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偽善者と攻城戦イベント 二十三月目

偽善者と攻城戦終篇 その17

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 魔王城から脱出した俺がまず最初に行ったのは、[掲示板]への情報のリークだ。
 信じてもらえるかどうかは定かではない、ただそれを行うという偽善が大切である。

 なおこの際、自分の名前が出ないように偽装する必要がある。
 初期状態だと『名無しの○○』となるのだが……それでもバレるらしいからな。

 念入りに偽装スキルを重ね、開示されないこと確認してから投稿。
 信じるか信じないかは、読んだヤツ次第であろう。


「──これでよしっと。結界に関する情報は書いておいたから、いつか破壊して乗り込んでくるでしょう」

「うん、ぼくたちを狙っている気配もない。無事に脱出できたね」

「やるべきことはやった。新しいスキルも手に入れたし……そうだ、ニィナは鑑定を磨き上げないと」


 魔本を読んで得ていた鑑定スキル。
 本来であれば、かなりの努力か運が必要となるスキルを……破格の適性で即座に彼女は習得していた。

 なお、俺はしていない。
 魔本で熟練度が得られるのは初回のみ。
 熟練度そのものは手に入ったので、後は地道に修練を重ねる必要が生まれたわけだ。


「……よくよく考えたら、僕たちって本当は全スキルの熟練度を保持しておくこともできたわけなんだよね? どうせなら、そんな強くてニューゲーム状態がよかったかな?」

「兄さんと眷属、そして兄さんの世界に住む誰かが持っているなら……だけど。それでもかなり多いと思うよ」

「そうだね、かなり多い。だってレアスキルの保持者をスカウトすることもあるし、行き場のないけど外にも出せない奴隷たちを引き入れることもあるからね。実験に協力してもらって、スキルを取らせることもある」


 新スキルの獲得、または習得条件を見つけるとお賃金ボーナスが入る……みたいな感じだ。
 それらは資料として纏めてあり、後世に語り継がれる……といいなぁと思っている。

 国民たちが欲しいスキルを、確実に己の努力で得られるようになるのだ。
 やりたことができる、そんな世界の在り方がいいと思う……ダメならスキル結晶だが。


「スキル結晶か……」

「どうしたの、兄さん?」

「見つけたらどうしようかなって。取らぬ狸の皮算用だけど、いちおうね」

「使っちゃえばいいと思う……けど、時々危ないスキルが入っているときがあるっていうし、まずは確保することだけ考えておけばいいと思うよ」


 スキルとはある種の証明。
 所持したスキルで、その人物がどういった存在で何を成してきたのかが理解できる。

 適性皆無なスキルでも習得できる結晶は、魔本と違いただ取り込むだけでいい。
 しかし、その使い方を理解していない場合が多く、全然成長しないこともある。

 さて、そんな結晶だが……俺がやっているように、固有スキルを入れることも可能。
 要するに、在り方そのものを結晶に刻み付けることができるのだ。

 たとえば、先代からスキルの『侵蝕』を継承してしまうとか。
 たとえば、実はスキルだけではなく魂魄に乗っ取られてしまう……とかな。


「……ちょっと面白いことを思いついた。あとで試してみようっと」

「大丈夫なの、兄さん?」

「今の僕じゃできないことだからね。自分で考えこんじゃってあれだけど、もう少し移動しておこうかな?」

「うん、じゃあ掴まって」


 ニィナと共に“空間移動ムーブ”で、一気にこの場所から遠ざかる。
 少々離れた小高い場所から、祈念者たちがどのように動いているのかを観察していく。

 魔王城から魔物たちが出現し、壁の防衛を行っている。
 祈念者たちはその突破をするため、力を振るっていた。

 遠く離れた場所でも、クリスタルを賭けて激しい闘争が繰り広げられている。
 ……なお、すでに北と南の城に関しては終結しているようだ。


「他の場所は……うーん、なんだか一部崩壊している場所もあるけど、だいたい防衛に成功しているみたいだね。けど、クリスタルが奪われた場所もある」

「奪われたらどうなるのかな?」

「間違いなくこの地で何かが強化される。魔物なのか、魔王なのかは分からない……だけど、厄介なことになるのは間違いないね」


 完全に崩壊した場所が一つ、空の上から確認できてしまった。
 運び込まれている様子が無いのは、奪取することは含まれていないからか?

 最初に言っていたのは、クリスタルが魔王にとっての秘宝であること。
 そして、それらを持ち込むことで結界を突破するために必要な難易度が下げられる。


「攻め入るために必要だと言っていたけど、同時に安寧の魔結晶とも言っていた。使い方がちゃんと存在しているんだ……もし、知らないまま使い方を誤ったら──」

「危ないんじゃ?」

「かもね。[掲示板]にはクリスタルに関する情報は、最小限にしておいた。魔本とあの日記帳は僕たちが持っていっちゃうから、その分のお詫びとして載せただけ。分かる情報は自分で調べるしかないんだよ」

「でも兄さん、クリスタルを使わないといけない場所にある物を、どうやってクリスタル無しで調べようとするのさ?」


 ごもっともで。
 しかしながら、俺はこの問いに関する完璧な解答をすることができる。


「まず一つ。ニィナ、すでに僕たちがやっているからできないことじゃないんだ。祈念者にとって、ここは自由な世界……わざわざ重要なアイテムを集めて、なんてまどろっこしいことをやりたくないと考える人がいる」

「うん」

「二つ目。祈念者は質じゃなくて数で勝負すればいいんだよ──ほら、あんな風に」

「……うわぁ」


 ニィナが引いた顔で見つめたソレは──結界に向けてゾンビアタックを繰り返す、愚かな同胞たちの姿だった。


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