上 下
1,592 / 2,519
偽善者と貯蓄期間 二十四月目

偽善者と自己紹介 その43

しおりを挟む

 夢現空間 居間


 再び元の肉体を取り戻した俺は、すぐに自分の動きを確かめた。
 モブスペックから偽善用万能スペックに戻ろうと、使用者が凡人なことに変わりない。

 言われたことを思い返し、一つずつなぞるように行っていく。
 当然、スキルの補正が尋常ではないので、それらはすぐに体に定着していった。

 肉体は別でも魂魄は同じなため、再習得をする必要はない。
 まあ、肉体に依存した種族スキルなどは、その体でしか使えないなどの制限が付くが。

 要するにスキルそのものは縛り中に得ておけば、通常の体を使うことでその理解度を飛躍的に高めることができるのだ。

 逆もまた然り。
 この体で覚えたスキルの動作を、縛り中の体でなぞればほんの僅かでも習得速度を上げることができる。


「──なんてことがあったんだ。やっぱり、スキル習得が難しいものは、結構取るのに時間が掛かるみたいなんだ」

「……どうして」

「ん?」

「どうして、頑張るの? だって、あなたはそうしなくてもいいだけの力があるのに」


 モブスペックでの体験談を話していると、ふとそんな問いをされる。
 どう答えるのが正しいのか……まあ、ありのままを答えればいいか。


「俺の力は、努力して勝ち得た物じゃない。ふと手に入った力が、ふと失われる……そんな未来が来るかもしれない。けど、この世界は努力が目に見えて証明される。なら、少しぐらい頑張ってもいいんじゃないか?」

「……自分のため?」

「そうだな。そんな未来ありえないかもしれないし、やっても意味はないかもしれない。けど、本当にあったら怖い……お前たちを守れないから。自己満足ではあるが、だからこそやっているんだ」

「……そう」


 今の体ならともかく、縛り中の体はとんでもなく弱い。
 眷属たちには敵わないし、敵対者にも負け得る可能性を秘めている。

 その可能性を排除すべく、自分にできることは強くなること。
 ……眷属たちに勝てるとは、全然思っていないけどさ。


「そろそろ始めようか──第四十三回クエッションタイム! 本日のゲストはこの方──とっても努力家なリラちゃんです!」

「……よろしく」

「はい、こちらこそよろしくお願いします!二人で盛り上げていきましょうか!」

「それが願いなら……私は、あなたの願いを叶える」


 というわけで、さっそく行ってみよう。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「問01:あなたの名前は?」

「リラ……リラ・ロッシェン」


「問02:性別、出身地、生年月日は?」

「女、分からない、──年の4月12日(諸事情によって修正が掛かっていることをご了承ください)」

「分からないって……どういうことだ?」

「うん……生まれは貧民街だったし、あそこの人の中には自分が居る場所が分からない人もいる……私もそうだった」


「問03:自分の身体特徴を描写してください」

「オーロラ? みたいに変化する髪と瞳……あとは特にない」

「背が少しだけ低いよな。栄養、しっかりと取っているか?」

「……ここは料理が美味しい……あと、すぐに大きくなる」


「問04:あなたの職業は?」

「『奉仕者』……誰かのためにすることに、補正が入る」


「問05:自分の性格をできるだけ客観的に描写してください」

「……真面目?」

「うん、バカが付く程な。あと、さっき言った通り努力家だ」


「問06:あなたの趣味、特技は?」

「お菓子作り……子供たちにあげる」


「問07:座右の銘は?」

「一日一善……誰かのために、何かすべき」


「問08:自分の長所・短所は?」

「いろんなことができる……けど、これって言うものがない」

「もともと一般スキル縛りみたいな状態だったんだから、仕方ないと言えば仕方ないけどな。その分、大量にあったスキルが今では統合されているけど、アイツらは……まあ、誰も彼もが特化型ばっかりだし」


「問09:好き・嫌いなもの/ことは?」

「好きなことは人助け、嫌いなことは何もしないでいること」


「問10:ストレスの解消法は?」

「感じたことない」


「問11:尊敬している人は?」

「人……はいない」

「なら、誰なら?」

「献上の神『ティーザ』……何もなかった私に、生きる意味を与えてくれた」


「問12:何かこだわりがあるもの/ことがあるならどうぞ」

「特にない……けど、人助けをするならどんなことでも叶えてあげたい」

「……ダメ男製造マシンだな」


「問13:この世で一番大切なものは?」

「心……誰かのため、そう思いやれる心」

「今までで一番、胸に沁みる言葉だったな。けど、そこは自分の命って言ってほしい。嫌かもしれないが、眷属は俺の家族。人助けで捨てていいほど、安い命じゃないんだ」

「……そう望むなら……」


「問14:あなたの信念は?」

「誰かを助けるのに、理由は要らない」


「問15:癖があったら教えてください」

「……無い、かな?」

(人助けセンサーが敏感なところだろうな)


「問16:ボケですか? ツッコミですか?」

「ん、ツッコミ……」


「問17:一番嬉しかったことは?」

「あなたと共に神殿に行って、今までのすべてが報われたとき」


「問18:一番困ったことは?」

「それからのことを、あなたに決められてしまったこと」

「……迷惑だったか」

「ううん……ただ、ちょっとビックリした」


「問19:お酒、飲めますか? また、もし好きなお酒の銘柄があればそれもどうぞ」

「飲ませてくれない」

「子供は飲んじゃいけません」


「問20:自分を動物に例えると?」

「……分からない」

「他者を思いやれる動物って、人間だけだから仕方ないか……じゃあ、好きな動物は?」

「……ハリネズミ」


「問21:あだ名、もしくは『陰で自分はこう呼ばれてるらしい』というのがあればどうぞ」

「街の人が『献身聖女』って呼んでた……分からない」

「充分、リラが頑張ってくれている証拠だ」


「問22:自分の中で反省しなければならない行動があればどうぞ」

「……あのとき、あなたが……ノゾムが居なかったら、私は『地操脈竜』に殺されていたと思う……だから、ありがとう」

「──ええ、お役に立てたようで」


「問23:あなたの野望、もしくは夢について一言」

「もう一度、『ティーザ』に会う……そのために、信徒として頑張る」


「問24:自分の人生、どう思いますか?」

「約定を与えてくれたティーザに感謝して、人助けをするもの」

「……それだけか?」

「分からない……けど、あなたたちと居るのは居心地がいい」


「問25:戻ってやり直したい過去があればどうぞ」

「もう一度ティーザに会いたい」


「問26:あと一週間で世界が無くなるとしたらどうしますか?」

「何とかする……手伝って?」

「ええ、お望みとあらば」


「問27:何か悩み事はありますか?」

「自分だけにできることがない……みんな、何かそういうものがあるのに」

「俺も無いから気にするな。あっても、それは自分の力じゃないし」


「問28:死にたいと思ったことはありますか?」

「無い……約定を果たすため、死ぬわけにはいかなかった」

「なのに死にかけるようなことは、平然とやろうとしてたよな」

「……人助けだから」


「問29:生まれ変わるなら何に(どんな人に)なりたい?」

「もう一度、ティーザに約定を与えられるような人に……」


「問30:理想の死に方があればどうぞ」

「ティーザの使徒に選ばれるようなもの」


「問31:何でもいいし誰にでもいいので、何か言いたいことがあればどうぞ」

「……必ず、また会えるようにします」


「問32:最後に何か一言」

「ノゾム、あなたは人として一番」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「はい、カット! ……人としてって、どういう意味?」

「……内緒」

「俺、人じゃないってこと? って、待てって! ちょっと、説明していてくれよ!」


 先ほどの言葉の真意が分かるのは、もう少し先の話であった。
 それまではずっと、人間性について延々と悩む羽目になるが……それはまた、別の話。


しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

World of Fantasia

神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。 世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。 圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。 そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。 現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。 2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。 世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。

パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。

荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品 あらすじ  勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。  しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。  道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。  そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。  追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。  成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。  ヒロインは6話から登場します。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

処理中です...