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偽善者と貯蓄期間 二十四月目

偽善者と戦力集め その12

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 始まりの街 冒険ギルド


 複製されたものではない、本当の冒険ギルドに足を踏み入れる。
 ニィナとやらかしたことは忘れていないので、魔術で身を隠すことを忘れない。

 今の俺はただの『F-』ランクの冒険者。
 類い稀な才能を持ち合わせているわけでもなく、その凶運のみに驕る愚者。

 ニィナが居ない以上、俺の評価が自身の提示するこれを上回ることはない。
 それでも足掻き、そこから脱することがまず第一の目標である。


「採取依頼で魔物に遭遇、偶然討伐してみたらランクアップ……なんて都合のいいことは起きないんだよねぇ。あれは選ばれし者だけができること、今の僕は地道にやっていかないと。一歩ずつ、噛み締めていって」


 依頼が張られた掲示板を探っていく。
 さまざまな場所で何かを求める文面が、至る所に散りばめられている。

 受けていい依頼は、自分のランクより一回り上のランクのみ。
 だが『F』はプラスもマイナスも、魔物の討伐依頼はごく僅かだ。

 溝攫どぶさらいや従魔の散歩、この街限定の配達依頼なんかもある。
 しかし、それをやる気はあまりない……目立つからな、そういうのって。


「となると、薬草摘みかな? 採取系のスキルも習得できるし、探知系のスキルもいずれは自前で取れるといいや」


 常駐依頼なので、わざわざ引き剥がさずとも完遂後に自己申告すればいい。
 ただ、依頼書を受付に持っていけば正しい採取法などが教えてもらえる。

 俺は自分で栽培していたし、その品質を保つために的確な採取を行っていた。
 なのでわざわざ教わらずとも、それなりの品質で薬草を集められるだろう。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 始まりの草原


 少し道から離れれば、そこには木々が生い茂っている。
 薬草もまた、そうした茂みの中に隠れており……採取を行う。

 隠蔽スキル、そして魔術の効果もあって魔物に発見されることはない。
 だがそれは俺の主観であり、実際に魔物が俺に気づいているかはまた別の話。

 魔術や魔本を使えば、そりゃあもう簡単に探知を行うことができる。
 しかしながら、それではスキル──探知を自分のモノにできたという証明ができない。


「というわけで、『誰でもできる簡単スキル習得本』完全版!」


 さっそく魔物を探すためのスキルを検索して、その習得方法を調べ上げる。
 幸いにして、その大半が実際に気配を探ろうとすれば習得できるようだ。


「生命力、魔力、精気力を網のように張り巡らせて、レーダーみたいに使えばいいのか。これは実際にやっていたから、結構簡単にできるかな?」


 そう思っていたが、どうしても生命力を動かすのが難しい。
 魔力は普段からやっているし、精気力も武技を使うときなんかに制御している。

 だが、生命力を削るようなことは、この体において未だ未経験なのだ。
 生命力を網にするということは、一度外に出す必要があるということ。

 ……やったことはあるので、感覚さえ掴めば自在に扱えるだろう。
 だが、あの頃はかなり生命力があったうえに、祈念者だからと死に迷いが無かった。

 しかし今はそうではない。
 取り出そうとすれば激痛が走る感覚を覚えるし、実際に生命力が減っている。

 普通は体に満ち溢れた生命エネルギーを消費するので、実際に生命力という身力値が減少することはない。


「……まあ、あまりに制御が下手すぎて、体から引きずり出しちゃっているってことに違いないんだよね? ポーションを飲んで、少し溜まったらもう一回やってみようっと」


 大量に用意されたポーションは、自分が失敗することが分かっているからこその代物。
 グイっと一飲みすると、体に活力が取り戻される。

 そしてそれを、再び無為に費やして宙へ散布させていく。
 ゆっくりと、だが確実に……それによって何かを成し得る。


「とりあえず、魔力と精気力の探知スキルは得られた。生命力は……先に制御スキルを手に入れておかないと、身が滅びそうだね」


 実際、魔力制御と気力制御というスキルを獲得していた。
 それぞれの身力の操作スキルも保持しているため、比較的簡単に網が展開できる。

 身力を操るため、もっとも最適なのは操作と制御、そして調節スキルを使うことだ。
 それらはまだすべて得られていないが、習得方法の面倒臭さからとりあえずパスした。

 命を削り、その痛みに耐えながらどうにか網の形を維持することに努める。
 そうしている内に感覚を思い出し、どうにか構築に成功した。


「スキルは……うん、取れてる。ついでに、命力耐性スキルも。命を削る経験かー、あるにはあるけどすぐに治していたから習得する間が無かったんだね」


 無事、三種の探知スキルは習得できた。
 おまけに使うために必要なスキルも手に入れられたし、通常以上の火力で魔法や武技を行使することができるだろう。

 採取スキルはとっくに得ているし、一定量の鑑定と見解から薬学知識スキルなども入手していた。


「元はディーのサポートに使うスキルを探していたんだっけ? いやまあ、さっきのスキルだって充分補助に使えるんだけどさ」


 身力を操る能力に長ければ、その分発動に必要なコストを削減できる。
 あとはどうしようか……とりあえず、近づいてくる何かに対応しないと。


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