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偽善者と貯蓄期間 二十四月目
偽善者と生死の試練 その04
しおりを挟む≪終わりの始まりを告げよう≫
その法則は単純──生命力を『1』で固定するものらしい。
魔力にも質があるように、攻撃を受けたら即死……ではないが、それでも死にかける。
「ん? 使用不可と反転は解除された……」
「試練も後半となりました。メルス君、準備はよろしいですか?」
「……慣れるからちょっと待ってくれ」
「慣れる?」
死にかけのまま戦い続けたくはないので、種族[不明]のスキル(未知適応)を行使。
強制固定に抗うため、体が俺の所持するスキルの中から最適解を導きだす。
生命力を癒しても変わらず、増大させてもそこは変わらない。
ならばどうするか……変換が可能だった以上、移すという行為は可能ということだ。
答えが分かれば、すぐに実行へ移る。
俺個人のものだった生命力を、別のナニカへ繋ぐことで拡張したのだ。
……問題はその先。
いったいどこへ繋がったのか、感覚的にそれが分かってしまった。
「っ……!」
「ふふっ。愛されていますね、メルス君」
「……そう、だな」
繋がったのは眷属たちの生命力。
たった1しか無かったはずの生命力が、今は外部から供給されることで増えていく。
抵抗しても送り込んでくる眷属たち、俺は繋がったラインをギリギリまで細める。
完全に繋がっていた線は、一割以下まで狭まった。
……死なば諸共は望むことではない。
せめてもの抵抗として、一人ひとりから貰う生命力は最低限にしておいた。
「──よし、これでいい。始めてくれ」
「分かりました。では、次へ参りましょう」
彼女の周囲を漂っていた魔力の塊、その数が一気に増える。
百や二百、それどころではない……そしてそれらは、鎧騎士の形を取っていく。
≪抵抗は生の特権≫
≪停滞は死の象徴≫
前者は回復の完全不可能化、後者はその蘇生版らしい。
アンデッドには回復や蘇生で攻撃……という、安易なやり方は通用しないわけだ。
蘇生が不可能、それはつまり俺たちも同じということ。
死んだら死に戻りはするだろうが、俺の場合は少々事情が違うのでそれは困る。
籠手も一度装備から外し、今度は宙に向けて手を伸ばす。
すると空間に亀裂が入り、そこから半透明な槍が一本飛び出してくる。
「──“螺旋投槍”!」
高い身体能力を使い、勢いよく握り締めた槍を騎士たちに向けて捻りながら放つ。
その際、槍の穂先はドリル状となり、ギュイィイイインと音を鳴らして飛んでいく。
騎士たちに命中した途端、鎧が炸裂して部品が飛び散る。
あまりの威力に、貫通もせずに爆散してしまったようだ。
「どうだ、これなら──」
「さすがにこれ以上は、あまり無茶をさせるわけにはいきませんね──『祝捧福音』」
かつての『宙艦』が行った、フィールド改変を思わせるエネルギーの感覚。
単純な攻撃ではない、だがそれ以上にこの場へ影響をもたらす……そんなナニカ。
ゆっくりと動き出すソレの姿を見て、どういった効果を持つのか理解する。
バラバラに吹き飛んだ部品が集い、元の形へと戻っていった。
「もともと私が生みだしたモノ。生と死の定義は、曖昧で両立しているのです」
「……そういうのって、【矛盾】って言うんじゃなかったっけ?」
「いいえ──『超越』と言うのです」
消し飛ばしたはずの鎧騎士、そのすべてがたった一言で復活した。
回復も蘇生も不可能なはずだが、試練の主である彼女は別なのだろう。
真の意味で、生と死を超越した『還魂』。
なればこそ、神殺しの力を込めたはずの槍すらも無効化した。
「なら、“透明迎撃”。“一連補射”」
槍を自動で迎撃する状態で抛り、二兆の拳銃に持ち替えて武技を使う。
魔力の弾丸を視界すべての鎧騎士を狙うように、聖と魔の力を籠めてバラ撒いていく。
「──『祝捧福音』」
「くっ、なら──“時止弾丸”!」
「無駄ですよ──『祝捧福音』」
「鎧騎士に起きた変化、そのすべての無効化能力……思った以上に厄介だな。しかも、本当だったら一度でもやられたら死亡だし」
そう呟きながら、手に嵌めた禍々しく虹色に輝く指輪に力を注ぐ。
もう一つ、聖なる腹帯の持つ想像補正を受け、イメージしながら魔法を形作る。
「“魔法創造:神呪”──“呪禍縛落”!」
「神気の籠もった呪い……ですか」
「生者を憎むわけでも、死者を貶めるわけでもない。ただ、全部を消すだけだ」
「……なるほど、これでは手の出しようがありませんか」
何をしたかといえば、アイの言った通り強引に復活を妨害しただけ。
それ以外にはいっさいの効果を持たない、今のところこの試練限定の魔法を創った。
改めて銃弾を撃ち込むと、鎧騎士たちは確実に数を減らしていく。
アイが例の能力を使っても、鎧騎士たちが再び動き出すことはない。
「……まあ、新しいのを用意されたら、俺もどうしようもないんだけど。どうする、また用意するのか?」
「いえ、やめておきましょう。より確実に、試練を遂行させてします──『環境変遷』」
「! それは……」
かつて『宙艦』が用いたフィールド改変能力……アイもまた、それを使えたのか。
「メルス君の出会った『宙艦』ほど、精度は高くありませんよ。とりあえず、この舞台を広くしましょうか」
彼女が望むだけで、試練会場である聖堂はその空間を拡張していく。
試練は後戻りできず、ただ進んでいく……今度は何をするのやら。
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