となりましたよ」
「いや、試練を乗り越えるさ。アイさんを理解する、それは俺もやりたいことだ」
当初の目的は何一つ、変わっていない。
どんな方法を使っていたとしても、最後に一つ──アイを理解することを止めないという選択だけは行い続けよう。
「分かりました。では、これが最後となります──汝、生死の越境者。魂はすでに繋ぎ終え、終わりは始まりを迎えた。されば、次なる試練を執り行おう」
アイの宣言を聞き入れながら……突如として、俺の視界はブラックアウトし始める。
いったいなぜ、そう思うこともできない。
おそらくこれこそが、次の試練の内容!
──最後にそう思い、完全に俺の意識は途絶えるのだった。
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