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偽善者と攻城戦イベント 二十三月目
偽善者と攻城戦終篇 その20
しおりを挟む「魔導解放──“世界欺く夢幻の霧”」
世界を騙すことができる霧を伸ばし、俺という存在が居る場所を書き換える。
そうして実現するのは、封じられている転移の真似事。
そうして移動した先は、魔王城の奥地。
祈念者の精鋭たちが睨みつける魔王の隣、俺の姿はそこに出現した。
祈念者たちはちょうど、魔王にとどめを刺そうと一斉攻撃を行っている。
諦めたように目を閉じる魔王、しかし俺は眼前に向けて手を伸ばす。
「魔導解放──“万物呑み込む大黒点”」
突如として現れたブラックホール。
祈念者の攻撃はすべてそこに呑み込まれ、遠距離攻撃すべてを無効化した。
しかし、まだ近接職が直接武器を持って接近している。
職業能力の中には、同士討ちを無効化するモノもあるからそれを使っているのだろう。
ブラックホールが彼らを呑み込まないように吸引力を調整し、離れていくのを待つ。
全員が現れた乱入者に敵対心を向けてきたところで、予め調整した声を出す。
「おめでとう、諸君。見事、魔王を打ち倒せし者よ。君たちの功績は大変素晴らしく、世界を救うものだろう」
「いったい、お前は何者なんだ!」
「何者でもないさ。私はただのお節介者、一方的な暴力を止めようとする者」
「そこにいるのは魔王! 人族を皆殺しにしようとし、魔物の大軍を──」
放たれるのは正論、正論。
真面目なハーレム勇者ことフレイ君は、自身の熱き心のままに正義を語る。
一人、赤髪から金髪に戻って冷めた目を向けてくるツインテールの娘もいたが、頭がいいので勝手に事情を悟るだろう。
かなり長い時間語り、それを時間稼ぎとして仲間に何かを準備させている。
それが分かっているので、俺もそれを楽しみにしていた。
「……もう、準備はいいか? 勇者君、君の話は長い。要すればこうだろう? 悪は死すべし、悪に加担する者も死すべし。それを成すのは正義の味方だと」
「ち、違ッ──」
「同じことだ。現に彼らも、君の正義に動かされ人殺しを行おうとしてる。魔王とて人、それを殺す君たちは人殺しさ」
「何言ってんだよお前! そいつはNPC、プレイヤー様のために用意されたデータの塊じゃねぇ──ゴフッ!」
せっかくの話し合いに横槍を入れたゴミには、ご退場を願うことに。
完全無詠唱の“影槍”を行使して、絶命させて消し去った。
世界がゲームだと思うのは構わない。
だが、ゴミのような輩の主張は、眷属や国民たちの存在を否定するものだ。
沸々と湧き上がる【憤怒】の想念。
それに身を任せては彼らが死んでしまうので、『侵化』状態までどうにか鎮めて祈念者たちと向き合う。
──もう飽きた、目的を果たそうか。
「しばらくお休みです、しばしのお待ちを。魔導解放──“閉ざされし終末”」
時間を停止した空間。
カナとの戦いでも使った魔導だが、シンプルに幽閉するためにも使える。
戻すのではなく、先送りにするだけなので時間稼ぎにはちょうどいい。
予め霧を張り巡らせ、『上』から観られるものは隠してある──さっさと済ませよう。
「さて──魔王さん、話があります」
「……いったい、何者だ?」
「その前に一つご確認を──あの日記、覚悟はできていますか?」
「ッ! 読んだのか……そして、そのうえで覚悟を問うか」
要点だけ掻い摘んでいえば、この魔王は従順な傀儡であった。
そしてそれは、遠い未来にあることを成すための布石でもあったのだ。
「一つ、残念なことがありましたので。アレでは貴方が救われない……いえ、貴方の遺志は間違いなく受け継がれますがね」
「……あれは、成功するのか?」
「しますよ、間違いなく。ですが、貴方はそれで満足しようとしている。私はそれが許せない……計画には支障が出ません、なので協力してはいただけないでしょうか?」
「……貴様の目的はなんだ?」
俺はただニッと笑みを浮かべる。
目的か……ここは偽善と答えるのが正解なのだろう、しかし今は別のものを。
「──運営神を虚仮にする」
「いいだろう、どうせ今も昔も道化のまま。未来がすでに創られているのであれば……この私は、貴様に委ねよう。いったい、何をすればいいのだ?」
覚悟を決めた真剣な眼差し。
しかしそれは、死地へと向かう戦士のようなものでもあり……思考をフル回転させ、俺は返答をする。
「──女になれ」
「……………………はっ?」
◆ □ ◆ □ ◆
≪さいしゅうイベントがしゅうりょうしました。みなさん、おつかれさまでした。みなさまのごかつやくをすうちかし、ポイントとしてひょうかさせていただきます。イベントにおけるぜんかつどうがさていきじゅんです≫
≪けっかはっぴょう、ならびにけいひんこうかんはごじつとなります。いちじかんご、みなさまをもとのエリアにもどします。それまで、どうかごゆるりとおすごしください≫
あの状況から脱するのに、ひどく神経をすり減らした。
魔王と作戦を決め、魔導を解除した直後に放たれる膨大な数の魔法。
どうやらアルカさん、すでに耐性を付けたようで意識が半ばあったようです。
こちらの事情は分からずとも、俺を殺すために大量の魔法を準備していた。
俺はそれを利用してどうにか脱出。
魔王も祈念者たちにいくつかアドバイスをしてから、体に剣を貫かれて死亡。
ちょうど今、それは成された。
ゆえにイベントは終了し、一時間もすればこのイベントエリアともおさらばとなる。
「その前にニィナ、やっておきたいことって何かない?」
「うーん……何もないかな? あっ、兄さんといっしょにいたい……かな?」
「それは最初からの予定だから、わざわざ言わなくても大丈夫だよ」
俺とニィナは始まりの町(複製)を歩き、このイベントの余韻に浸っていた。
特にやることもなく、縛りを解除したときに邪魔への対策は事前に済ませてある。
顔だけでなく髪も真っ赤にさせていそうなツンドラ少女や、絡んできそうなチンピラ、美少女を付け狙う大きな子供たち。
そういったすべてに備えてある。
なので、今も街のどこかで怒声や悲鳴が上がっていた。
「兄さん……その、最後はどうなったの?」
「ちょっと嫌われた気がするけど、偽善には相手の反応は関係からね。協力者として、これから働いてもらえると思うよ」
「えっ? あっ、うん……兄さんがそれでいいなら、いいんだけど」
何か言っているようだが、ニィナの優秀なスキルによって盗聴や読唇は不可能だ。
鈍感系ではない俺でも、分からないモノは確認できないので諦める。
「戦力は多い方がいい。ニィナは、もしアイツらと戦うことになったら……どうする?」
「……まだ、分からない。兄さんたちの力になりたいけど、ぼくは運営神に創られた。それが兄さんたちの足を引っ張るかもしれないから……怖いんだ」
「僕たちはニィナを邪魔とは思わないよ。大切な家族だし、もしあっちがニィナを利用するとするなら考えがある。だから、安心してやりたいことをやってくれ」
「兄さん……!」
周りから殺意の視線を向けられようと、俺は自慢の妹を誇るだけ。
そうして一時間が経つまで、ただひたすらにニィナを可愛がるのだった。
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