1,610 / 2,519
偽善者と貯蓄期間 二十四月目
偽善者と生死の試練 その02
しおりを挟む──“神殺滅封・律喰界花”。
この前半部分の名を冠した能力を、かつて俺は別世界で使用した。
それは世界を、神をも捕食した花々に用いた剣の力。
攻撃した対象を能力名通り、殺すか滅するか封印することができる。
俺は封印を指定し、それは成された──そして今、再び異世界にて花は芽吹いた。
□ ◆ □ ◆ □
「……これは?」
「厄介な花だよ、悪辣なほどにな」
死霊を自動召喚する門に咲いた花々は、門に根を張って侵蝕を続けている。
少しずつ、花々が咲けば咲くほど、現れる死霊の数が減っていく。
「ふふっ、やりますねメルス君。まさか、私ではなく門の方を止めようとするとは……普通は破壊不可能なんですよ?」
「ああ、それはなんとなく分かっていた。だからこそ、ああした。それに……アイ、君をただ攻撃するだけじゃダメなんだろう?」
「そこまで……そこまで分かっておいでですか。初めてのお相手がメルス君ですので、ここまでご理解いただけていると……少し怖いぐらいです」
「こういう時、なんて言えばいいんだか。とりあえず、怖がらないでほしいかな」
会話をしている間も、門は花々によって侵される。
死霊たちも自分が現界するための入り口を塞がれまいと、抗ってはいた。
しかし、さすがは世界一つを平らげた貪食さを持った、摩訶不思議な花々である。
どんどん花開くことで飽和していき、最後には扉となって門を塞ぐほどに増えていた。
「これで、しばらくは持つだろう」
「では、これから私を殺しますか?」
「いや? 試練を続けてくれ。一気に飛ばすこともできるんだろう?」
「……分かりました」
脳裏に直接響いていた試練の内容。
それは続いていく連文、思考系スキルの考察はそう挙げていた。
いずれは門にも変化が起きるかもしれないので、早急に試練を進ませておきたい。
……アイってたぶん、死霊が居れば居るほど有利な状況を作りそうだし。
≪死とは痛みの証明≫
≪死は分かつもの≫
≪死は別つもの≫
≪何故に生に拘る≫
≪生と死は同義なり≫
≪死を尊び生を嘆け≫
一気に脳裏に流れ込んできた情報の塊。
そのたびに門が内側から爆発するように揺れ動くが、花々がそれでも門を開くことはなく、自分たちを咲かせ続ける。
本来それら一つひとつが、挑戦者たちに無数の縛りを設けるのだろうが……真っ当な方法で眷属の制裁を受けようとすると、この日だけでも収まりそうにないからな。
何が起きたか、それを知らねばならない。
周囲に魔力を展開することで、辺りへ干渉できるようにしておく。
「──“内外掌握”、“世界構築”」
掌握し、内部で自分だけの領域を生む。
試練は絶対なので逆らえないだろうが、自分が今どういう状態にあるのか知ることぐらいはできるだろう。
「……攻撃は自分に返ってきて、回復と光属性は使用不可能か。おまけにダメージは反転して、時間ごとに死霊が増える」
「あら、もう分かってしまいましたか?」
「浄化ができない中で、どうやって浄化すればいいんでしょうかねぇ?」
「それを知ってもらうための、私の試練なのですよ。さぁ、見せてください」
バッと手を広げ、完全無詠唱で何かの魔法が展開される。
彼女の周囲にも無数の魔力の塊が漂い、その身を守り始めた。
「なら──来い、『反理の籠手』」
剣は独りでに鞘へ収まり、代わりに俺の手には籠手が装着される。
回復が使えない現状において、戦うための手段は限られていた。
≪生を儚み死を選べ≫
さらに告げられる試練。
内容は……触れただけで即ゲームオーバーとなる。
死霊たちも同じ恩恵を受けているため、近距離戦は愚の骨頂。
それでも俺は拳を構え、残っている悪霊たちの駆除に励む。
「──“接触反転”、“因果改変”」
ダメージは回復へ、消滅は浄化へ。
自身への接触も無害なモノへ引っ繰り返しておき、ひたすら悪霊を殴り続ける。
その分、魔力がゴリゴリと削られていく。
しかし[永劫回路]が強引に魔力を生成し、消費した傍からそれを補う。
アイ自身が悪霊を招き入れない以上、事前に呼び出された者たちを消してしまえば攻撃されるリスクは激減する。
「扉を開かれる前に、なんとかしないとな」
俺は現在、門の前に立っている。
花だって生きているのだ、アイの展開する試練の中では同様に触れられれば死ぬ。
悪霊たちは、仲間を解放するためにどうにか扉に触れようとしている。
厄介なのは、他の霊体たちも脅しているため、間違えて触れないように気を遣う点だ。
「──“近身打”!」
防御を捨て、攻撃特化状態へ……触れられたら終わりな現状だし。
スキル補正の動きも、いっさいの防御行動が失われて闘うことのみを指し示す。
取っておいた右目の神眼を反射眼にし、全方位からの攻撃へ対処する。
そこにも補正は働き、体が限界を超えた挙動で悪霊たちを浄化させていく。
アイはそれでも何もしてこない。
一体でも罪なき霊体を傷つけたら動くのかもしれないが、少なくとも把握している限りでは、しっかりと判別をつけていた。
間もなく悪霊の駆除が終わる。
──アイはその後、どう動くのだろうか。
0
お気に入りに追加
516
あなたにおすすめの小説
パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。
荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品
あらすじ
勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。
しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。
道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。
そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。
追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。
成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。
ヒロインは6話から登場します。
World of Fantasia
神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。
世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。
圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。
そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。
現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。
2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。
世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。
食うために軍人になりました。
KBT
ファンタジー
ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。
しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。
このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。
そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。
父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。
それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。
両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。
軍と言っても、のどかな田舎の軍。
リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。
おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。
その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。
生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。
剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる