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偽善者と貯蓄期間 二十四月目

偽善者と魔本使用法 後篇

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 再起動したリュシルを交え、改めて魔本に関する講座が行われる。
 リュシル先生に加え、今度はマシュー先生も教えてくれる……生徒冥利に尽きるな。


「コホンッ──どうやら、『解読リリース』の使い方までマシューが話してくれたみたいですし、そこから続けましょう。要点だけ言えば、何度も使えるタイプとそうじゃないタイプ、その両方が存在します」

創造者クリエイターに説明した内部に侵入するタイプの魔本であれば、どういった結果を生んだかによって再使用が可能です。創造者風に言うのであれば、ノーマルエンドであれば再プレイがコンテニューできるということです」

「……凄い物のはずなのに、俗な感じになった気がする。まあ、バッドエンドはやり直して当然だけど、トゥルーエンドってのは……俺のやってきたことでいいのか?」


 童話の世界に潜り込んでは、あの手この手で主人公の座に選ばれた少女たちに偽善を行い続けてきた。 

 それは『運命簒奪者』の効果もあってか、だいぶ地球の物語とはズレていたが……最終的に彼女たちが(俺的には)救われたことに違いはない。


「ノーマルエンド、つまり核となった皆さんの魂魄は救えず、物語を完遂させた場合は筆者である運命の女神の用意した報酬のみが与えられます」

「対してトゥルーエンド、つまり創造者の辿り着いた結末は筆者の意に背いており、用意された報酬を奪った挙句、本来決められていた結果すら台無しにしてしまう。要するに、駄作にしてやりたい放題ということです」

「言い方! 俺がやってきたこと全部、なんか凄い残念な感じが漂ってくるだろ。けど、これって話が少し逸れてきたな。魔本の再使用に関する話だったんじゃないか?」

「合ってますよ。本来、トゥルーエンドを迎えた場合は魂魄が解放されます。つまり、やり直しが効かなくなるのです。メルスさんの場合は……なぜかすべての権利を奪い、内部の魂魄もそのままでしたが」


 ちなみにだが、止まっていた時間が動き出したため、内部では老化の概念が蘇った。
 まあ、ファンタジーな世界なので、寿命の方はそれなりに長いのだが。

 それでも死ぬようにはなった。
 罪悪感は湧くモノの、意識がないまま無限ループというのもどうかと思う。


「魔本には核が存在します。先ほどの話であれば、シャルちゃんやリラちゃんという主人公の魂魄。何かしら、その魔本が効果を発揮するために必要なものがあります。それは、無形でも有形でも構いません」

「スキルとかでもいいと……」

「構いませんが、おそらくスキルではもう一つのタイプ──外部に核となったものを具現化する方に該当すると思いますよ? たとえば……この鑑定スキルの魔本であれば、使用者による劣化ゼロで鑑定を発動できます」

「その言い方だと刻んだ時の分の劣化はあるのか。でも、そうだとしても有用だな。こっちも使い切りとかがあるのか?」


 鑑定スキル、祈念者はSPがあれば取得している定番のスキルだが、自由民からすれば喉から手が出るほど希少なスキルだ。

 それを使えるというのだ、便利だろう。
 付与式の『開読オープン』よりも『解読』の方がスキルレベルが高いので、条件次第ではこちらの方が使われるかもしれない。


「その問いへの解答はどちらとも言えない、でしょうか。『開読』同様、内部の魔力が尽きるまで使うことができるのですが、品質の悪い魔本の場合、一定の確率で使用後に消えてしまうのです」

「消える……つまり、魔本がこの世界から失われるということか?」

「ああいえ、内部から核が失われるという意味です。魔本そのものは残り、また核となるものを入れれば魔本として機能しますよ」

「付け加えれば、内部取り込み型の魔本も核が破壊されれば機能を失います。そのため、運命の女神は主人公の座に定めた者たちに自身の祝福を与え、死んだ場合は時間を巻き戻してやり直しをしているのです」


 俺と運命のクソ女神はスタンスに違いはあるものの、同じように人を救っている。
 非常に気に食わないのだが、悪者の手に魔本が渡った場合のことも考えているようだ。

 無性に腹が立つな……{感情}が機能するほど大幅なブレじゃない以上、何もしないと炙られるような【憤怒いかり】を覚えてしまう。


「……“精神安定トランクライズ”。とりあえず、二つの機能も理解した。完璧とは言わないが、これまでよりは使えるようになったと思う」

「よかったです……しかしメルスさん。これまでこの話を聞いて、何か思い浮かんだことはありませんか?」

「えっ? うーん……何かあったかな?」

「そうですか……」


 魔本に関することはな……。
 リュシルとマシューの授業はとても参考になったし、いつまでも続けていたいものではあったのだが。

 学があまりよろしくはない俺なので、スキルによる思考能力の補助が無ければ細かいことはサッパリなのだ。


「メルスさん、これまで話していたのはあくまでも世間一般で言うところの魔本です。途中で話が逸れ、封印型の魔本の話をしていましたが、あくまでも学習用の魔本に関する話でした。つまり──」

「! なるほど……二人の授業が、またの機会に受けられるということか!」

「そ、そうではありません! メルスさんの持つ[夢現の書]のように、これまでの話では評することのできない魔本が、世界にはまだまだ無数に存在します。先ほどの話で、すべてを理解したと思ってはいけませんよ?」

「はーい、先生の言うとおりにしまーす」


 結局、眷属だとあまり使わない物だということは分かった。
 ……複製したら、国民たちでも使えるような魔本を開発してみようかな?


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