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偽善者と貯蓄期間 二十四月目

偽善者と戦力集め その17

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 木の枝を掴み、くるりと回転する。
 枝の上に乗ったらすぐに飛び降り、三角飛びの要領で再び別の枝に移り渡った。

「次だ」

「うん!」

 背負っていた弓を掴み、矢を番える。
 体が覚えた感覚に委ねてロクに見もせずに射るが、自然と的へ吸い込まれていく。


「及第点だな。的には当てられるようになったようだが、肝心の正確さに欠けている。だから中心から外れ、こんな場所に刺さった」


 弓の先生であるイアンが指を示す先には、的の縁に刺さった矢が。
 ……弓などAFOを始めてから初めて触れた凡人にしては、素晴らしい結果だけどな。


「うぅ……結構頑張ったんだけどな」

「努力と結果は必ずしも比例しない。貴様の才から考えれば、多少なりとも結果が出せただけでもマシだと思え」

「はーい……」


 森人エルフ本人から認められたことで、最後の条件が満たされた。
 新たなスキル森弓術を習得し、ようやく俺は解放される。


「貴様から言ってきたことだろう。それに、これでも評価は甘めにしてやったぞ」

「難しいことは難しいんだよ。普人族フーマンに、森人族みたいな目の良さも器用さも求めないでほしいな」

「お前たちは器用貧乏な種族だからな。精霊も見えず、五感が優れているわけでもなく。執念深さと繁殖力で寿命を補う貴様らは、もともと向いていないことが多すぎる」

「そ、そこまで言ってほしいとは、言ってないと思うんだけど……概ねそうだよね」


 少々言い方が悪いが、実際人ってそういうものだと思う。
 だからこそ国として、普人至上主義なんてありえないものが生まれるのだ。

 この世界の話ではあるが、祈念者が訪れた国にはそんな場所があるらしい。
 いずれは行く予定だが……他の祈念者次第では、無くなってしまうかもな。


「けど、全員が全員そういうわけじゃないんだからね」

「……ああ、貴様のような化け物が生まれるのも普人だ。それぐらい、理解している」

「あ、あれー? そ、そういうことを言ったわけじゃなかったんだけど……まっ、別にそれでいいかな?」


 時折生まれる、強くなり得る可能性を秘めた職業に就いた者たち。
 そんな【英雄】や【勇者】が普人族に生まれやすいのは──単純に数が多いからだ。

 下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる、を実現している普人族である。
 まあ、条件がある超級や極級などは、寿命が長い他種族の方が多いんだけどな。


「これで契約は終わりだ。貴様に教えられるスキルはすべて、伝えたはずだ」

「……そっか。うん、ありがとうね。あとでもう一回、長老さんたちの所に挨拶をしに行こうかな?」

「もう止めろ。あんなに取り乱す長老がたを見たくはない」

「ちぇー。まあ、いいけどね。じゃあ、最後に里で何か交換してもらおうかな? 矢とか魔道具とか、足りない物が多くてね」


 ちなみにまだ教わっていないスキルはあるが、今回は基本的なスキルのみで、やめてもらったものが多い。

 たとえば木魔法や精霊魔法、そして進化して使えるようになった月弓術や月魔法……まだまだたくさんあるのだが、さすがに全部覚えようとすれば時間が足りなくなる。

 初級編だった今回とは違い、そちらまで習得しようとなると困難を極めるだろう。
 もちろん、ニィナならば比較的速やかに終わることだろうけど。

 なので俺はここで終わりとし、必要な物を用意したら帰ることにした。
 一度冒険ギルドに報告に行かないとならないし……うん、ランクアップだ。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 祈念者たちを通すようになった迷いの森ではあるが、まだ森人たちと友好的な関係を結べているとは言えない。

 外交はすべてこちらでやっており、悲願の進化という交流の鍵も俺たちが持っている。
 わざわざ街まで向かい、何かを交渉する必要が皆無なんだよな。

 ギルドの方も、森人の作るアイテムは欲しいけど、誰も辿り着かないから諦めている。
 稀に気まぐれで通された奴が、要らないアイテムを売ってくれるぐらいだろうか。

 ──だからこそ、持ち込めば相応の報酬が与えられるわけだ。


「いやー、報酬がっぽりだったねー」

『!』

「ディーもいろいろとご苦労様。これからも強くなって、僕を助けてね」

『♪』


 俺がスキルを習っている間、ディーは森人の有志に連れられて狩りを行っていた。
 離れた場所でも行動できるか、経験値効率はどうなっているかを調べるためだな。

 結果的に経験値が溜まり、新たなスキルや姿を獲得していたディー。
 今はもっともコスパのいい初期スライム状態で、俺の方に乗っている。


「ランクも上がって『F+』。ニィナのランクも上げてもらったから、上げられる量が少なかったけど……これで魔物討伐も正式にできるようになったよ」


 ギルドカードに刻まれたアルファベットが書き換わり、俺の冒険者としての地位がほんの僅かながらに上がった。

 まだまだ有名になってはいないが、行動を積み重ねていけばいずれこの状態でも、有名人の証である『S』やその先の『L』まで届くかもしれない。


「うーん……今回はとりあえず、ここでおしまいかな? ニィナの成長に追いつくための予習と復習だったけど、上げすぎるとニィナが頑張りすぎちゃうもんね」


 今回の冒険で得た経験も、俺が支援担当でニィナがそれ以外担当の現状ではすぐに追いつかれるだろう。

 しかし、それでいいのだ。
 俺は彼女に負けないように努力し、彼女もまた俺に追いつかれないように頑張る……そういう関係を築いていきたいのだからな。


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