1,587 / 2,518
偽善者と貯蓄期間 二十四月目
偽善者と戦力集め その13
しおりを挟む迷いの森
ギルドに集めてきた薬草を提出し、僅かな報酬を受け取った……いや、僅かというのは失礼かもしれないけど。
ただ、魔本を買い続けた俺からすると、減らした金銭と貰えた金銭の量に大きな差が生じているのだ。
「……スキル、なかなか手に入らないな」
魔本は何かを封じた代物。
スキルを封じた魔本であれば、一時的にそれを使いこなしたり、読むことでスキルを身に着けることができる。
そして、俺はそんな魔本を大量に買い揃えていた。
読めば読むほど力となる、高額で取引されるだけの価値がある魔本を。
当然、それを読むことができなければ、封じられたものに関する何かを得られない。
スキルならば熟練度を得られ、得難いスキルであろうと得る可能性を高められる。
……俺が現在読んでいる魔本は、祈念者が自動的に翻訳できている共通語とは異なる言語で書かれていた。
そのため、読むには言語の習得か翻訳するスキルが必要となる。
今回は言語理解スキルがその役を務め、魔本の内容は自然と俺の脳に入ってきた。
「ふぅ……これで思考加速スキルの熟練度が手に入った。あとは並列作業スキルでも使って、習得できるように頑張ろう」
スキル習得そのものはできなかったが、熟練度さえ手に入ればいずれスキルを習得することができる。
なのでそれを必要とする行動を反復していれば、思考加速スキルも得られるように。
……素でやれないからこそ、スキルを使ってその状態を必要としないといけないのだ。
「ディー、出てきて」
『!』
「うん、だいぶ体が慣れているね。必要なのは経験値、だから自分で稼いできてくれるかな? 魔力が足りなくなったら、僕から徴収してくれても構わないから──あっ、これを忘れないで持っていってね」
『!!』
スライム状の魔物はプルプルと震え、そのまま森の奥深くへ向かった。
ちなみに渡したのは、森に住まう者たちから受け取っていた代物だ。
許可証であるそれは、どのような異形であろうと受け入れる証。
そこに説明のための手紙も付属してあるので、狙われることはそうないだろう。
「あとは剣術でも磨こうかな? 武器は……久しぶりにこれを使おう」
祈念者は武術を習得すると、ほぼ攻撃力の無い武器が与えられる。
ただし耐久度は無限、完全にレベリング専用の一品だ。
空間魔法が使えない現状、必要になりそうな物を『収納袋』に集めてある。
そこに入れておいた剣を取り出し、さっそく装備した。
「まあ、ここで戦おうとしてもレベルが足りないからねぇ……結界で囲ってから、素振りでもしようかな? うん、とりあえず準備をしよう。魔本開読──“守護結界”」
魔本を展開すると、俺の周りを囲うように結界が構築される。
外部からの干渉を拒むそれによって、俺は仮初の安心を得た。
そして、内部で素振りを始める。
思い返すのは、剣の頂にもっとも近き師が教えてくれたすべて。
想起したそれを作業と認識、動作一つひとつを違うことなく行っていく。
体のパーツのすべてを制御し、剣を上から下へ振り下ろす。
「剣術スキルも、思考加速スキルも同時に習得できるチャンスが生まれる……まさに、一石二鳥の練習だよ」
当然ながら、思考加速スキルが必要となる作業をしたかったからやっていた。
剣術はあくまでもおまけ、最悪石ころを投げていれば戦闘は可能である。
師であり【獣剣聖姫】であるティルの軌跡とは、それだけ凡人には難しいのだ。
それをひたすらなぞるだけでも、難易度が高いのか結果が目に見えて生える。
「──剣術スキル、思いのほか早く習得できたね。思考加速スキルはまだだから、続けるけど。他にもなんだか、別のスキルが得られる気がするし……」
体のバランスを整えなければ、彼女という理想の剣技を振るうことはできない。
それが狂っている以上、記憶に残る斬撃は生まれずにいる。
魔力を、精気力を、生命力を……律することで体の動きを調整していく。
だがそれでも、まだ完全な剣技には程遠いレベルでしかない。
「ならこれかな? 魔本開読──“体勢”」
これもまた、かなり高かった魔本だ。
体にスキルを付与する『開読』を使った途端、姿勢が整い上手く剣を振るえるように。
付与中も熟練度は稼げるので、さらに体幹へ意識を向けて剣を使う。
なんだか少しずつ楽しくなってきており、素振り以外のことも行い始める。
獣剣術のもっとも基礎的な武技“開牙”。
その他すべての獣剣術を使うために、必ず使う武技の型をなぞっていく。
「……って、あれ? 先に獣剣術スキルが習得できちゃった。まあ、基本的に獣剣術に使うための動きだったからねぇ」
ティル自身は、ありとあらゆる剣術を習得しているが、俺と出会うまでは獣剣術を用いた剣技を磨いていた。
そのため、すべての剣術は獣剣術をベースに作り上げられている。
ならば一度、その獣剣術スキルを得てしまえば……うん、剣術スキルを得ました。
「ディーの方はまだまだ狩っているな……周囲に全然生命が無いってことは、相当殺しているってことだけどさ」
まだ隠れ里に住まう者たちには、届かない場所ではあるが。
やり過ぎると魔物の数とかで怪しまれ、接触することになるだろう。
「……そうだ、久しぶりに会ってみることにしようかな? この姿のままだと、どういう反応をするのか楽しみだよ」
結界を解除して、森の奥へ向かっていく。
その途中でディーも気づいて、こっちに近づいてくることだろう。
──そして、それは彼らにも気づかれるんだろうな。
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~
三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】
人間を洗脳し、意のままに操るスキル。
非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。
「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」
禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。
商人を操って富を得たり、
領主を操って権力を手にしたり、
貴族の女を操って、次々子を産ませたり。
リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』
王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。
邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる