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偽善者と攻城戦イベント 二十三月目
偽善者と攻城戦終篇 その13
しおりを挟む「まずはここを突破しないと……ニィナ、何かいい方法はあるかな?」
「えっと、空間魔法を連続で使用する……のは、魔力が足りなくなっちゃうから難しいと思う。走っていくと、精気力が足りなくなるし……どうすればいいんだろう?」
「普通の手段じゃダメなんだよね。というわけで、たまには僕が頑張ろうと思う」
「兄さんが?」
この際、ニィナが向けるのは諦念……ではなく期待の視線。
純粋なこの娘は、俺のことを信じてくれているということだ。
「最初の頃と、今とじゃ決定的に違う僕の力がある。それを使えば、行けると思う」
「……魔術装置?」
「うん、これを使おうと思うんだ。あとは、短距離の転移を繰り返して魔王城に向かう。ニィナは……悪いけど、両手は空けておきたいから背中に張り付いて」
「分かったよ、兄さん」
絶大な信頼から、即座に指示通りに動いてくれるニィナ。
なお、感触は柔らかいが、それは子供特有の柔肌だ……一部分、いや、なんでもない。
「それじゃあ始めるよ──“擬短転移”」
魔術を起動させると、俺たちは先ほどまでいた都市の上空から、一気に魔物たちが蔓延する旧カランド平原に辿り着く。
距離に制限があるので一気に向かうのは不可能だが、それでも“空間移動”と同じくらいの移動効率を保てている。
「でも、兄さんの魔力が……」
「ニィナは空に“空間圧縮”を使って、そのまま固定して。僕はそれを使って回復してみるから──“伝導宣糸”」
「……うん、道にすればいいんだね。なら、こうして──“空間圧縮”!」
初期では立方体として空間を固めるが、すでに祈念者が使っていた経験があるのか、その形を細長く伸ばしていた。
あとは発動しておいた“伝導宣糸”を使うことで、そこを支点代わりに繋いで高速の移動を可能とする。
糸を伸ばせば俺の体は下に向かい、そこでは魔物たちが進軍を続けていた。
あとはそこに向け、回復するための魔術を行使する。
「──“脱力吸込”」
触れられた魔物は突如として、ミイラのように干乾びて絶命する。
……おっと、設定がすべての身力を奪うようになっていた。
まあ、今回は死んでくれた方が後のためになるので、それでも構わない。
溜まった魔力で再び“擬短転移”を使って距離を伸ばし、魔物から魔力を補給する。
それをひたすら繰り返していけるほどに、魔物軍団は多くそして長い。
ならばそれ有効利用しよう、それがこの移動方法のコンセプトである。
「兄さん、糸にその魔術を籠めることってできないのかな?」
「いい考えだよ。けど、今のところまだ成功していない。僕はこのデバイス越しに魔術を使っているから、その影響かもしれない。既存のプログラムに変なツールを加えたら、壊れちゃうのと同じだね」
「……こっちだと理解されづらい説明だね」
眷属は夢現空間内の図書室に行けば、地球の知識を好きなだけ学び放題だからな。
向上心のあるニィナだし、祈念者用に学習していることを知っていたのだ。
まあ、基本的に眷属は成長するために地球の知識を取り込んでいる。
転生者が知識チートをするのと同じ要領なので、TS転移者は泣いていい。
スキルを共有すれば超高速で学習するスキルが無数にあり、優れた理解力を持った学者まで所属しているのが我らが眷属だ。
地球人よりも地球のことを知っている、そういった人材も今では居るわけだし。
……素の状態でテスト勝負をしたら、大敗したことを俺は忘れない。
閑話休題
少しずつ距離を縮め、気づけば魔王城の細部まで見ることができる場所まで辿り着く。
しかしながら、一つ問題が……ニィナ曰く結界が張られているらしい。
「入る方法は?」
「さすがにそこまでは……祈念者の人も、それぞれ結界の前で頑張っているみたいだけどダメみたい。スペシャルロール? の人もまだ集まっていないみたいだし」
「魔力反応からして、当然のようにアルカが結界を解析しながら攻めているけど……俺、次の戦いで完全に無効化されるのかな?」
「それは大丈夫……かな? 単純に、条件付きで固くしているみたいだから」
どうやらゲームでも定番な、入りたくても入れないアレを再現しているようだ。
わざとスルーしたのだが、城を攻めている魔物にそれなりに強い個体もいた。
それを倒すことで、結界が弱体化する。
弱体化を繰り返していけば、最終的に誰でも通れるようになるんだとか。
スペシャルロールは、その必要回数を減らす役割があるのだろう。
さすがにわざわざすべての城を守らせていると、時間的にも……なぁ?
「僕たちにできる選択肢は三つ。一つ、バカみたいに祈念者を待つ。二つ、結界を僕たちで破壊する。三つ、僕にお任せ」
「……兄さん、何をする気?」
「結界を無視して中に侵入。一度しか入れないエリアをくまなく散策!」
「悪いこと……じゃない、みたいだね。けどここって、祈念者のみんなが楽しめるように用意された場所なんでしょ? そこまで凝っているのかな?」
物凄くメタな発言をさせてしまった。
もともと運営神からメタ的な知識は与えられているので、当然と言えば当然だが……萎えるよりも先に、罪悪感が半端ない。
「……ごめんな、ニィナ」
「きゅ、急にどうしたの!?」
「いや……なんでもない。それより、三つ目でいいから始めよう。ボスの間しかなかったら、そのときは帰ろう」
「う、うん……」
ニィナを軽く抱きしめ、セクハラと言われる前にやることを伝える。
庇護感が半端なかったんだよ……俺は無実です、許してください。
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