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偽善者と貯蓄期間 二十四月目

偽善者と戦力集め その13

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 迷いの森


 ギルドに集めてきた薬草を提出し、僅かな報酬を受け取った……いや、僅かというのは失礼かもしれないけど。

 ただ、魔本を買い続けた俺からすると、減らした金銭と貰えた金銭の量に大きな差が生じているのだ。


「……スキル、なかなか手に入らないな」


 魔本は何かを封じた代物。
 スキルを封じた魔本であれば、一時的にそれを使いこなしたり、読むことでスキルを身に着けることができる。

 そして、俺はそんな魔本を大量に買い揃えていた。
 読めば読むほど力となる、高額で取引されるだけの価値がある魔本を。

 当然、それを読むことができなければ、封じられたものに関する何かを得られない。
 スキルならば熟練度を得られ、得難いスキルであろうと得る可能性を高められる。

 ……俺が現在読んでいる魔本は、祈念者が自動的に翻訳できている共通語とは異なる言語で書かれていた。

 そのため、読むには言語の習得か翻訳するスキルが必要となる。
 今回は言語理解スキルがその役を務め、魔本の内容は自然と俺の脳に入ってきた。


「ふぅ……これで思考加速スキルの熟練度が手に入った。あとは並列作業スキルでも使って、習得できるように頑張ろう」


 スキル習得そのものはできなかったが、熟練度さえ手に入ればいずれスキルを習得することができる。

 なのでそれを必要とする行動を反復していれば、思考加速スキルも得られるように。
 ……素でやれないからこそ、スキルを使ってその状態を必要としないといけないのだ。


「ディー、出てきて」

『!』

「うん、だいぶ体が慣れているね。必要なのは経験値、だから自分で稼いできてくれるかな? 魔力が足りなくなったら、僕から徴収してくれても構わないから──あっ、これを忘れないで持っていってね」

『!!』


 スライム状の魔物はプルプルと震え、そのまま森の奥深くへ向かった。
 ちなみに渡したのは、森に住まう者たちから受け取っていた代物だ。

 許可証であるそれは、どのような異形であろうと受け入れる証。
 そこに説明のための手紙も付属してあるので、狙われることはそうないだろう。


「あとは剣術でも磨こうかな? 武器は……久しぶりにこれを使おう」


 祈念者は武術を習得すると、ほぼ攻撃力の無い武器が与えられる。
 ただし耐久度は無限、完全にレベリング専用の一品だ。

 空間魔法が使えない現状、必要になりそうな物を『収納袋マジックバック』に集めてある。
 そこに入れておいた剣を取り出し、さっそく装備した。


「まあ、ここで戦おうとしてもレベルが足りないからねぇ……結界で囲ってから、素振りでもしようかな? うん、とりあえず準備をしよう。魔本開読オープン──“守護結界バリアガード”」


 魔本を展開すると、俺の周りを囲うように結界が構築される。
 外部からの干渉を拒むそれによって、俺は仮初の安心を得た。

 そして、内部で素振りを始める。
 思い返すのは、剣の頂にもっとも近き師が教えてくれたすべて。

 想起したそれを作業と認識、動作一つひとつを違うことなく行っていく。
 体のパーツのすべてを制御し、剣を上から下へ振り下ろす。


「剣術スキルも、思考加速スキルも同時に習得できるチャンスが生まれる……まさに、一石二鳥の練習だよ」


 当然ながら、思考加速スキルが必要となる作業をしたかったからやっていた。
 剣術はあくまでもおまけ、最悪石ころを投げていれば戦闘は可能である。

 師であり【獣剣聖姫】であるティルの軌跡とは、それだけ凡人には難しいのだ。
 それをひたすらなぞるだけでも、難易度が高いのか結果が目に見えて生える・・・


「──剣術スキル、思いのほか早く習得できたね。思考加速スキルはまだだから、続けるけど。他にもなんだか、別のスキルが得られる気がするし……」


 体のバランスを整えなければ、彼女という理想の剣技を振るうことはできない。
 それが狂っている以上、記憶に残る斬撃は生まれずにいる。

 魔力を、精気力を、生命力を……律することで体の動きを調整していく。
 だがそれでも、まだ完全な剣技には程遠いレベルでしかない。


「ならこれかな? 魔本開読──“体勢”」


 これもまた、かなり高かった魔本だ。
 体にスキルを付与する『開読オープン』を使った途端、姿勢が整い上手く剣を振るえるように。

 付与中も熟練度は稼げるので、さらに体幹へ意識を向けて剣を使う。
 なんだか少しずつ楽しくなってきており、素振り以外のことも行い始める。

 獣剣術のもっとも基礎的な武技“開牙カイガ”。
 その他すべての獣剣術を使うために、必ず使う武技の型をなぞっていく。


「……って、あれ? 先に獣剣術スキルが習得できちゃった。まあ、基本的に獣剣術に使うための動きだったからねぇ」


 ティル自身は、ありとあらゆる剣術を習得しているが、俺と出会うまでは獣剣術を用いた剣技を磨いていた。

 そのため、すべての剣術は獣剣術をベースに作り上げられている。
 ならば一度、その獣剣術スキルを得てしまえば……うん、剣術スキルを得ました。


「ディーの方はまだまだ狩っているな……周囲に全然生命が無いってことは、相当殺しているってことだけどさ」


 まだ隠れ里に住まう者たちには、届かない場所ではあるが。
 やり過ぎると魔物の数とかで怪しまれ、接触することになるだろう。


「……そうだ、久しぶりに会ってみることにしようかな? この姿のままだと、どういう反応をするのか楽しみだよ」


 結界を解除して、森の奥へ向かっていく。
 その途中でディーも気づいて、こっちに近づいてくることだろう。

 ──そして、それは彼らにも気づかれるんだろうな。


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