上 下
1,612 / 2,519
偽善者と貯蓄期間 二十四月目

偽善者と生死の試練 その04

しおりを挟む


≪終わりの始まりを告げよう≫


 その法則は単純──生命力を『1』で固定するものらしい。
 魔力にも質があるように、攻撃を受けたら即死……ではないが、それでも死にかける。


「ん? 使用不可と反転は解除された……」

「試練も後半となりました。メルス君、準備はよろしいですか?」

「……慣れるからちょっと待ってくれ」

「慣れる?」


 死にかけのまま戦い続けたくはないので、種族[不明]のスキル(未知適応)を行使。
 強制固定に抗うため、体が俺の所持するスキルの中から最適解を導きだす。

 生命力を癒しても変わらず、増大させてもそこは変わらない。
 ならばどうするか……変換が可能だった以上、移すという行為は可能ということだ。

 答えが分かれば、すぐに実行へ移る。
 俺個人のものだった生命力を、別のナニカへ繋ぐことで拡張したのだ。

 ……問題はその先。
 いったいどこへ繋がったのか、感覚的にそれが分かってしまった。


「っ……!」

「ふふっ。愛されていますね、メルス君」

「……そう、だな」


 繋がったのは眷属たちの生命力。
 たった1しか無かったはずの生命力が、今は外部から供給されることで増えていく。

 抵抗しても送り込んでくる眷属たち、俺は繋がったラインをギリギリまで細める。
 完全に繋がっていた線は、一割以下まで狭まった。

 ……死なば諸共は望むことではない。
 せめてもの抵抗として、一人ひとりから貰う生命力は最低限にしておいた。


「──よし、これでいい。始めてくれ」

「分かりました。では、次へ参りましょう」


 彼女の周囲を漂っていた魔力の塊、その数が一気に増える。
 百や二百、それどころではない……そしてそれらは、鎧騎士の形を取っていく。


≪抵抗は生の特権≫
≪停滞は死の象徴≫


 前者は回復の完全不可能化、後者はその蘇生版らしい。
 アンデッドには回復や蘇生で攻撃……という、安易なやり方は通用しないわけだ。

 蘇生が不可能、それはつまり俺たちも同じということ。
 死んだら死に戻りはするだろうが、俺の場合は少々事情が違うのでそれは困る。

 籠手も一度装備から外し、今度は宙に向けて手を伸ばす。
 すると空間に亀裂が入り、そこから半透明な槍が一本飛び出してくる。


「──“螺旋投槍スパイラルスロー”!」


 高い身体能力を使い、勢いよく握り締めた槍を騎士たちに向けて捻りながら放つ。
 その際、槍の穂先はドリル状となり、ギュイィイイインと音を鳴らして飛んでいく。

 騎士たちに命中した途端、鎧が炸裂して部品が飛び散る。
 あまりの威力に、貫通もせずに爆散してしまったようだ。


「どうだ、これなら──」

「さすがにこれ以上は、あまり無茶をさせるわけにはいきませんね──『祝捧福音』」


 かつての『宙艦』が行った、フィールド改変を思わせるエネルギーの感覚。
 単純な攻撃ではない、だがそれ以上にこの場へ影響をもたらす……そんなナニカ。

 ゆっくりと動き出すソレの姿を見て、どういった効果を持つのか理解する。
 バラバラに吹き飛んだ部品が集い、元の形へと戻っていった。


「もともと私が生みだしたモノ。生と死の定義は、曖昧で両立しているのです」

「……そういうのって、【矛盾】って言うんじゃなかったっけ?」

「いいえ──『超越』と言うのです」


 消し飛ばしたはずの鎧騎士、そのすべてがたった一言で復活した。
 回復も蘇生も不可能なはずだが、試練の主である彼女は別なのだろう。

 真の意味で、生と死を超越した『還魂』。
 なればこそ、神殺しの力を込めたはずの槍すらも無効化した。


「なら、“透明迎撃”。“一連補射ガトリングショット”」


 槍を自動で迎撃する状態で抛り、二兆の拳銃に持ち替えて武技を使う。
 魔力の弾丸を視界すべての鎧騎士を狙うように、聖と魔の力を籠めてバラ撒いていく。


「──『祝捧福音』」

「くっ、なら──“時止弾丸”!」

「無駄ですよ──『祝捧福音』」

「鎧騎士に起きた変化、そのすべての無効化能力……思った以上に厄介だな。しかも、本当だったら一度でもやられたら死亡だし」


 そう呟きながら、手に嵌めた禍々しく虹色に輝く指輪に力を注ぐ。
 もう一つ、聖なる腹帯の持つ想像補正を受け、イメージしながら魔法を形作る。


「“魔法創造:神呪”──“呪禍縛落”!」

「神気の籠もった呪い……ですか」

「生者を憎むわけでも、死者を貶めるわけでもない。ただ、全部を消すだけだ」

「……なるほど、これでは手の出しようがありませんか」


 何をしたかといえば、アイの言った通り強引に復活を妨害しただけ。
 それ以外にはいっさいの効果を持たない、今のところこの試練限定の魔法を創った。

 改めて銃弾を撃ち込むと、鎧騎士たちは確実に数を減らしていく。
 アイが例の能力を使っても、鎧騎士たちが再び動き出すことはない。


「……まあ、新しいのを用意されたら、俺もどうしようもないんだけど。どうする、また用意するのか?」

「いえ、やめておきましょう。より確実に、試練を遂行させてします──『環境変遷』」

「! それは……」


 かつて『宙艦』が用いたフィールド改変能力……アイもまた、それを使えたのか。


「メルス君の出会った『宙艦』ほど、精度は高くありませんよ。とりあえず、この舞台を広くしましょうか」


 彼女が望むだけで、試練会場である聖堂はその空間を拡張していく。
 試練は後戻りできず、ただ進んでいく……今度は何をするのやら。


しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

World of Fantasia

神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。 世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。 圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。 そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。 現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。 2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。 世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。

パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。

荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品 あらすじ  勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。  しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。  道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。  そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。  追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。  成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。  ヒロインは6話から登場します。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

処理中です...