上 下
1,568 / 2,519
偽善者と攻城戦イベント 二十三月目

偽善者と攻城戦終篇 その20

しおりを挟む


「魔導解放──“世界欺く夢幻の霧”」


 世界を騙すことができる霧を伸ばし、俺という存在が居る場所を書き換える。
 そうして実現するのは、封じられている転移の真似事。

 そうして移動した先は、魔王城の奥地。
 祈念者の精鋭たちが睨みつける魔王の隣、俺の姿はそこに出現した。

 祈念者たちはちょうど、魔王にとどめを刺そうと一斉攻撃を行っている。
 諦めたように目を閉じる魔王、しかし俺は眼前に向けて手を伸ばす。


「魔導解放──“万物呑み込む大黒点”」


 突如として現れたブラックホール。
 祈念者の攻撃はすべてそこに呑み込まれ、遠距離攻撃すべてを無効化した。 

 しかし、まだ近接職が直接武器を持って接近している。
 職業能力の中には、同士討ちを無効化するモノもあるからそれを使っているのだろう。

 ブラックホールが彼らを呑み込まないように吸引力を調整し、離れていくのを待つ。
 全員が現れた乱入者に敵対心を向けてきたところで、予め調整した声を出す。


「おめでとう、諸君。見事、魔王を打ち倒せし者よ。君たちの功績は大変素晴らしく、世界を救うものだろう」

「いったい、お前は何者なんだ!」

「何者でもないさ。私はただのお節介者、一方的な暴力を止めようとする者」

「そこにいるのは魔王! 人族を皆殺しにしようとし、魔物の大軍を──」


 放たれるのは正論、正論。
 真面目なハーレム勇者ことフレイ君は、自身の熱き心のままに正義を語る。

 一人、赤髪から金髪に戻って冷めた目を向けてくるツインテールの娘もいたが、頭がいいので勝手に事情を悟るだろう。

 かなり長い時間語り、それを時間稼ぎとして仲間に何かを準備させている。
 それが分かっているので、俺もそれを楽しみにしていた。


「……もう、準備はいいか? 勇者君、君の話は長い。要すればこうだろう? 悪は死すべし、悪に加担する者も死すべし。それを成すのは正義の味方だと」

「ち、違ッ──」

「同じことだ。現に彼らも、君の正義に動かされ人殺しを行おうとしてる。魔王とて人、それを殺す君たちは人殺しさ」

「何言ってんだよお前! そいつはNPC、プレイヤー様のために用意されたデータの塊じゃねぇ──ゴフッ!」


 せっかくの話し合いに横槍を入れたゴミには、ご退場を願うことに。
 完全無詠唱の“影槍シャドウランス”を行使して、絶命させて消し去った。

 世界がゲームだと思うのは構わない。
 だが、ゴミのような輩の主張は、眷属や国民たちの存在を否定するものだ。

 沸々と湧き上がる【憤怒】の想念。
 それに身を任せては彼らが死んでしまうので、『侵化』状態までどうにか鎮めて祈念者たちと向き合う。

 ──もう飽きた、目的を果たそうか。


「しばらくお休みです、しばしのお待ちを。魔導解放──“閉ざされし終末”」


 時間を停止した空間。
 カナとの戦いでも使った魔導だが、シンプルに幽閉するためにも使える。

 戻すのではなく、先送りにするだけなので時間稼ぎにはちょうどいい。
 予め霧を張り巡らせ、『上』から観られるものは隠してある──さっさと済ませよう。


「さて──魔王さん、話があります」

「……いったい、何者だ?」

「その前に一つご確認を──あの日記、覚悟はできていますか?」

「ッ! 読んだのか……そして、そのうえで覚悟を問うか」


 要点だけ掻い摘んでいえば、この魔王は従順な傀儡であった・・・
 そしてそれは、遠い未来にあることを成すための布石でもあったのだ。


「一つ、残念なことがありましたので。アレでは貴方が救われない……いえ、貴方の遺志は間違いなく受け継がれますがね」

「……あれは、成功するのか?」

「しますよ、間違いなく。ですが、貴方はそれで満足しようとしている。私はそれが許せない……計画には支障が出ません、なので協力してはいただけないでしょうか?」

「……貴様の目的はなんだ?」


 俺はただニッと笑みを浮かべる。
 目的か……ここは偽善と答えるのが正解なのだろう、しかし今は別のものを。


「──運営神アイツら虚仮わらいものにする」

「いいだろう、どうせ今も昔も道化のまま。未来がすでに創られているのであれば……この私は、貴様に委ねよう。いったい、何をすればいいのだ?」


 覚悟を決めた真剣な眼差し。
 しかしそれは、死地へと向かう戦士のようなものでもあり……思考をフル回転させ、俺は返答をする。


「──女になれ」

「……………………はっ?」


  ◆   □   ◆   □   ◆


≪さいしゅうイベントがしゅうりょうしました。みなさん、おつかれさまでした。みなさまのごかつやくをすうちかし、ポイントとしてひょうかさせていただきます。イベントにおけるぜんかつどうがさていきじゅんです≫

≪けっかはっぴょう、ならびにけいひんこうかんはごじつとなります。いちじかんご、みなさまをもとのエリアにもどします。それまで、どうかごゆるりとおすごしください≫


 あの状況から脱するのに、ひどく神経をすり減らした。
 魔王と作戦を決め、魔導を解除した直後に放たれる膨大な数の魔法。

 どうやらアルカさん、すでに耐性を付けたようで意識が半ばあったようです。
 こちらの事情は分からずとも、俺を殺すために大量の魔法を準備していた。

 俺はそれを利用しつかってどうにか脱出。
 魔王も祈念者たちにいくつかアドバイスをしてから、体に剣を貫かれて死亡。

 ちょうど今、それは成された。
 ゆえにイベントは終了し、一時間もすればこのイベントエリアともおさらばとなる。


「その前にニィナ、やっておきたいことって何かない?」

「うーん……何もないかな? あっ、兄さんといっしょにいたい……かな?」

「それは最初からの予定だから、わざわざ言わなくても大丈夫だよ」


 俺とニィナは始まりの町(複製)を歩き、このイベントの余韻に浸っていた。
 特にやることもなく、縛りを解除したときに邪魔への対策は事前に済ませてある。

 顔だけでなく髪も真っ赤にさせていそうなツンドラ少女や、絡んできそうなチンピラ、美少女を付け狙う大きな子供たち。

 そういったすべてに備えてある。
 なので、今も街のどこかで怒声や悲鳴が上がっていた。


「兄さん……その、最後はどうなったの?」

「ちょっと嫌われた気がするけど、偽善には相手の反応は関係からね。協力者として、これから働いてもらえると思うよ」

「えっ? あっ、うん……兄さんがそれでいいなら、いいんだけど」


 何か言っているようだが、ニィナの優秀なスキルによって盗聴や読唇は不可能だ。
 鈍感系ではない俺でも、分からないモノは確認できないので諦める。


「戦力は多い方がいい。ニィナは、もしアイツらと戦うことになったら……どうする?」

「……まだ、分からない。兄さんたちの力になりたいけど、ぼくは運営神に創られた。それが兄さんたちの足を引っ張るかもしれないから……怖いんだ」

「僕たちはニィナを邪魔とは思わないよ。大切な家族だし、もしあっちがニィナを利用するとするなら考えがある。だから、安心してやりたいことをやってくれ」

「兄さん……!」


 周りから殺意の視線を向けられようと、俺は自慢の妹を誇るだけ。
 そうして一時間が経つまで、ただひたすらにニィナを可愛がるのだった。


しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

World of Fantasia

神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。 世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。 圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。 そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。 現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。 2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。 世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。

パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。

荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品 あらすじ  勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。  しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。  道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。  そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。  追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。  成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。  ヒロインは6話から登場します。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

処理中です...