上 下
1,583 / 2,518
偽善者と貯蓄期間 二十四月目

偽善者と戦力集め その09

しおりを挟む


 戦いが終わり、俺は支店長に案内されてとある場所に来ていた。
 そこは広く何もない、そういう・・・・用途のために用意された場所。


「では、いきます──[ディヴァース]!」

『!』


 俺の声に呼応して、左腕に装着した魔道具からスライム型の魔物が現れる。
 辺りをキョロキョロ見渡したのち、何もないことが分かると俺の肩の上に上りだす。


「なるほど、武具や防具、素材ではなく召喚獣となったのですね」

「はい。僕のこの腕輪、まだ何も使役していなくて枠が空いていましたので」


 右腕には魔術の操作デバイス。
 そして、左腕には小さな宝珠が嵌められた腕輪が輝いている。

 その宝珠に与えられた名は──『流転呼珠[ディヴァース]』。
 かつて『進退流転』だったモノが、アイテム化した姿だ。

 支店長はそんな俺の宝珠ではなく、腕輪そのものに目を向けていた。
 召喚アイテムというものは、媒介がアイテムに劣っていると壊れてしまうのだが……。


「『試役の腕輪』……でしたね? 祈念者の方しか使えないアイテムだと知らず、会頭が手に入れて悔しがっておりましたよ」

「あはは……売った人がいるんだ」

「なるほど、神々の用意なされた品ならば、媒介としてこれほどまでに優秀な物は存在しないでしょう」

「うん、僕もそう思ったんだ。そうしたら、本当にここに嵌め込まれるなんて」


 Z商会は何でも売っているが、それと同じくらい有益な物は何でも買っているらしい。
 本来、祈念者に配布されたはずのアイテムも、誰かが横流しして回ってきたのだろう。

 そんな腕輪にアジャストした形で、討伐報酬とも呼べるアイテムが与えられた。
 ……まあ、むやみやたらに召喚できるわけではないので、使う場面を考えるべきだが。


「ところで、その条件とは? ……もちろん情報料は支払いますよ?」

「言えるところだけ。まず、『付随枠』が空の状態であること。これ以上の紹介はされても、使えなくなっちゃいました。そして、召喚時に最大魔力値が半減します」

「なるほど。一つ目は『付随枠』でなければ可能だと。しかし、パーティー枠を使わねばなりませんしね。二つ目は……お客様の最大魔力次第ということですか」

「回復もできませんからね。ただ、これは魔力を溜めておけるアイテムでどうにかしようと思っています」


 支店長の言っていた一つ目の解決法──あれができないような条件が設けられている。
 ソロであること、つまりパーティーの方も空っぽな時でないと呼ぶことができない。

 誰かを守るために力を貸すのは、他の誰にも頼ることができないときだけ……そう言われているような条件だった。

 まあ、眷属に頼るわけにもいかないし、眷属以外に頼る気はさらさらない。
 そういった俺の心理を読み取ったうえで、条件が構築されたのだろう。


「あと、変化できる形状もいったんリセットされたみたいです。増やすためには、僕自身でそれを用意しないとダメみたいで……」

「そちらの方も、よろしければZ商会でご協力させていただきますが?」

「……止めておきます。いろんな可能性を、僕だけのコイツにしてみたいので」

「そういうことでしたら。何かありましたらご連絡ください」


 まだすべての能力を把握したわけではないのだが、[ディヴァース]は元ユニークモンスターである。

 一度リセットを食らったくらいで、弱体化するようなヤツではなかったようだ。
 分かっている範囲でも、まだまだ強くなれることが理解できた。


「では、そろそろ次の部屋へ向かうことにしましょうか」

「……次ですか?」

「おや、お忘れでしょうか? お客様がこの商会を訪れた、もう一つの理由を」

「……あっ」


  ◆   □   ◆   □   ◆


 濃密な戦いだったため、すっかり忘れていたもう一つの目的──魔本探し。
 そんな本がいっぱい揃った部屋で、俺は目まぐるしく動いていた。


「あの、この『誰でもできる簡単スキル習得本』って……」

「私共Z商会が集めた方法を、リスト化した物です。一番安いモノだとレア度が1のモノに限りますが、最高額のモノには固有スキルまで含まれております」

「……お値段はいかほどで?」


 耳にした額は、偉くとんでもない数字とだけ言っておこう。
 だが、立ち読みできない本だったので、念のため……購入しておいた。


「お客様は不思議な方ですね。まさか、本当に購入される方が現れるとは」

「えっと……不味かったですか?」

「いえ、それは会頭が売れるわけがないという社員一同の声を無視して、置き続けている品でして……。お高い理由も、会頭が面白半分で付けた機能が原因でございます」


 常に最新版となるそうだ。
 何の技術か知らないが、Z商会が集めた情報が増えれば自動追記されていく……なんだか、Wikiみたいな本である。

 お金にだけは困っていない新人ノゾム君なので、スキルのことが知れるのであればと購入したが……会頭、どんな人なんだよ。


「けど、だいぶお金を使ってるな。ポケットマネーだけだと、そろそろ危ないし……前借の交渉でもしようかな?」


 支店長に事情を説明し、外で眷属と交渉した結果──必要経費にしてもらえることに。
 なので買えるだけ魔本を購入できることになり、ホクホク顔で店に戻る俺だった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?

破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。 そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。 無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた… 表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと イラストのurlになります 作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)

虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

俺と異世界とチャットアプリ

山田 武
ファンタジー
異世界召喚された主人公──朝政は与えられるチートとして異世界でのチャットアプリの使用許可を得た。 右も左も分からない異世界を、友人たち(異世界経験者)の助言を元に乗り越えていく。 頼れるモノはチートなスマホ(チャットアプリ限定)、そして友人から習った技術や知恵のみ。 レベルアップ不可、通常方法でのスキル習得・成長不可、異世界語翻訳スキル剥奪などなど……襲い掛かるはデメリットの数々(ほとんど無自覚)。 絶対不変な業を背負う少年が送る、それ故に異常な異世界ライフの始まりです。

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

処理中です...