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偽善者と貯蓄期間 二十四月目
偽善者と橙色の学習 その02
しおりを挟む縛りで使えるスキルを確認し、問題ないことを確認してから俺たちは図書館へ向かう。
その最中、知っておかねばならないことをアンから教授される。
「図書館はいくつかの階層に分かれており、権限によって入室できる階層が異なります。一般人は一階層、それ以上は入れません。
「最大何層なんだ?」
「五階層です。ミント家が五階層、王族や彼らに認められた者でも四階層。三階層が伝手もコネも無く、入ることができる最大階層と言っても過言ではありません」
「五階層か……あの塔に比べると、全然大したことなさそうだな」
一層から二層に行くところで頓挫し、外部の協力者を必要としたわけだし。
条件付きの結界って、俺でもそう簡単には突破できないのだ。
「アンはどこまで行ったんだ?」
「四階層です」
「……あの、さっき伝手やコネが無く入れないって聞いたばっかりなんですけど?」
「これでもわたしは、メルス様に望まれて生み出されたサポート人格。コミュ障な主様に代わりまして、比較的に簡単な方法で入室許可状を得ております」
何でも月に一度、許可状を得るための試験が開催されるんだとか。
そこで優秀な成績を出し、興味を持ってもらえると許可状が与えられるらしい。
アンは異世界──赤色の世界──の存在を示唆する知識を提示し、お偉い様がたはそれに興味を持った。
そして、アンは俺に見せつけるように許可状を取り出す。
……『華装』とリンクしたそれは、ホログラム状になっていた。
「ずいぶんと近代的なライセンスだな。データ改竄ができそうな気がする」
「少なくとも普人、森人の領域において機械技術はそこまで進んでおりません。ですが、『華装』カスタム用に特定の分野のみが進んでいるため、改竄は難しいかと」
「面倒な進化だな。あくまでも、一部分だけの発達か……」
機械に必要な材料の準備、また『華装』をよりよくするために要する素材など。
技術的に発展したのは、そういった分野だけ……当然、車など走っていない。
「じゃあ、俺もその大会とやらに参加しないといけないのか?」
「いえ、それはあくまでも比較的に簡単な方法です。もっと簡単に、上に行くための方法がございます──下へ向かうのです」
「下って……五階層って言ってたよな?」
「図書館は、でございます。それより下は迷宮になっており、試験を突破することで許可状が与えられます──ちなみに、こちらならば五階層まで許可状が得られますよ」
あくまで『賢者』を受け継ぐミント家は、その権能から無条件で入れていただけ。
その大会とやらも、上位者の紹介という形で許可状を与えていたのだ。
迷宮から許可状を持って帰るのが、本来の図書館の使用方法なんだとか。
ただし、時折行方不明者が出るほどに難易度が高いため、使われていないらしい。
「メルス様、どうされますか?
「……どういう意味だ?」
「わたしの権限を使えば、三階層までならば入ることが可能になります。わたしにおんぶに抱っこ、寄生プレイがお好みならばそちらでも構わないかと」
「…………安い挑発だな。いや、やってやるに決まっているだろうが!」
アンが悪意を持って、それを言ったわけではないことぐらい百も承知だ。
しかし、俺にだって意地というモノがあるのだ……たまには、やってみせてやろう!
◆ □ ◆ □ ◆
図書館の中、独特のインクの香りがこの階層一帯を漂っていた。
人が歩く音、紙を捲る音、物がぶつかる音などがくっきりはっきりと聞こえてくる。
「……そういえばアンって、もう全部の本を読み尽くしたのか?」
「さすがに異常視されますので、必要な情報のみをピックアップして読んでいました。ちなみにメルス様が読んでいる本は、まだ読んでいません──『果てなき大地』ですか」
「この本、地上のことを書いてあるみたいだな。けど、著者が華都で生きて死んだ奴だから、所詮は口伝かおとぎ話だ。でも……だからこそ、偽善のし甲斐があるんだよな」
「死人の願いも汲み取りますか。メルス様、それでは切りがないのでは?」
その気になれば死者を視ることができてしまうので、懸念するのは当然だ。
しかし、俺は眷属以外に極力手を貸す気はないので、そこまで嵌る気はない。
本などの文章を読む際に限り、記憶系スキルの発動が許されていた。
今の俺は普段以上に物事を思い出すことはないが、スキルを使えばすべて思い出せる。
すべての文字を一言一句違わず暗記し、本来在った場所へ本を仕舞っておく。
……わざわざここで読む物はアンが調べてあるので、俺が何度も読み直す必要はない。
「──それじゃあ行くか、迷宮へ」
「わざわざ三階層へ来た理由を、まだお聞かせいただけてないのですが?」
「……そのまま付いてきてほしかったよ。理由は簡単、ここに何かヒントっぽいものが無いか調べに来たんだよ。四階層、五階層に行くための許可状を得られる方法をさ」
そういう本は、アンも見つけられていないので──五階層に置かれているのだろう。
少し残念に思いつつ、俺は階段を下へ下へと降りていくのだった。
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