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偽善者と貯蓄期間 二十四月目

偽善者と生死の試練 その02

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 ──“神殺滅封・律喰界花”。

 この前半部分の名を冠した能力を、かつて俺は別世界で使用した。
 それは世界を、神をも捕食した花々に用いた剣の力。

 攻撃した対象を能力名通り、殺すか滅するか封印することができる。
 俺は封印を指定し、それは成された──そして今、再び異世界にて花は芽吹いた。


  □   ◆   □   ◆   □


「……これは?」

「厄介な花だよ、悪辣なほどにな」


 死霊を自動召喚する門に咲いた花々は、門に根を張って侵蝕を続けている。
 少しずつ、花々が咲けば咲くほど、現れる死霊の数が減っていく。


「ふふっ、やりますねメルス君。まさか、私ではなく門の方を止めようとするとは……普通は破壊不可能なんですよ?」

「ああ、それはなんとなく分かっていた。だからこそ、ああした。それに……アイ、君をただ攻撃するだけじゃダメなんだろう?」

「そこまで……そこまで分かっておいでですか。初めてのお相手がメルス君ですので、ここまでご理解いただけていると……少し怖いぐらいです」

「こういう時、なんて言えばいいんだか。とりあえず、怖がらないでほしいかな」


 会話をしている間も、門は花々によって侵される。
 死霊たちも自分が現界するための入り口を塞がれまいと、抗ってはいた。

 しかし、さすがは世界一つを平らげた貪食さを持った、摩訶不思議な花々である。
 どんどん花開くことで飽和していき、最後には扉となって門を塞ぐほどに増えていた。


「これで、しばらくは持つだろう」

「では、これから私を殺しますか?」

「いや? 試練を続けてくれ。一気に飛ばすこともできるんだろう?」

「……分かりました」


 脳裏に直接響いていた試練の内容。
 それは続いていく連文、思考系スキルの考察はそう挙げていた。

 いずれは門にも変化が起きるかもしれないので、早急に試練を進ませておきたい。
 ……アイってたぶん、死霊が居れば居るほど有利な状況を作りそうだし。


≪死とは痛みの証明≫
≪死は分かつもの≫
≪死は別つもの≫
≪何故に生に拘る≫
≪生と死は同義なり≫
≪死を尊び生を嘆け≫


 一気に脳裏に流れ込んできた情報の塊。
 そのたびに門が内側から爆発するように揺れ動くが、花々がそれでも門を開くことはなく、自分たちを咲かせ続ける。

 本来それら一つひとつが、挑戦者たちに無数の縛りを設けるのだろうが……真っ当な方法で眷属の制裁を受けようとすると、この日だけでも収まりそうにないからな。

 何が起きたか、それを知らねばならない。
 周囲に魔力を展開することで、辺りへ干渉できるようにしておく。


「──“内外掌握”、“世界構築”」


 掌握し、内部で自分だけの領域を生む。
 試練は絶対なので逆らえないだろうが、自分が今どういう状態にあるのか知ることぐらいはできるだろう。


「……攻撃は自分に返ってきて、回復と光属性は使用不可能か。おまけにダメージは反転して、時間ごとに死霊が増える」

「あら、もう分かってしまいましたか?」

「浄化ができない中で、どうやって浄化すればいいんでしょうかねぇ?」

「それを知ってもらうための、私の試練なのですよ。さぁ、見せてください」


 バッと手を広げ、完全無詠唱で何かの魔法が展開される。
 彼女の周囲にも無数の魔力の塊が漂い、その身を守り始めた。


「なら──来い、『反理の籠手』」


 剣は独りでに鞘へ収まり、代わりに俺の手には籠手が装着される。
 回復が使えない現状において、戦うための手段は限られていた。



≪生を儚み死を選べ≫


 さらに告げられる試練。
 内容は……触れただけで即ゲームオーバーとなる。

 死霊たちも同じ恩恵を受けているため、近距離戦は愚の骨頂。
 それでも俺は拳を構え、残っている悪霊たちの駆除に励む。


「──“接触反転”、“因果改変”」


 ダメージは回復へ、消滅は浄化へ。
 自身への接触も無害なモノへ引っ繰り返しておき、ひたすら悪霊を殴り続ける。

 その分、魔力がゴリゴリと削られていく。
 しかし[永劫回路]が強引に魔力を生成し、消費した傍からそれを補う。

 アイ自身が悪霊を招き入れない以上、事前に呼び出された者たちを消してしまえば攻撃されるリスクは激減する。


「扉を開かれる前に、なんとかしないとな」


 俺は現在、門の前に立っている。
 花だって生きているのだ、アイの展開する試練の中では同様に触れられれば死ぬ。

 悪霊たちは、仲間を解放するためにどうにか扉に触れようとしている。
 厄介なのは、他の霊体たちも脅しているため、間違えて触れないように気を遣う点だ。


「──“近身打インファイト”!」


 防御を捨て、攻撃特化状態へ……触れられたら終わりな現状だし。
 スキル補正の動きも、いっさいの防御行動が失われて闘うことのみを指し示す。

 取っておいた右目の神眼を反射眼にし、全方位からの攻撃へ対処する。
 そこにも補正は働き、体が限界を超えた挙動で悪霊たちを浄化させていく。

 アイはそれでも何もしてこない。
 一体でも罪なき霊体を傷つけたら動くのかもしれないが、少なくとも把握している限りでは、しっかりと判別をつけていた。

 間もなく悪霊の駆除が終わる。
 ──アイはその後、どう動くのだろうか。


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