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偽善者と貯蓄期間 二十四月目
偽善者と戦力集め その07
しおりを挟む結論から言ってしまえば、支店長が紹介してくれた中に俺が興味を抱くような魔物はいなかった。
陸海空、さまざまな場所で生息する魔物を見せてくれた……が、なんというか、それでも物足りなかったのだ。
いちおう、支店長の紹介を聞きながら多種多様な魔物を観察した結果、鑑定スキルをどうにか習得することができたので、それが不幸中の幸いと言えよう。
ついでに、魔物言語と俯瞰スキルなんかも得られていた。
前者は言語理解スキルが特化し、後者は空から見下ろした経験から得たと思われる。
「あの、ごめんなさい」
「いえいえ、お気になさらず。冷やかしのお客様ならともかく、お客様は真剣に魔物たちがどうあるのかを見ていました。失礼を承知で申しますが、普通はそこまでしません」
「……そうですか? 魔物とは対等の、いえ私の場合は守ってもらう可能性が高いので彼らにお願いする立場ですので。自分優位で考えてはいけない、そう考えています」
「なるほど、やはりそうですか。お客様のような方には、当商店秘蔵の魔物をご紹介するしかありませんね」
そう、まだその秘蔵の魔物とやらは見せてもらえずにいた。
というか、ちょうど現在進行形でそこに案内されているところだ。
「Z商会にはVIP制度というモノがございません。会頭曰く、すべてのお客様は等しくお客様であり、それ以上でもそれ以下でもないと。要するに、店に入ってくればそれは皆すべてお客様という考えだそうです」
「それは……なんだか凄い考えですね」
「そうですね、支店長程度には分からない不思議なお考えをお持ちなのでしょう。しかしそれとは別に、お客様を選ぶことはします。死んでは顧客になれませんので、身を亡ぼすような商品は提供しないのです」
「あっ、えっと、その……」
俺は祈念者という体を取っているので、たとえクソ雑魚でも死ぬことはない。
……二重三重に対策はしてあるので、死んでも蘇るという方が正しいのだが。
裏事情はともかく、移動中の会話で祈念者であることは伝えてある。
なので死なないことは分かっているはず、つまりこの説明は──
「もちろん、お客様が不死の存在であることは充分承知しております。ですが、そこにリスクがあることも承知です。──ここより先は、そんな私共の査定基準を超えた方をご案内する場所です」
「は、入ってもいいんですか?」
「ええ、もちろん。お客様は……とても面白そうですので。何より、お客様からは会頭と同じものを感じます。同じ力を……無数におられるかのような、気配をですね」
「…………」
該当するのは、{多重存在}だろうか?
縛りプレイではあるが、そもそもこのスキルが無いと行えないので常時使用している。
その会頭とやらも、同じスキルを持っている……その人、だいぶチートなんだな。
支店長が案内してくれたのは、巨大な扉。
これまでよりも魔道具の品質が高く、奥を厳重に守っているのがよく分かる。
「では、行きましょう。おそらくお客様がお求めのモノは、この先にあります」
「は、はい!」
そうして俺は、ゆっくりと開かれていく扉の中へ進んでいく。
その先で見たモノは……無数の扉が用意された、不思議な広間だった。
「ここって……」
「当商会は、迷宮を管理しております。外部に影響が出るものをすべて、押し込んでいると言っても過言ではありませんが。お客様にご紹介する魔本も、実はこちらにあります」
「迷宮。つまり、この部屋もまた別の場所に繋がっているってことですか?」
「そうですね。そして、そこにはお客様の求める魔物も……こちらですね」
案内されたそこは、他と変わらないただの扉が設置されている。
再び意を決し、その扉を潜ると──そこには、一匹の魔物が部屋の中で待っていた。
「……あれは?」
「──『進退流転[ディヴァース]』。当商会が保有する、いわゆるユニークモンスターです。残念ながら、従魔にすることはできないのですが……お客様の戦力になることは、お約束できます」
「でも、従魔にはできないって……」
「それを成すのはお客様です。こちらの魔物にご満足いただけなかった場合は、当商会でまた別の魔物を見繕います。ですが、もっともオススメするのはこちらの魔物です……いかがなれますか?」
ユニークモンスターを倒した経験はある。
彼らは討伐した者の中で、もっとも貢献した人物に調整された形でアイテムを生み出してくれるのだ。
なので俺がこの魔物を倒せば、今の俺に必要な形で何かをドロップする。
しかし、ユニークモンスターってどいつもこいつも強いはずなんだが……。
「倒せ、ますよね?」
「ご安心を、防具は見繕います。お客様が死なないようにポーションなども支給します。もちろん、有料ですが」
「……あの、武器は?」
「お客様、彼の魔物はその特殊性から私共でも手を焼いていました。しかし、お客様ならば……好んでくれると思いご紹介しました。商品で喜びを生む、それも会頭のご意思……試してみてはいただけないでしょうか?」
そこまで言われて何もしないのは、偽善者としての意地に反する。
覚悟を決めてコクリと頷くと、支店長から支給品を受け取るのだった。
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