上 下
1,565 / 2,519
偽善者と攻城戦イベント 二十三月目

偽善者と攻城戦終篇 その17

しおりを挟む


 魔王城から脱出した俺がまず最初に行ったのは、[掲示板]への情報のリークだ。
 信じてもらえるかどうかは定かではない、ただそれを行うという偽善が大切である。

 なおこの際、自分の名前が出ないように偽装する必要がある。
 初期状態だと『名無しの○○』となるのだが……それでもバレるらしいからな。

 念入りに偽装スキルを重ね、開示されないこと確認してから投稿。
 信じるか信じないかは、読んだヤツ次第であろう。


「──これでよしっと。結界に関する情報は書いておいたから、いつか破壊して乗り込んでくるでしょう」

「うん、ぼくたちを狙っている気配もない。無事に脱出できたね」

「やるべきことはやった。新しいスキルも手に入れたし……そうだ、ニィナは鑑定を磨き上げないと」


 魔本を読んで得ていた鑑定スキル。
 本来であれば、かなりの努力か運が必要となるスキルを……破格の適性で即座に彼女は習得していた。

 なお、俺はしていない。
 魔本で熟練度が得られるのは初回のみ。
 熟練度そのものは手に入ったので、後は地道に修練を重ねる必要が生まれたわけだ。


「……よくよく考えたら、僕たちって本当は全スキルの熟練度を保持しておくこともできたわけなんだよね? どうせなら、そんな強くてニューゲーム状態がよかったかな?」

「兄さんと眷属、そして兄さんの世界に住む誰かが持っているなら……だけど。それでもかなり多いと思うよ」

「そうだね、かなり多い。だってレアスキルの保持者をスカウトすることもあるし、行き場のないけど外にも出せない奴隷たちを引き入れることもあるからね。実験に協力してもらって、スキルを取らせることもある」


 新スキルの獲得、または習得条件を見つけるとお賃金ボーナスが入る……みたいな感じだ。
 それらは資料として纏めてあり、後世に語り継がれる……といいなぁと思っている。

 国民たちが欲しいスキルを、確実に己の努力で得られるようになるのだ。
 やりたことができる、そんな世界の在り方がいいと思う……ダメならスキル結晶だが。


「スキル結晶か……」

「どうしたの、兄さん?」

「見つけたらどうしようかなって。取らぬ狸の皮算用だけど、いちおうね」

「使っちゃえばいいと思う……けど、時々危ないスキルが入っているときがあるっていうし、まずは確保することだけ考えておけばいいと思うよ」


 スキルとはある種の証明。
 所持したスキルで、その人物がどういった存在で何を成してきたのかが理解できる。

 適性皆無なスキルでも習得できる結晶は、魔本と違いただ取り込むだけでいい。
 しかし、その使い方を理解していない場合が多く、全然成長しないこともある。

 さて、そんな結晶だが……俺がやっているように、固有スキルを入れることも可能。
 要するに、在り方そのものを結晶に刻み付けることができるのだ。

 たとえば、先代からスキルの『侵蝕』を継承してしまうとか。
 たとえば、実はスキルだけではなく魂魄に乗っ取られてしまう……とかな。


「……ちょっと面白いことを思いついた。あとで試してみようっと」

「大丈夫なの、兄さん?」

「今の僕じゃできないことだからね。自分で考えこんじゃってあれだけど、もう少し移動しておこうかな?」

「うん、じゃあ掴まって」


 ニィナと共に“空間移動ムーブ”で、一気にこの場所から遠ざかる。
 少々離れた小高い場所から、祈念者たちがどのように動いているのかを観察していく。

 魔王城から魔物たちが出現し、壁の防衛を行っている。
 祈念者たちはその突破をするため、力を振るっていた。

 遠く離れた場所でも、クリスタルを賭けて激しい闘争が繰り広げられている。
 ……なお、すでに北と南の城に関しては終結しているようだ。


「他の場所は……うーん、なんだか一部崩壊している場所もあるけど、だいたい防衛に成功しているみたいだね。けど、クリスタルが奪われた場所もある」

「奪われたらどうなるのかな?」

「間違いなくこの地で何かが強化される。魔物なのか、魔王なのかは分からない……だけど、厄介なことになるのは間違いないね」


 完全に崩壊した場所が一つ、空の上から確認できてしまった。
 運び込まれている様子が無いのは、奪取することは含まれていないからか?

 最初に言っていたのは、クリスタルが魔王にとっての秘宝であること。
 そして、それらを持ち込むことで結界を突破するために必要な難易度が下げられる。


「攻め入るために必要だと言っていたけど、同時に安寧の魔結晶とも言っていた。使い方がちゃんと存在しているんだ……もし、知らないまま使い方を誤ったら──」

「危ないんじゃ?」

「かもね。[掲示板]にはクリスタルに関する情報は、最小限にしておいた。魔本とあの日記帳は僕たちが持っていっちゃうから、その分のお詫びとして載せただけ。分かる情報は自分で調べるしかないんだよ」

「でも兄さん、クリスタルを使わないといけない場所にある物を、どうやってクリスタル無しで調べようとするのさ?」


 ごもっともで。
 しかしながら、俺はこの問いに関する完璧な解答をすることができる。


「まず一つ。ニィナ、すでに僕たちがやっているからできないことじゃないんだ。祈念者にとって、ここは自由な世界……わざわざ重要なアイテムを集めて、なんてまどろっこしいことをやりたくないと考える人がいる」

「うん」

「二つ目。祈念者は質じゃなくて数で勝負すればいいんだよ──ほら、あんな風に」

「……うわぁ」


 ニィナが引いた顔で見つめたソレは──結界に向けてゾンビアタックを繰り返す、愚かな同胞たちの姿だった。


しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

World of Fantasia

神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。 世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。 圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。 そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。 現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。 2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。 世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。

パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。

荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品 あらすじ  勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。  しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。  道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。  そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。  追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。  成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。  ヒロインは6話から登場します。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

処理中です...