1,559 / 2,518
偽善者と攻城戦イベント 二十三月目
偽善者と攻城戦終篇 その11
しおりを挟むちなみに、現在は俺とニィナ以外にもこの場所を守る祈念者が混ざっている。
どうやら普段守っていなかったギリギリの場所から、転送で飛んできたようだな。
高レベルの魔物すら屠れる兵器やユニットが配置され、殺意マックスなところが丸見えになってしまった。
そんな彼らが百人ほど。
祈念者の参加人数が云百万だとすると、ごくわずかと言えよう。
というか、俺としてはよくもまあ百人も侵入したよと賞賛したくなる。
転送範囲と防衛用のギミックの仕掛け、確認してみたら紙一重の距離だったし。
「兄さん、どうするの?」
「魔王はクリスタルを狙っている以上、必ず攻めてくる。あそこの祈念者たちは、ここの兵器を使って勝手に防衛してくれると思う。なら、わざわざ僕たちが本気を出す必要はないと思うんだ」
「えっと……じゃあ、どうするの?」
「幸い、ここには必要な設備がある。だから僕たちは、僕たちにできることをやろう」
俺はニィナを殺させたくない。
ニィナも俺を死なせたくないし、どちらかが死ねばイベントは眷属たちの全力全開の一撃を以って幕を閉じてしまう。
ならば、俺がすべきこととは?
現状、ニィナを死なせないための選択ができるのは俺一人のみ。
だからと言って、俺が戦場に赴いて死んでしまえば同じことだろう。
つまりすべきことは、互いに死なないように警戒しながら安全な場所に居ることだ。
「──というわけで、僕たちは調合と錬金で回復アイテムを作ることにしました」
「ええっと……戦わないの、兄さん?」
「ニィナが戦いたいなら、別にいいよ。僕は意思を尊重して止めないよ。ただ、後方支援でもいいかなって……死にたくないし、他の人を死なせないのにもちょうどいいかなって思って。あと、今なら材料費がタダ!」
「うん、兄さんのそれは犯罪だよ」
現在、俺たちが居るのは生産ギルド。
さまざまな設備が用意されており、そこには当然素材なども。
始まりの町には祈念者のギルド員が待機していたが、これまでほぼ鎖国状態だったこの都市にそのような人材が居るはずもなく……野晒しにされていたアイテムを無事獲得。
なお、これは俺がクリスタルの主だからこそできることであり、今回やってきた祈念者がやろうとしても、システム的に弾かれるように設定しておきました。
「それじゃあ、生産を始めよう。スキルが無くても、やり方は体に染みついているからとりあえず反復行動に徹するよ。一番簡単な、傷薬と魔力水をひたすら作るんだ」
「はーい」
「作り方は……うん、ちょうどギルドの方でレシピを用意してくれてあったね。ニィナはそれと、僕の作り方を見ながらスキルを得られるまで試してみて?」
生産神の加護を授かっている以上、ありとあらゆる生産活動に絶大な補正が入る俺。
今回はニィナに完璧な作り方を見せるために、加護に体を委ねて半自動的に作り出す。
魔法陣が仕込まれた窯に水を注ぎ、魔力を籠めるだけで完成する魔力水。
すり鉢に薬草を入れて、ペースト状になるまですり潰すだけの簡単なお仕事な傷薬。
非常に簡単な作業工程……だが、それらを求められる動きで実行しなければ、最高品質のアイテムを作ることはできない。
水の温度や流す速度、籠める魔力の質や量などで変化する魔力水の品質。
薬草の質や量、すり潰す強さやペーストの度合いで変化する傷薬の品質。
まずはこれらを作ってもらうことに。
俺の方は最初から最高品質で作れたからだろうか、それぞれ三つを作ったらスキルを獲得していた……一回じゃないんだよな。
そして、ニィナは──
「さすがにニィナでも、すぐにスキルを取れるわけじゃないのか」
「……もしかしたら、理由が分かったかも」
「おおっ、さすがニィナ! で、どういう理由なんだと思う?」
まだ五回目ではあるが、普段のニィナと比べると習得までに時間が掛かっている。
彼女に適性が無いスキルは存在しない、それはすでに判明していることだ。
さすがはニィナ、そこからもう答えを導き出しているとはな。
「戦闘で生産をしている人はいなかったし、完全にやったことが無いことを試したのは初めてだけど……そうか、ぼくは何度か見たことの方がすぐにコツを掴めるのかも」
「なるほど、たしかにそうかもね。じゃあ、僕ももう少し作ってみようか。どっちもより効果のあるアイテムを作るためには、欠かせない必需品なわけだし」
「兄さんをばっちり見ていればいいんだね。うん、ジッと見ているよ」
「生産をする人はいないよね……けど、やったらやったで面白そうだ。ニィナのお陰で、縛りのアイデアも膨らんだ気がするよ」
そんなこんなで、俺は観察されながら生産活動に勤しむことに。
俺の様子をニィナが眺め、それに俺がほっこりしてモチベーションが上がる。
まさに永久機関!
模倣していたスキルは擬似的なものだったが、こちらはまさしく本物に違いない。
やがてやりすぎて中級に進化する頃、そろそろニィナに試させてみることに。
すると、一発で錬金スキルと調合スキルを獲得するのだった。
「やったぁ、おめでとうニィナ!」
「えへへ……ありがとう、兄さん」
──外では激しい攻防が繰り広げられているのだが、ここではまったりとした時間が流れていく。
俺もニィナも、今はそんな時間を満喫するのだった。
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~
三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】
人間を洗脳し、意のままに操るスキル。
非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。
「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」
禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。
商人を操って富を得たり、
領主を操って権力を手にしたり、
貴族の女を操って、次々子を産ませたり。
リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』
王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。
邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる