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偽善者と貯蓄期間 二十四月目
偽善者と橙色の学習 その12
しおりを挟む予想通りというかなんというか、キシリーは俺からの申し出を受け入れた。
ただ、周りへの影響を考えて戦う場所は四階層へ変更……試練は停止させてある。
俺たちと会う前から、キシリーはその身に華装を纏っていた。
代々引き継がれし『賢者』の華装、それは『勇者』同様にらしいと思える格好である。
外套を羽織り、巨大な杖を握り、大規模な魔法を使うだけの魔力を生み出す。
智を尊ぶ『賢者』そのもの、そういった概念が形となって現れていた。
「準備はいいか?」
「……『華装』はどうされましたか?」
「あー、まあ仕方ないか──『開花』」
俺が取り出した蕾状のアイテム。
そこに魔力を籠めることで、この世界の者たちは世界の恩恵にあやかることができる。
本来、そのアイテムの原型である『種思』は一人ひとつ。
どれだけ足掻こうと、個人の魂魄を糧に育つから変更できないのだが……。
「『造花[守式]』。量産型の華装ではあるが、充分強いと思うぞ」
「量産型? 本当にそんなものが……」
「結構地味だろう? いやー、個人のパーソナリティに依存したデザインだと、不服な奴がかなり居てな。だから──創った」
「創った!?」
擬似魂魄を糧に育った種思を、誰でも使えるように調整しただけだ。
普通は不可能な芸当だが、俺には生産神の加護が宿っているからな。
ちなみに警備員とかが付けていそうな、プロテクターなどを想像してもらいたい。
あとは花とか葉っぱとか、そういう装飾をイメージできれば……それが[守式]だ。
「──では、二人とも準備はよろしいでしょうか?」
「俺はいつでも」
「え、ええ、問題ありません」
「分かりました──では、試合開始」
事前の取り決めとして、判定はアンが公平に決めるということになっている。
キシリーも異論はないのか、何も反論してこなかったな。
「本当にいいのか? こっちの関係者が審判で……有利にするかもだぞ?」
「構いません。それを超えるだけの実力を、見せればいいのですから──“魔球”」
「ひーふーみーよー、いつむー……多いな。なら、こっちは──“軌道操作”」
「……術式に干渉し、動きそのものを書き換えるものですか。自身の周りに展開すれば、それを逸らすためだけに使うことが可能。とてもいい魔術だと思います」
この世界の『賢者』は、解析能力にも秀でているようだ。
無数に放たれた球を逸らすために使った魔術が、一瞬で解析されてしまった。
……もちろん、アンたちがそんな対策もしていないわけないけど。
これはお礼とお詫び、そのために隠蔽を事前に外して使っているのだ。
「さすがは『賢者』様ってところか? いきなり丸裸にされるとはな」
「あなたもこれを見せるのが目的では無いはずです。何を企んでいるのですか?」
「アンの理論を見たなら、いや理解したなら分かるはずなんだがな。もう少し、お勉強をしようぜ──“追尾魔弾”!」
「……ッ! 解析、できない? な、なら、“軌道操作”で!」
おそらく、これまで解析できなかった魔術など存在しなかったのだろう。
すべての魔術がシステムとして登録されているこの世界、『賢者』はそれを視る。
膨大な情報から既存のモノを取り出し、未知に対応していく。
だが、誰も知らないモノを知るためには、ほんの一瞬という時間では足りなさすぎる。
先ほど“軌道操作”を視ることができたのも、それが分かるようにされていたから。
今の彼女がこれまでとはまったく異なる理論を暴くには、常識の壁が邪魔になる。
「異世界人……まさか、あなたがたが?」
「強引な推理だけど、理由は聞かないでおくよ。おめでとう、大正解!」
「信じられない……ですが、いつの間にこの世界へ?」
「まあ、勝てたら教えるさ。面白いことってのは、やっぱり楽しまないと」
わざわざ情報を開示しているのは、彼女にも協力させるため。
ライカにもいずれリアが教え、最後には赤色の世界と同じ未来を辿ってもらう。
なんて会話で俺もキシリーも時間を稼ぎつつ、魔力を溜め込んでいた。
そして、それに特化した華装を持つ彼女が先に溜め終える。
「いきます──“水柱巨砲”!」
「おおっ、これが魔法か……といかないんだよ。うん、知ってるから──“木壁”」
この世界の人の中で、ようやく見つけた魔法使いが放った大量の水。
それを築いた木の壁によって、吸水しながら防いでいく。
この世界において、魔法とは扱いづらいモノと化している。
システムによる補助が行われていない、それが大きな理由だ。
「まだ知らない、それが敗因だよ」
「……そう、ですね。あなたがたはそれを、知っていると」
「『賢者』と言えど、キシリーはあくまでも橙色の『賢者』。たとえこの世界のことをすべて知っていても、この世界と他の世界の二つを知る俺には敵わない」
宇宙に行くのと違い、AFO世界のシステムはこの地でも機能している。
恩恵と『華装』──単純にそれだけでも、俺は二倍強くなるわけだし。
「俺と手を組め。いずれ来るそのときのために、お前の力は必要だ」
「……対価は?」
「お察しの通り、情報だ。こっちのアンは、魔術も魔法もどっちも上手い。あと、教えるのもな……どうする?」
「……しばらくは、様子見です。あなたがたが何を成すのか、じっくりと調べます」
差し伸ばした手を、彼女は掴み返す。
まだお試し期間ではあるが……二人目、確保だな。
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