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偽善者と貯蓄期間 二十四月目
偽善者と戦力集め その09
しおりを挟む戦いが終わり、俺は支店長に案内されてとある場所に来ていた。
そこは広く何もない、そういう用途のために用意された場所。
「では、いきます──[ディヴァース]!」
『!』
俺の声に呼応して、左腕に装着した魔道具からスライム型の魔物が現れる。
辺りをキョロキョロ見渡したのち、何もないことが分かると俺の肩の上に上りだす。
「なるほど、武具や防具、素材ではなく召喚獣となったのですね」
「はい。僕のこの腕輪、まだ何も使役していなくて枠が空いていましたので」
右腕には魔術の操作デバイス。
そして、左腕には小さな宝珠が嵌められた腕輪が輝いている。
その宝珠に与えられた名は──『流転呼珠[ディヴァース]』。
かつて『進退流転』だったモノが、アイテム化した姿だ。
支店長はそんな俺の宝珠ではなく、腕輪そのものに目を向けていた。
召喚アイテムというものは、媒介がアイテムに劣っていると壊れてしまうのだが……。
「『試役の腕輪』……でしたね? 祈念者の方しか使えないアイテムだと知らず、会頭が手に入れて悔しがっておりましたよ」
「あはは……売った人がいるんだ」
「なるほど、神々の用意なされた品ならば、媒介としてこれほどまでに優秀な物は存在しないでしょう」
「うん、僕もそう思ったんだ。そうしたら、本当にここに嵌め込まれるなんて」
Z商会は何でも売っているが、それと同じくらい有益な物は何でも買っているらしい。
本来、祈念者に配布されたはずのアイテムも、誰かが横流しして回ってきたのだろう。
そんな腕輪にアジャストした形で、討伐報酬とも呼べるアイテムが与えられた。
……まあ、むやみやたらに召喚できるわけではないので、使う場面を考えるべきだが。
「ところで、その条件とは? ……もちろん情報料は支払いますよ?」
「言えるところだけ。まず、『付随枠』が空の状態であること。これ以上の紹介はされても、使えなくなっちゃいました。そして、召喚時に最大魔力値が半減します」
「なるほど。一つ目は『付随枠』でなければ可能だと。しかし、パーティー枠を使わねばなりませんしね。二つ目は……お客様の最大魔力次第ということですか」
「回復もできませんからね。ただ、これは魔力を溜めておけるアイテムでどうにかしようと思っています」
支店長の言っていた一つ目の解決法──あれができないような条件が設けられている。
ソロであること、つまりパーティーの方も空っぽな時でないと呼ぶことができない。
誰かを守るために力を貸すのは、他の誰にも頼ることができないときだけ……そう言われているような条件だった。
まあ、眷属に頼るわけにもいかないし、眷属以外に頼る気はさらさらない。
そういった俺の心理を読み取ったうえで、条件が構築されたのだろう。
「あと、変化できる形状もいったんリセットされたみたいです。増やすためには、僕自身でそれを用意しないとダメみたいで……」
「そちらの方も、よろしければZ商会でご協力させていただきますが?」
「……止めておきます。いろんな可能性を、僕だけのコイツにしてみたいので」
「そういうことでしたら。何かありましたらご連絡ください」
まだすべての能力を把握したわけではないのだが、[ディヴァース]は元ユニークモンスターである。
一度リセットを食らったくらいで、弱体化するようなヤツではなかったようだ。
分かっている範囲でも、まだまだ強くなれることが理解できた。
「では、そろそろ次の部屋へ向かうことにしましょうか」
「……次ですか?」
「おや、お忘れでしょうか? お客様がこの商会を訪れた、もう一つの理由を」
「……あっ」
◆ □ ◆ □ ◆
濃密な戦いだったため、すっかり忘れていたもう一つの目的──魔本探し。
そんな本がいっぱい揃った部屋で、俺は目まぐるしく動いていた。
「あの、この『誰でもできる簡単スキル習得本』って……」
「私共Z商会が集めた方法を、リスト化した物です。一番安いモノだとレア度が1のモノに限りますが、最高額のモノには固有スキルまで含まれております」
「……お値段はいかほどで?」
耳にした額は、偉くとんでもない数字とだけ言っておこう。
だが、立ち読みできない本だったので、念のため……購入しておいた。
「お客様は不思議な方ですね。まさか、本当に購入される方が現れるとは」
「えっと……不味かったですか?」
「いえ、それは会頭が売れるわけがないという社員一同の声を無視して、置き続けている品でして……。お高い理由も、会頭が面白半分で付けた機能が原因でございます」
常に最新版となるそうだ。
何の技術か知らないが、Z商会が集めた情報が増えれば自動追記されていく……なんだか、Wikiみたいな本である。
お金にだけは困っていない新人ノゾム君なので、スキルのことが知れるのであればと購入したが……会頭、どんな人なんだよ。
「けど、だいぶお金を使ってるな。ポケットマネーだけだと、そろそろ危ないし……前借の交渉でもしようかな?」
支店長に事情を説明し、外で眷属と交渉した結果──必要経費にしてもらえることに。
なので買えるだけ魔本を購入できることになり、ホクホク顔で店に戻る俺だった。
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