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偽善者と貯蓄期間 二十四月目
偽善者と橙色の学習 その03
しおりを挟む橙の図書庫
迷宮と化している図書館の地下。
そこには無数の本が収められており、周囲には上層以上のインクの香りが漂っている。
上で手続きを済ませ、地下へ潜ってきた俺たちを迎え入れたのはそんな光景だった。
互いに森人らしい武装を整えて、周囲に警戒していく。
毎度お馴染み、空間拡張が行われているここはかなり広くなっていた。
迷宮も下の階があるようなので、それを突破しなければならない。
「ここには何が出てくるんだ?」
「本型の魔物ですね。本の色、載っている内容によって行動パターンにも多様な変化が生じるため、一瞬でそれらを解読するのは困難とされています」
「でも、アンならできるんだろう?」
「……そう在れと、メルス様が望むならば」
俺は弓に矢を番え、アンは短剣を構える。
かなりひどい見解ではあるが、森人ってこういう武器しか使わなさそうだもんな。
最近習得した森弓術スキルを作用させるため、弓も矢も天然素材を使用している。
短剣は……特にスキルで縛りがあるわけでもないので、アンが自分で用意していた。
「結構機械チックなんだよな……振動でもしるのか?」
「さすがはメルス様、お目が高い。とある書物を参考に、切れ味を高めるために必要なことすべてを搭載した万能短剣でございます」
「……その書物って?」
「お察しの通りかと」
俺の記憶に眠る創作から、そういった技術のみを抽出したわけか。
アンの肉体は神性機人、テクノロジーの産物を組み込むのは容易だっただろう。
決して、いかがわしい内容の本とかでは無いはずだ。
……カナタと念入りに探して、それでも見つけられなかったからな。
「……まあ、いいや。とりあえず、下に行くことを目指せばいいんだよな?」
「はい。試練はそれぞれの階層で行われ、クリアすることで、上層でも同じ階層分の閲覧権を得ることができます。ただし、紹介されて得た閲覧権は無効となっています」
「よくもまあ、そこまで調べてくれたな」
「事前に説明を受けましたので」
俺も聞こうと思ったが、アンが聞いていたので省いてここに来ている。
……そのせいか、俺は物凄くバカなヤツを見る目で事務処理をされたんだよな。
「メルス様、遠方に魔物が──『飛本』と呼ばれる、位階も低めな種族です」
「……おー、本当に本の形をしているな。飛ぶのは面白いけど、それだけか。あれって読むことができるのか?」
「魔物化したことで、内容がデタラメになっております。討伐後も、本体はそのままですね。ただし、ごく稀にドロップする本は正しい文章で落ちるとのことです」
「『狂愛包丁』を使えば、絶対にドロップさせられるな。けど、壊してもいいのか?」
運が良ければドロップするとはいえ、そうならなかったときに失われてしまえば、情報という価値あるモノが失われてしまう。
「問題ありません。本が眠る迷宮は、その本もまた復元対象に含みます。なので条件を満たすことで、何度でも魔物となって現れることになります」
「あっ、取り放題ではないんだな?」
「魔物化した物は一日もすれば、そうでない場合でも資格を持つ者のみが開くことができます。ただ、再配置に一月掛かるそうです」
「……面倒臭い。資格ってのは、つまり許可状のことだよな?」
ここの森人たちも、貴重な文献を読むためにちゃんと調べているようだ。
──なんて話をしていると、アンが補足していた魔物がだいぶ近づいてきていた。
「試してみるか──“樹矢生成”」
木弓用の武器なので、それに合わせた装備スキルを組み込んである。
弓から枝葉が伸び、矢を模っていく。
魔力を籠めれば、無限に生みだす仕様だ。
「教わって、だいぶ上手くなったんだよな。ほら──どうだ?」
「お見事です、さすがはメルス様」
「その割には二本必要だったけどな。……俺は悪くない、的が小さいのが悪いんだ」
一冊倒したからか、次々と飛んでくる飛冊相手にどんどん矢を撃つ。
アンは短剣を持って前に進み出ると、鮮やかな手捌きで本を斬っていく。
しばらく撃っていくと分かったのだが、本のどこかに魔石が嵌っている。
それに当てさえすれば、相手に何もさせずに倒すことができるようだ。
「そういえば、試練って具体的にどこで受けるんだ?」
「不明です。この広い書庫のどこかに、試練の内容が記された本があり、それを満たすことでその本が許可状になるとのことですが」
「……嘘だろ、この中から探すのか?」
何千何万、もしかしたらそれ以上の本がここには収められているというのに、そこから見つけ出すことができるのだろうか?
「まあ、別に時間はあるからいいんだけど」
「おや、ここはてっきり魔導をお使いになるかと?」
「裏技過ぎるからな。百歩譲っても、魔術で探すのがセーフぐらいか? というか、ヒントぐらい置かれてないのかよ」
「時折ドロップされるそうですよ?」
俺は凶運なのでドロップには頼らず、代わりに生きた(?)本に包丁を突き刺す。
すると本は粒子に分解され、結晶やら本やらを大量に残していく。
……【嫉妬】の魔武具『狂愛包丁』。
ある目的の副産物として得た絶対ドロップ能力によって、確立を超えて目的の品を手に入れることができた。
「微妙に運がいいな……ヒントがA、B、Cと盛りだくさんだ」
「本来、一つずつ集めていくものですよ? これこそがチートなのでは?」
「…………考えてみれば、相応の数を倒したのにドロップしなかったのが悪い。ある程度倒したら、使えるようにしよう」
「では、そのようにしましょうか……ふっ」
見事に笑われたが、嘲るような笑みではないので好意的に受け止めておく。
……そうでもしないと、心が折れそうになるからな。
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