1,611 / 2,518
偽善者と貯蓄期間 二十四月目
偽善者と生死の試練 その03
しおりを挟む「はぁ……ふぅ」
普段とは違い、能力値は全開だ。
多少の疲労感は一度の呼吸を行うだけで、それらを拭い去ることができる。
纏うのは、<大罪>と<美徳>の概念より生み出された無数の聖・魔武具。
今は回復がダメージなっているようだが、それを自分で反転させて平常に戻している。
触れられたら即死、罪のない者たちを傷つけたら……よりひどいペナルティ。
それでもどうにか俺なりの振る舞いを守り続け──ここまで辿り着く。
「……おそらく、試練として本来の在り方では無くなったことでしょう」
「…………」
「メルス君、そしてその眷属の方々に怨恨を持つ霊体はこれだけではありません。ですがメルス君は、それらから目を逸らした。扉を閉じ、祓い清めた」
用意されていた悪霊たちを、俺はすべて消し去っていた。
減らした分を増やすための門も、今は花々が咲き誇り塞いでいる。
「ありふれた言葉だが、生きる中で償いは示す。戦いたくてきたわけじゃない、それは亡者たちだけじゃない……アイともだな」
少なくとも、『宙艦』との試練は本体と戦わずとも幕を閉じた。
……宇宙で生存できるクジラ(型迷宮)と戦おうとして、勝てるかは微妙だが。
しかし、少なくとも『還魂』ことアイドロプラズムに不敗の概念は無いだろう。
チートの限りを尽くして戦えば、いずれ勝つことはできる……が、俺はそれをしない。
「アイも別に、俺と戦うために試練を用意してくれたわけじゃないだろう? 償いをする機会、それを用意してくれた。だけど、一つ言いたいことがあって……霊の数、多すぎやしないか?」
「メルス君一人であれば、もっと少なかったのですが……仕様と思ってください。ただ、メルス君たちと縁を持つ霊体たちは、最初から配置していました。なので、悪意を持たない皆さんは見ておられますよ」
「……そうか、あれが関係者か」
魂魄眼を死霊眼に切り替えると、魂魄を捉えていた場所に人型の霊体たちが映る。
多様な種族たちが漂っており、希薄な表情でこちらを見ていた。
それらすべてを視認し、記憶系スキルを駆使して正確に写し取っておく。
……誰が誰の関係者なのか分からないし、ずっと視ているのもアレだしな。
アイの配慮には感謝したい。
悪霊は時が経てば経つほど増えて、それに感染するように彼らの中から悪霊が出ていた可能性もあったのだから。
それでも全員が居て、俺がそれを祓わずにいたことで彼らを視ることができた。
眷属にも、そんな彼らの姿を見せることができるだろう。
「アイは、これからどうするんだ?」
「試練の執行者にそれを直接訊きますか……試練は続きます。メルス君はまだ、理解しておりませんので」
「まあ、そうだな。ただ、確認しておきたいことがあるんだが──彼らは成仏できないのか? それとも、呼び戻したのか?」
輪廻や転生の概念があるのは、神や神代の書物から把握している。
今を生きる人々も、循環する魂について神話の概念として知っていた。
何かのしこりを残す者は、死後も現世に留まり事を成そうとする。
霊体と魂魄だけとなったその身でも、魔力のあるこの世界ならば不可能ではない。
……だからこそ、アイに問いかける。
彼らはどうしてこの場に居り、今もなお居続けているのか。
「……メルス君。神々の行いのすべてが、人族に理解されるわけではありません。それはメルス君自身が、よく知っているはずです」
「……俺もそうだけど、運営神もだな」
「はい。この身は無数の神々が生みだした、生と死を司る『超越種』。しかし、それと同時に永い時を見守り続けてきた、観測者でもあります。短命種だけでなく、長命種を輪廻の環に還したことだってあります」
大切な話っぽいので、聞き続ける。
……魔力回復も地道に進んでおり、回復ではなく『変換』という形で生命力の方も少しずつ戻ってきていた。
「彼らは死に、輪廻の環を通りすべてを忘れました。転生し、魂魄を輝かせていることでしょう。しかし、過去は残ります。どこでもない、紛れもないこの世界に」
「……バックアップ、か?」
「その通り。死者は忘れません、行ったことも行われたことも。記憶とは脳にあり、魂魄に刻まれるもの。そして、それらは生涯という形で収められます──この場に居る者たちは、そこから読み取られた者たちなのです」
曰く、過度に干渉しないためのシステムとのことだ。
あくまで『還魂』に与えられた、権能でしかできないことらしい。
「彼らは見届け人。メルス君が何を以って、眷属の皆さんの償いを果たすのかを。彼らの判決次第で、私は裁きを下すでしょう」
「……なら、もっと頑張らないとな」
「そうですか。では、試練を続けましょう」
俺も気を引き締め、次なる試練の内容がどういったものか注意を張り巡らせた。
そして、その内容が──
≪終わりの始まりを告げよう≫
その瞬間、感じたことの無いような痛みが苛んだ。
抗うことのできない、試練によって定められた死の宣告。
気づけば俺のHPゲージは……『1』を指し示していた。
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~
三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】
人間を洗脳し、意のままに操るスキル。
非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。
「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」
禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。
商人を操って富を得たり、
領主を操って権力を手にしたり、
貴族の女を操って、次々子を産ませたり。
リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』
王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。
邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる