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偽善者と貯蓄期間 二十四月目
偽善者と戦力集め その11
しおりを挟むスキル習得はしばらく休憩する。
……まさか、あんなに過酷なことをやらされるとは思ってもいなかった。
もちろん、眷属なら鼻歌交じりでこなせるような簡単なプログラムだ。
しかし、どうやら会頭とその商会員たちは凡人の苦悩を考えていなかったらしい。
「できる人には簡単なのかもしれないけど、握ったり掴んだり登ったり……うん、もう一度やりたいとは思わないな」
言っていることは簡単なはずなのに、どうしてあんなに難しかったのだろう。
なんだかこう、本人的には素人がクリアできるまでSASUKEをやらされた感じだ。
──だが、お陰様で選んでいたスキルはすべて習得することができた。
これ以上のやる気は失せてしまう。
なので、別のことをしよう……左腕に付いた腕輪、そしてそこに嵌められた宝珠に目を向けて──始めた。
「来い、[ディヴァース]」
『♪』
「お前は……すべてを知っている。そういう風に考えてもいいんだよね?」
『!』
肯定の意思が、伝わってくる。
会話はまだできないが、召喚獣でもそういう機能が成立しているので、できるということだけは事前に知っていた。
プルプルと揺れ動くスライム型の魔物。
しかしコイツはニィナと同じく、才ある存在で無限に成長し得る可能性を秘めている。
なんせ、元はユニークモンスター。
俺に合わせて弱体化しても、それはいずれ成長することでかつて以上の力を取り戻すことが約束された器。
その分、対価も増えていくんだろうが……俺の成長がこいつの対価を払うためのものではない、そう思えるようにいろんなことを試しておかないと。
──だからこそ、確認する。
対価は支払った。
それにより、[ディヴァース]は俺が知り得るすべての情報を把握している。
俺の本来の種族性質が持つ、自分にもっとも似合い、相応しい能力を。
少なくとも俺には、それが交換条件のように思えた。
『!』
「──限定解除。少しだけ、その能力だけ使わせてもらえた。[ディヴァース]、君に名前と力を与える。だから……あのときの約束通り、眷属を守る力が欲しい」
『!!』
「うん、ありがとう。そこだけは、絶対に違えないでほしい。どれだけ俺から奪おうと、他者を蹂躙してくれても構わない。けど、僕の眷属に国に……僕の居場所に手を出そうとするヤツは──絶対に許さない」
何を考えているのか、本当はこんな雑魚にやられるはずではないユニークモンスター。
だからこそ、再三の忠告を──それ以外のすべてを売り渡し、行う契約を。
「お前の名は──『ディー』。そして、与える力の名前は“生命之樹”。お前が知らない根源を、お前が足りないと飢えていたそれを与える。応えろ、お前はどうする?」
ありとあらゆる因子の情報、それらの総合体であるスキル[生命之樹]。
それを物質化した物を、[ディヴァース]の存在を縛る名と共に差し出す。
受け入れれば、絶対に俺を……俺の下にあるものを傷つけられなくなる。
代わりに得られるものは皆無、これが空手形であることは相手も理解しているだろう。
だが、それ以上に賭けた。
奴がかつての名の通り『進退流転』を冠するのであれば、自分にとって必要な物が目の前にあると考えていると。
『!!』
「……そうか、うん、ありがとう。これからよろしくね──ディー」
『♪』
まだ馴染むまでに時間が掛かるだろう。
その情報量の多さは、すべてを体験した俺だからこそなんとなく分かる。
生命の情報とは、当然ながら膨大だ。
それら一つひとつを糧とし、自らの力にしていくまでには相応の時間を要するだろう。
「しばらくは休んでいてね。ちゃんと、必要になったら呼ぶから」
『♪』
そして、[ディヴァース]改めディーは、光の粒子に溶けて宝珠の中へ戻っていく。
宝珠が点滅しており、それが終わる時が再び呼ぶことができるときだろう。
「……今ので調教スキルと使役スキルが手に入った。方法とは別に、高位の対象を相手にすると習得しやすいんだね」
レベル差がある相手と熟練度稼ぎをしていれば、その速度が上がるということ。
それはそいつの持つ膨大なエネルギーの漏れを、無意識の内に取り込んでいるからだ。
具体的には、うちに居る生命最強のドM銀龍なんかを使えば最適だ。
しかし、今の縛りのコンセプトはリセットではなく凡人体験。
凡人が偶然にも世界最強だったドラゴンに接触するなんて、いかにもな物語を紡げるのは非凡であろう。
ちなみに、調教スキルは主に動物などの知性がやや足りない生き物へ用いるもの。
使役スキルは魔物を含めたあらゆる生命体に対応する、主従関係を形成するモノだ。
……知性が足りない、つまりそういう状況にすることでどんな生き物にも通用するぞ。
「解除は止めて、再封印っと。これでただの凡人に元通り……今はディーに頼るんだし、そういうことに使えるスキルを習得した方がいいのかな?」
成長をディー依存にしないと言ったばかりではあるが、対価が重すぎるのも事実。
そこを緩和する程度には、スキルを持っておいた方がいいだろう。
「結局は、地道にやっていかないと。そろそろ依頼でも受けようかな?」
そんなことを思いつつ、“異界ノ扉”を起動して転移を行う。
いつまでもここに居るのは……うん、考えてみれば危険だからな。
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