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偽善者と貯蓄期間 二十四月目

偽善者と精霊術 中篇

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 精霊術のお勉強はすぐに頓挫した。
 ユラルはすべての型を使えるものの、俺にそれを教えることができない。

 水と土の型は覚えた、しかし実践では使うことのできないほどに酷い状態だ。
 二つ同時に使うことはできないし、体を動かすだけで勝手に解除されてしまう。


「俺は……どうすればいいんだ?」

「私としては精霊術をマスターしてほしいけど、メルスンはもう無理だと思う?」

「裏技でどうにか二つ覚えても、それは使いたい放題じゃなかったからな。常に精霊を使わなきゃいけない……ユラルしか、胸を張って力を借りているとは言えない」


 魂魄のレベルまで繋がっているからこそ、リンク中はかなりの精度で精霊術が使える。
 二つ同時も容易いし、それ以外の行動をしても解除されることはない。

 だが、実験中に他の精霊をリンクさせての精霊術を試しても上手くいかなかった。
 最初から同調率と言われていたので、そうなることは分かっていたんだけどな。

 ……が、そこはいちおう方法を考え、怒られる覚悟で精霊術を使う方法を見つけた。
 精霊を取り込み、消化が終わるまで一時的にその属性の精霊術が完璧に使える。


「アレ、絶対に止めてよね。メルスンが自分で創った精霊で、ここに微精霊たちが一体もいなかったから許したけど」

「分かってる。俺もさすがに、アレは二度とやりたくない……ただ、お前とナースはそれ以上の速度で回復するよな?」

「それはそうだけど……って、そういう問題じゃないからね! 遠回しに言ってごまかしているけど、使い潰すって言ってるよね?」

「俺に使い潰されるようなヤツ、眷属にはいないと思うんだけどな。むしろ、俺が使われているって思うことの方が多いし」


 勘違いの場合が多いのだがな。
 俺は生産神の加護を持ち、何でも作れるのでそういうポジションでもあるのだ。

 料理はやってくれる眷属が増えたが、それ以外の生産活動は……うん、まだまだ俺が主導になっているし。


「……まあ、俺が使い潰されるのが偽善関係なら本望だから別にいいんだけど。そういえば、ナースで思い出したんだが……アイツも無の精霊術が使えるのか?」

「うん、できてたよ。さっきも言ったけど、無の精霊術は『無吸』。魔力の回復速度を上げて、魔法をたくさん使えるようになる技。ナースンが虚空魔法を使えるのも、無精霊の回復速度のお陰かもね」

「そうか……じゃあ次の質問を」

「まだあるの? メルスンって、変なところに疑問を持つことが多いよね」


 創作物の影響でもあるし、探求心を忘れないためでもあるな。
 知らずにいて後悔するよりも、多少迷惑を掛けてもすべてを識っておくべきだろう。


「精霊術はスキルじゃない、魔法でも武技でもないのは分かった。けど、精霊術がスキルに影響を及ぼす場合ってあるのか? たとえば、ナースだったら魔力の回復スキルもあるから相乗効果がある……とか」

「それはあるよ。広義の意味で言えば、精霊術は精気力を使った性能強化みたいなものだからね。メルスンの想像通り、無精霊は普段から回復速度を上げているから、その分スキルが手に入りやすいよ」

「ユラルもそれは同じか……じゃあ、それを逆に利用できないか? つまり、精霊術と同等のスキルを使うことで、精霊術の感覚を掴む……みたいな感じで」

「試したことないからなー。スキルって行動の自動化だから、可能かもしれないけど……それを全部精気力で使えるようになったら、たぶんできると思うよ」


 そう言っている本人にも、それができるかどうかは分かっていなさそうだ。
 裏技と称した精霊契約の恩恵よりも、こちらの方が違和感だらけだしな。

 答えから計算式を割り出そうとしているようなものだし、それをしても正しい式へ繋がるとは限らない。


「火と水は精神強化、風と土は身体強化。光は聖気で闇は瘴気。無が回復……というか、呼吸だよな? それを精気力で調整して、精霊術と同じ型に押し込んでみるってことで」

「……できるかな?」

「水と土はおさらいだな。まずは土、精気力で地面に根を張る感じで。身体強化は、足から取り込むイメージをだな……」

「うーん……できてる、のかな? さっきよりは上手くなっているとは思うけど」


 ただまあ、これもスキルを使ってどうにかという感じだ。
 ユラルの力を借りているときよりは劣っているが、素でやるよりマシと言ったところ。

 試しに魔法を撃ってもらい、土の精霊術である『土堅』を試してみる。
 やはり、前に素の状態で試したときよりは耐えられるが……それでも弾き飛ばされた。


「水も似たような感じか……うん、まだまだ精進しなきゃいけないってことか。『水深』は魂の拡張、つまり並列できることの増大が目的なんだよな」

「他にも、広げた魂で相手の動きを予測できるとかそういう効果もあるけどね。それはあくまで、拡張の副次結果だから」

「なんだかんだ言っても、結局頑張らないとやってられないってことか……これ、本当に時間が掛かりそうだな。アンたちにも手伝ってもらおうか」

「ま、まあ、私も手伝うから。が、頑張ってみようよ」


 やっても損はないし、これを会得しておけば縛りでも有効的に使える可能性が高い。
 解析班の力を借りて、どうにか早く使えるようになる方法を探してみようか。


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