上 下
1,581 / 2,518
偽善者と貯蓄期間 二十四月目

偽善者と戦力集め その07

しおりを挟む


 結論から言ってしまえば、支店長が紹介してくれた中に俺が興味を抱くような魔物はいなかった。

 陸海空、さまざまな場所で生息する魔物を見せてくれた……が、なんというか、それでも物足りなかったのだ。

 いちおう、支店長の紹介を聞きながら多種多様な魔物を観察した結果、鑑定スキルをどうにか習得することができたので、それが不幸中の幸いと言えよう。

 ついでに、魔物言語と俯瞰スキルなんかも得られていた。
 前者は言語理解スキルが特化し、後者は空から見下ろした経験から得たと思われる。


「あの、ごめんなさい」

「いえいえ、お気になさらず。冷やかしのお客様ならともかく、お客様は真剣に魔物たちがどうあるのかを見ていました。失礼を承知で申しますが、普通はそこまでしません」

「……そうですか? 魔物とは対等の、いえ私の場合は守ってもらう可能性が高いので彼らにお願いする立場ですので。自分優位で考えてはいけない、そう考えています」

「なるほど、やはりそうですか。お客様のような方には、当商店秘蔵の魔物をご紹介するしかありませんね」


 そう、まだその秘蔵の魔物とやらは見せてもらえずにいた。
 というか、ちょうど現在進行形でそこに案内されているところだ。


「Z商会にはVIP制度というモノがございません。会頭曰く、すべてのお客様は等しくお客様であり、それ以上でもそれ以下でもないと。要するに、店に入ってくればそれは皆すべてお客様という考えだそうです」

「それは……なんだか凄い考えですね」

「そうですね、支店長程度には分からない不思議なお考えをお持ちなのでしょう。しかしそれとは別に、お客様を選ぶことはします。死んでは顧客になれませんので、身を亡ぼすような商品は提供しないのです」

「あっ、えっと、その……」


 俺は祈念者という体を取っているので、たとえクソ雑魚でも死ぬことはない。
 ……二重三重に対策はしてあるので、死んでも蘇るという方が正しいのだが。

 裏事情はともかく、移動中の会話で祈念者であることは伝えてある。
 なので死なないことは分かっているはず、つまりこの説明は──


「もちろん、お客様が不死の存在であることは充分承知しております。ですが、そこにリスクがあることも承知です。──ここより先は、そんなわたくし共の査定基準を超えた方をご案内する場所です」

「は、入ってもいいんですか?」

「ええ、もちろん。お客様は……とても面白そうですので。何より、お客様からは会頭と同じものを感じます。同じ力を……無数におられるかのような、気配をですね」

「…………」


 該当するのは、{多重存在}だろうか?
 縛りプレイではあるが、そもそもこのスキルが無いと行えないので常時使用している。

 その会頭とやらも、同じスキルを持っている……その人、だいぶチートなんだな。

 支店長が案内してくれたのは、巨大な扉。
 これまでよりも魔道具の品質が高く、奥を厳重に守っているのがよく分かる。


「では、行きましょう。おそらくお客様がお求めのモノは、この先にあります」

「は、はい!」


 そうして俺は、ゆっくりと開かれていく扉の中へ進んでいく。
 その先で見たモノは……無数の扉が用意された、不思議な広間だった。


「ここって……」

「当商会は、迷宮を管理しております。外部に影響が出るものをすべて、押し込んでいると言っても過言ではありませんが。お客様にご紹介する魔本も、実はこちらにあります」

「迷宮。つまり、この部屋もまた別の場所に繋がっているってことですか?」

「そうですね。そして、そこにはお客様の求める魔物も……こちらですね」


 案内されたそこは、他と変わらないただの扉が設置されている。
 再び意を決し、その扉を潜ると──そこには、一匹の魔物が部屋の中で待っていた。


「……あれは?」

「──『進退流転[ディヴァース]』。当商会が保有する、いわゆるユニークモンスターです。残念ながら、従魔にすることはできないのですが……お客様の戦力になることは、お約束できます」

「でも、従魔にはできないって……」

「それを成すのはお客様です。こちらの魔物にご満足いただけなかった場合は、当商会でまた別の魔物を見繕います。ですが、もっともオススメするのはこちらの魔物です……いかがなれますか?」


 ユニークモンスターを倒した経験はある。
 彼らは討伐した者の中で、もっとも貢献した人物に調整アジャストされた形でアイテムを生み出してくれるのだ。

 なので俺がこの魔物を倒せば、今の俺に必要な形で何かをドロップする。
 しかし、ユニークモンスターってどいつもこいつも強いはずなんだが……。


「倒せ、ますよね?」

「ご安心を、防具・・は見繕います。お客様が死なないようにポーションなども支給します。もちろん、有料ですが」

「……あの、武器は?」

「お客様、彼の魔物はその特殊性から私共でも手を焼いていました。しかし、お客様ならば……好んでくれると思いご紹介しました。商品で喜びを生む、それも会頭のご意思……試してみてはいただけないでしょうか?」


 そこまで言われて何もしないのは、偽善者としての意地に反する。
 覚悟を決めてコクリと頷くと、支店長から支給品を受け取るのだった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?

破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。 そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。 無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた… 表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと イラストのurlになります 作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)

虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

俺と異世界とチャットアプリ

山田 武
ファンタジー
異世界召喚された主人公──朝政は与えられるチートとして異世界でのチャットアプリの使用許可を得た。 右も左も分からない異世界を、友人たち(異世界経験者)の助言を元に乗り越えていく。 頼れるモノはチートなスマホ(チャットアプリ限定)、そして友人から習った技術や知恵のみ。 レベルアップ不可、通常方法でのスキル習得・成長不可、異世界語翻訳スキル剥奪などなど……襲い掛かるはデメリットの数々(ほとんど無自覚)。 絶対不変な業を背負う少年が送る、それ故に異常な異世界ライフの始まりです。

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

処理中です...