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偽善者と攻城戦イベント 二十三月目
偽善者と攻城戦終篇 その18
しおりを挟む祈念者は権能を宿し、自らがこれまでに溜め込んできた経験値を代償として、何度でも蘇えることができる。
それは彼らの肉体が運営神によって創られた仮初のもので、魂と肉体が完全には結びついていないからこそできることだ。
そして、とある祈念者は考えた。
死に戻りって、もしかしたらどこでもできるんじゃないかと。
彼らにはさまざまな創作物を通して得た知識があり、それを生かすだけのスキルを保持していた。
「──だからこそ、いつの間にか完成していたんだよ。簡易的な死に戻りスポット」
「……冒涜じゃないかな?」
「祈念者的に、ただのセーブポイントみたいな考え方だからね。職業に就く必要があるみたいだけど、特別なアイテムも固有スキルも必要ないから……あんな風に使える」
聖職者系の職業に就いた祈念者が、聖なる結界を展開して周囲を包む。
そこに職業スキルを使い、その場を簡易な神殿と定義付けて──これで完成。
あとは死ぬだけ。
内部の祈念者はその場で蘇えり、再び命尽きるまで目の前の壁に挑む……魔物よりも魔物らしくなってきたよな。
「ニィナ、結界はどうなってる?」
「……数が多すぎるから、少しずつ削られているみたい。先に結界の要である守護者が、倒されていたからじゃないかな?」
「それもそうかも。まあでも、それを気にするような人たちじゃないし……ああ、ちょうど少し割れたね。結界より先じゃたぶんもう使えないだろうから、慎重に動くと思うよ」
内部に置かれていた資料を読んだところ、結界は外に出た九人の強者がそれぞれ要として守っていたらしい……恩恵として強くなるから、全員外に出ていたのだろう。
万全の状態であればゾンビアタックも無効化されたのだろうが、守護者の数が減り、弱体化したところを突かれたため、所々に罅が入り始めた。
そこからは怒涛の展開だ。
内側と外側から結界の抜け穴をこじ開け、至る所から侵入できるようにする祈念者。
……さながら、野盗集団だった。
「で、結界が壊れたから仕方ないと思わせて全部解除させる、維持費を支払う必要が無くなったら──魔王が直々に動く」
俺の言葉を聞いていたかのように、魔王がタイミングよくこのエリアすべてに行き渡るように魔法で声を飛ばす。
≪やってくれたな! だが、結界を突破するとは見事である。褒美に、貴様らには万雷の割砕を与えようではないか! ──者共、奴らを蹂躙せよ!!≫
天より突如として、雷が降り注ぐ。
雲など存在しない中、それは魔法陣から生まれ──それを浴びた祈念者の大半が、どれだけ防御を講じていようと絶命していく。
生命力が多いヤツでも関係なく死に、生き残る者に目立つ類似点は見受けられない。
レベルが低くても、遠距離支援の生命力が少ない奴でも生き残っている場合がある。
「兄さん……」
「……無効化できるみたい。たぶん、触れたら即死のギミック系だね。僕とニィナは把握しているけど、あの魔王はいちおうでも運営神の駒だから。それぐらいやってのける権能が与えられているんだ」
「つまり、触れたらダメだけど、生命力がゼロになることは防げるってこと?」
「僕が持っていた攻撃無効スキル。あれもシステム上の攻撃なら、ダメージ計算をさせない効果がある。雷属性無効とか、そういうスキルの持ち主も生きていると思うよ」
祈念者もすぐに考察を始め、何かしらの結論を導き出したのだろう。
可能な限り雷のパターンを把握して、どうにか攻撃を避け始める。
途中、避雷針のように攻撃をぶつけると対処できることに気づき、魔法や武技のエフェクトが飛び交うようになった。
やっていることはともかく、かなり幻想的な光景だったので二人で眺める。
ニィナは「うわぁ……」と言っていたが、はたしてどちらの意味だったのだろうか?
◆ □ ◆ □ ◆
結界が破れ、雷が降り注ぐパターンも把握した祈念者たち。
魔王もそれ以上の策は弄することなく、彼らは城の中で魔物たちと戦闘を行う。
すでにすべての攻城戦が終了しており、全祈念者たちが集結している。
スペシャルロールたちも集まり、最後の戦いに向けて進軍が行われていた。
さて、一方の俺たちはというと──
「ポーションが欲しい人、作ります! 中級までS品質です!」
「く、クリーム版もあります!」
「Sか……なら上級よりも性能がいいか。いくらになるんだ?」
「無料ですよ。僕は初心者で、まだまだ先輩たちが戦うような魔物には敵いませんから。けど、自分にできることがしたいんです。妹といっしょに、できることをしています」
ニィナのスキル習得の際に作成したアイテム、その売り捌きを行っていた。
ポーションだけでなく、塗るだけで回復する軟膏型の回復アイテムなど多岐に渡る。
売り子にニィナが居るということで、人が来ては品質を視て受け取っていく。
当然ながら、俺だってタダで商売しているわけじゃないので謝礼は貰っていくがな。
「そうか……タダより高いものはない。悪いが、金は払わせてもらうぞ」
「いえ、実は交渉スキルのレベリングをさせてもらっていますので。皆さんと話すだけでレベルを上げさせてもらっていますので、そのまま持っていってください」
「……君がそういうのなら。ただ、あとで礼はさせてもらうからな!」
「あっ、ありがとうございます!」
「ありがとうございます!」
交渉スキルは別に、金銭のやり取りだけを指して交渉を上手くするわけじゃない。
俺は回復アイテムを供給し、代わりに戦ってもらう──これも立派な交渉だ。
「ふぅ……僕もスキルが取れてよかったよ。ニィナも交渉以外にも習得したんだろう? 僕は……詐術と詭弁スキルが増えてたよ」
「ぼくは取引と接待スキル、あと礼儀作法のスキルが手に入ったよ」
「……本当、僕とニィナで取れるスキルに差があるね。どうして同じことをやっているのに、こんなに差が出るんだろう?」
「あははは、なんでだろう?」
どういう態度でやっているのか、それをスキルのシステムは見ているのかもしれない。
残念ながら俺には、ニィナのような純真さが欠けているわけだ。
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