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偽善者と貯蓄期間 二十四月目
偽善者と橙色の学習 その04
しおりを挟む「これが……試練の本か?」
「はい。ヒント通りであれば、ですが」
膨大な本が収められている地下一層から、たった一冊の題名も分からない本を探す。
それはひどく長い時間が掛かる……と思われていたのだが、意外と早く見つかった。
理由は魔物からドロップしたヒントの欠片から、特定の場所を割り出せたこと。
直接場所を示唆するものは無かったが、ここには解析を得意とするアンが居る。
彼女にヒントの意味を理解させ、場所を調べてもらう。
お陰様ですぐに行き先が分かり、そこに目的の本が収められていた。
「じゃあ、中身をっと……ん?」
「おや、これはこれは……試練は司書、散らばる本を片付けることが内容のようですね」
「……あーあ、認識したら始まったよ」
俺とアンが本の内容を理解したことで、試練が幕を開く。
ありとあらゆる場所から本が飛び散り、そのまま地面に落下する。
「飛ぶわけじゃないのか」
「まだ一階層目の試練ですので。おそらく、記憶力や情報理解度を調べているのかと」
「……ランダムだってのに、わざわざ七面倒なことをやらせるな。アン、任せ──」
「ではメルス様、わたしは少し調査したいことがございますので。整頓の方、よろしくお願いします」
全部アンに押し付けようと思ったのだが、言わせてももらえずどこかに行ってしまう。
たしかにアンに全部任せるのでは、俺がここに居る理由が無くなってしまうか。
「……分からない物があったら、教えてくれよ。さすがにそこまでは難しい」
《はい。メルス様が、そう望まれるのなら》
「……いい眷属を持ったな、俺は」
《嫁、でも構いませんよ?》
最後の一言は聞かなかったことにする……が、念話なのでそれは無理か。
だがどうにかそれを誤魔化すため、目の前の本に注目するのだった。
◆ □ ◆ □ ◆
整頓スキルが整理スキルに進化できます。
きっとそんな宣伝文句を付ければ、進化できずにいた人々がいっせいに集まるだろう。
ひたすら延々と本を見ては、書庫に残った本を参照に場所を特定して戻していく。
そうした作業を無限のように思える時の中で繰り返していると、ふと気づいた。
自分が感覚的に戻すべき場所を察し、勝手に本を収めていることに。
戻す場所が違うと入らない仕様なのだが、それが発動することは一度も無かった。
もともと整理整頓は好きな方だ。
きちんと並べられた物の数々を眺めると、満足感が生まれるから……という至ってシンプルなものではあるが。
「──まあ要するに、好きな物こそ上手なれだな。どうにか完了しました!」
「……驚きです。そういった習慣があることは知っておりましたが、まさかこれほどまでとは。このアン、感服いたしました」
「いや、片付けができただけでそんな反応をされると困るんですけど……わざとだな?」
「いえいえ、まさかまさか。そんなはずないじゃないですかー。わたし、ぜったい、うそつかないヨ」
エセ外人みたいなニュアンスなので、信じる必要は無いな。
試練ですり減った心も、アンとの会話で少しずつ癒えていく。
「あっ、本が……勝手に」
「試練達成、ですね。メルス様と……ついでにわたしの分も許可状が出ました」
「アンも手伝ってくれたってことだろう? だいぶ脳の処理が楽だったし、それも加味した結果ってことだ」
「……陰ながら夫を支える妻って、イイと思いませんか?」
イイ……とは思うが、まさかそのために一人でやらせていたのだろうか?
それ自体は男として嬉しいんだが……嵌められた感が凄いな。
「スキルを得られるだけの経験ができたし、別にいいんだけどさ。実際には何をやっていたんだ?」
「魔物化した本の言語パターンを把握しておりました。メルス様が居られると、個体すべてが一瞬で狂暴化してしまうので実行できませんでした」
「あー……そりゃあごめんなさい。で、実際に何か掴めたのか?」
呪われて常時他者から嫌われている俺は、魔物たちにも害悪の対象として見られる。
なので知能が低い魔物の場合、一瞬で発狂して吶喊してくることがあるのだ。
そのせいで、アンはやりたかったことができずに後回しにしてしまった。
人は顔を認識してそう感じるが、魔物って視覚が無いのもいるからか敏感なんだよな。
「ある程度は。少なくとも、同じ属性の本であれば、共通の文字が確認できました。それが実際に書かれた本が、どう影響を起こすのか試してみようかと」
「それ、役に立つのか?」
「魔本同様、本型の魔物で魔法を行使できるようになるかと。しかも魔本と異なり、魔力に関する改造を受け付けますので、大規模な魔法や特殊な魔法を発動させることも……」
「狂気の実験だな……改造って辺りが、特にそれを強めてる」
ある意味俺も被験者の一人だから言っておくが、実際には体に悪影響は残らない。
というか、そういう実験を協力者たちが試しているので安全なものだけが残る。
「今回は対象が本ですし、複製した物のみを使ってまずは試してみます」
「で、その魔改造版の本をアイツらに使わせてみるってことか?」
「自由が掛かっていますので、彼らも使える物は使ってみることでしょう……もちろん、自己責任で」
協力者が善意で協力しているのか、大半はそのなのだが……残念ながら、善意で助けてくれる人々に任せることができないようなことも、俺と眷属たちは行っていた。
「表も裏も知っていると、なんだか気が重くなるな……あー止め止め! さっさと二階層目の試練を見つけるぞ!」
「ええ、畏まりました」
ちなみに、俺の気が重くなるのは──あくまでも眷属に協力させてしまっていること。
別にソイツらがどうこうという点は、綺麗さっぱりどうでもいいのである。
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