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偽善者と貯蓄期間 二十四月目
偽善者と戦力集め その03
しおりを挟む「ところでお前さん、どのタイプの魔本をお好みさね?」
「タイプ……ですか?」
「なんだ、知らないのかい? 魔本には種類があって──スキルや魔法が封じられている学習型、記憶や魂が封じられた物語型、現象や概念が封じられた法則型の三つに分かれているんだよ」
言語理解スキルが手に入ったものの、レベルが足りないためまだ読めない物がある。
なので老人と会話をしながら、本を読む作業を続ける……並行行動スキルに最適だ。
「学習型は比較的安全さ。読むだけで技術を得るようになっているけど、そこに刻まれたのはただの技術。禁書レベルになると、事情も少し違ってくるがね」
「他二つは、どうなんでしょう?」
「……今のあんたじゃ、見ることもできないだろうね」
言語理解スキルのレベルが足りないと、見れないわけか……読めない、ではなく。
しかし、ここで一つの問題が生じる……バレるかもしれないが、訊いておくか。
「あの、この魔本……売りませんけど! この魔本は、誰にでも使えました。それはどういうことでしょうか?」
「ん? なるほど……あんたの持ってるこれは、物語型でもかなり特殊な類さ。ということは、あんたも少し前から有名な祈念者の一人だね。これは、祈念者全員に適性があるという代物だよ」
渡した『赤ずきん』の魔本の表紙を見ただけで、老人はそう判断する。
……なるほど、そういう理由ならバレても仕方ないか。
何かと知っていそうなこの老人でも、さすがに起こしたことすべてを表紙だけから把握することは不可能みたいだな。
「隠しているつもりはなかったのですが、僕も祈念者です。えっと、確認したいんですけど、本来の魔本は読むために適性が必要なんですか?」
「その通りさね。物語と法則には封じられたモノに適性が必要になるのさ。あんたの持ってるそれは、祈念者であること。他の魔本にも、それぞれ条件が設けられている」
「それを満たしていないと、読めないということでしょうか?」
「いいや、読むことはできるさ。ただし、読む以外の使い方ができないんだよ」
自由民に読まれて、解放されたら面倒だからやったことなのだろう。
俺は異世界転移(?)したが、肉体は祈念者のものを使っているので条件を満たした。
話を進めると、さらに情報が増える。
読めるには読めるが、物語型はほとんどが白紙となっているらしい。
物語が進む──つまり、祈念者が内部で行動する──とページが増えていき、エピローグを迎えた場合のみ、誰でも読めるようになるようだ。
ノーマルエンドを迎えた場合、他の祈念者が使うまではその結末が読めるらしい。
しかし他の者が再び物語を読み始めると、再び一から書き直しが行われるそうだ。
「……とりあえず、ある程度読めるようになりました。あと、ついでに並行作業スキルと暗記、速読スキルも得られました。魔本は買わせていただきます」
「毎度あり。ここに来れる祈念者も、全員があんたみたいに気前が良ければ楽に商売ができるのにね」
並行作業スキルは、二刀流スキルとは異なる方法で並列行動に至るスキルだ。
戦闘には使えないが、本を読むためならば作業として行動の並列化ができる。
読みながら老人と会話を行い、字の法則性から言語を読み解いていく。
どうやら最初に言語用の本の次は……言語理解スキルの魔本だったようだ。
字が古かったせいで、言語理解スキルが無いと読めないようになっていた。
なんか、本末転倒な話だな……いやまあ、便利だからこれも買っておくけど。
「そもそもこれ、いつの時代に書かれた魔本か分かっているんですか?」
「最後を見な」
「……神暦1000年。だいぶ古い本なんですね。中古ってことで、安くなったりしないでしょうか?」
「わざわざ読む奴はそういないからね。そもそも言語理解を持っている奴が買うのは、蒐集マニアだけ。あんたもその口かい?」
魔本の使い道はさまざまだ。
持っているだけで効果を発揮するということはないが、内部の魔力さえ溜まっていれば多様な能力を本から引き出せるわけだし。
俺の場合、第一目的は国民のため。
読み明かせばスキルを得られるわけだし、そうでなくとも魔本を刻める本というだけでも非常に珍しい。
……言語理解とは別のスキルに、リュシルであれば書き換えられるだろうしな。
「他にも用途はありますし、何より──お金ならいくらでもあります」
「……祈念者はたしか、見た目と精神が違う者が多いんだったね。その金があれば、ここにある本は全部買えるよ」
「…………奥にある本は?」
「あれは金じゃないよ。それに、価値も金だと判断できないモノが多い。販売じゃなくて封印が目的のモノもあるさね」
やっぱり普通の古本屋では無かった。
創作物でも定番の流れだが、そもそも魔本が無いと入れないのだから疑って当然だな。
今の俺には魔力感知が無いので体……ではなく魂魄が覚えている感覚でしか分からないが、それなりの魔力が奥から感じられる。
それだけ危険な魔本が、神が生みだしたこの街に封印されているのだ。
ボス同様に、スタート地点にはさまざまな秘密があるってことなんだよなー。
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