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偽善者と貯蓄期間 二十四月目

偽善者と精霊術 前篇

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 夢現空間 修練場


「メルスン、精霊術って知ってる?」

「……なんだ、急に? あっ、もしかしてユラルもついに、精霊系のテコ入れか?」

「……言葉の意味は分かるけど、それはやめてよ。そうじゃなくて、メルスンがせっかく精霊と契約しているのに、それっぽいことをしないからだよ!」

「と言われてもな。俺には精霊魔法と精霊術の違いがさっぱり分からん」


 本で読んだことはないのだが、いったいどういうものなんだろうか?
 そう尋ねると、待ってましたと言わんばかりにいつものように先生コスをするユラル。

 ……精霊の上位種である聖霊、そんな彼女がメガネまで付けて張り切っていた。
 いつものことだし、胸を張っている彼女は可愛いので授業を受けることにする。


「精霊術は、精霊たちの性質を再現したものなんだよ。七大属性の精霊たちは、それぞれ異なる性質を持つ。それを人族が調べて、誰でも使えるようにした……それが精霊術」

「異なる性質って、どういうことだ?」

「たとえば火精霊は、心を燃やして魂の力を高める性質があるんだ。それを人族が再現したのが『火高』、精気力を使って同じことをできるようにしたんだ」

「ふーん、それって武技とか魔法には属していないのか?」


 精霊術はあくまで技術であり、武術でも魔法でもないそうだ。
 つまりは魔力精錬や武技再現といった、スキルに頼らない技に該当するらしい。


「精霊術か……まあ、覚えておいて損はないよな? ユラル、お前は樹聖霊だけど全部教えられるのか?」

「うん、精霊は最初から自分の属性と同じ性質の精霊術を完璧に使えるだけで、他の精霊術ができないわけじゃない。むしろ、人族よりも覚えづらいかも。だけど、聖霊になると逆に覚えやすくなるんだ」

「じゃあ、ユラルみたいな木精霊にも何かしら精霊術の技があるのか?」

「最初はないよ。ただ、複数の属性を併せ持つ精霊は、その属性の精霊術すべてが使えるよ。私だったら、水と土の精霊術を最初から使えていたし。あとはその二つを組み合わせて、自分でそれっぽいものを作るんだよ」


 ズルい、そう思っても構わないだろうか?
 俺としては、この後の展開がなんとなく分かっているのだ。


「それじゃあ、頑張ってやってみよう!」

「おー」


 ユラルにやり方を教わり、俺はさっそく精霊術の修練を始めるのだった。


  ◆   □   ◆   □   ◆


「ま、まさかここまでとは……」

「…………分かっていたんだ、うん」

「メルスンって、本当に才能ないね!」

「……魔力精錬も武技再現も、尋常じゃない時間を浪費してやっとだったんだぞ? なのに精霊術だけパッパとできるなんて、夢は望まないさ! 知っているか、人の夢って書くと『儚い』って字になるんだぞ!?」


 結論から言ってしまえば、俺はまったくと言っていいほどに成功しなかった。
 精霊術の技──型というらしい──は属性適性や魔力量を必要な資質としないらしい。

 必要なのは理解と研鑽。
 どのようにして型を執り行うのか、またそれをどれだけ早く強くするのかによって、精霊術の効果は変わるらしい。

 なので、俺もいずれは精霊術を使えるようになるだろう……ただそれが、はるか先の未来で、くそ雑魚なだけであって。


「ユラル~、なんか裏技とかないの~?」

「うーん……無いって言ったら嘘になるし、あると言っても嘘になるかな? メルスン独りで練習するなら、裏技は無いよ」

「ってことは、あるんだな? 頼む、このままだと何十年先になるか分からない!」

「……もう、分かったよ。これからそのやり方を伝授してあげる」


 ユラルの指示に従い、“聖霊憑依ポセッションスピリット”を発動させる。
 対象は当然彼女、ついでに礼装を纏って指示通りにユラルのものへモードを変更。


「神樹を統べし逸れ者、其は追放されし聖霊なり。我が願いを聞き受けよ、願わくば地に恵みを。樹を、豊穣を齎す自然の力を、誓いに従い今ここへ──“樹聖魂魄ソウルメリアス”」


 あとは樹聖霊の因子も注入しておき、ほぼ完全にユラルと一体化。
 同調率を上げておくことが、成功するための秘訣なんだとか。


『それじゃあ、メルスンはとりあえず何もしなくていいから。私がメルスンの体を動かして型をやるから、それを意識して』

「了解……っと、勝手に体が動くのは少し慣れない感じがするな」


 水の型で魂を拡張するという『水深』、土の型で魄を堅固にするという『土堅』。
 それら二つを生まれつき使えるのが、木精霊なんだとか。 

 ユラルは俺の体を使い、二つの型を実際に使っている。
 俺にもその感覚はフィードバックし、感覚が掴めた……ような気がした。


『ううん、まだまだだよ。今はメルスンの力じゃなくて、私の精霊術をメルスンが借り受けているってイメージだから。やり方も人によって違うし、あくまでお試し版だよ』

「お試しねぇ……参考にしたいから訊いておくけど、ユラルの場合はその二つはどういう感じでやっているんだ?」

『あえて口に出して言うなら……こう、水は心を波紋みたいに広げる感じで、土はどっしりと根を張る感じ……かな?』

「なぁ、それで理解してくれると思うか?」


 当然ながら、その説明では無理だ。
 それでもあの手この手で工夫を重ね、どうにかこの二つの型だけは最低限使えるようになった。

 しかしそれも、ユラルとのリンクが切れればすぐに解けてしまう。
 まだまだ完全に使いこなすというには、ほど遠いわけだ。


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