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偽善者と攻城戦イベント 二十三月目

偽善者と攻城戦終篇 その10

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≪では、てんそうをおこないます。みなさまに、かみのかごがあらんことを≫


 GM06ことリウのアナウンスによって、攻城戦最終イベントが始まった。
 俺とニィナの足元にも魔法陣が生まれ、光が視界を奪うと──異様な光景が広がる。


「兄さん!」

「うん、あれが……魔王の根城なんだね」


 ちょうど都市の外壁に転送された俺たちが見たのは、はるか先にそびえ立つ禍々しい居城であった。

 瘴気が昏く空を覆っており、空には飛行系の魔物たちが彷徨っている。
 何より、内部から放たれる膨大な魔力の反応がそれを証明していた。


「兄さんなら……勝てるよね?」

「ニィナが応援してくれるなら。けど、今回は僕たちの出番じゃない。選ばれし四人の者たちが力を合わせ」

《──ちょっとメルス、聞こえたら返事をしなさい!》

「……ニィナ、その選ばれし者っぽい人から連絡が来たから待ってね」


 魔法で繋げられた回線から、聞き覚えのある思念を感じ取ったので同調。
 相手もそれをすぐに感じ取り、一方的に言葉をぶつけてきた。


《選ばれたの!?》

「ううん、何にも。そっちはどうしてそれが分かったの?」

《その声は縛りの影響ね……まあいいわ。どうしたもこうしたも、さっき『賢者』に選ばれたとかって、一方的にオーラみたいなものが押し付けられたのよ》

「ふむふむ。というか、やっぱり選ばれたんだ、アルカは凄いなぁ。こっちは自陣で例の場所を調べてる。魔眼スキルも使えるし、運が良ければそのままいけるかも」


 魔眼スキルそのものは、視覚を魔力で強化し続ければ習得できる。
 その発展形であるオンリーワンな魔眼、そちらは……俺には難しい。

 しかし、遠視などの観察するために必要なスキルはすでに習得済みだ。
 視覚系スキルを使うとき、魔眼はそこに補正を入れられる。


「調べてはみているけど、あんまり期待はしないでよね。だって、魔力が……って、急にどうしたの?」

《なっ、何がかしら?》

「回線にノイズが走っているよ。アルカの方で、もしかして何かか……」

《何も起こってないわよ!》


 一方的に念話の接続が断たれる。
 俺なりに、たまにはアルカを気遣ってやらねばと思ったんだけど。

 念話にノイズが入るのは、感情に激しい揺さぶりが起きたか魔力が阻害される場所に居るかだし……後者か。

 選ばれた際にエフェクトがあった的なことも言ってたし、人ごみのせいで回線が繋がりづらくなったんだな。


「けど、それでへこたれるアルカじゃないよね。ニィナ、終わったよ」

「……ねぇ、大丈夫だったの?」

「うん。やっぱりアルカは『賢者』に選ばれたみたい。オーラって言ってたから、たぶん他の人も同じように目立つ風格でも漂わせているんだと思うよ。目立ちたくないし、僕たちには無くてよかったんだ」

「そうだね。それに、兄さんはあの四つには似合わないよ。どれにも当てはまらない、兄さんは兄さんって凄い人なんだ!」


 うーん、なんだか眷属の考えに毒されすぎてはいないか?
 妄信……とかではないのだが、俺を本来の俺以上に信じ切っている気がする。


「……僕にもできないことはあるよ」

「分かっているよ。でも、兄さんと僕たちが力を合わせればできないことなんてない……それはそうでしょ?」

「うん、僕にはできないことも、眷属のみんなならできるもんね」

「それと同じくらい、兄さんにしかできないことがいっぱいあるんだよ! だから、ぼくに兄さんは凄いんだって言わせてよ!」


 ここまで言われると……うん、胸の奥が熱くなるような感覚を覚えた。
 信じてもらえる、それもニィナに……もちろん、眷属の誰に言われても嬉しいけど。


「最初は土下座をしていたニィナも、みんなと同じように染まったね」

「えっ? そうかな……けど、うん。兄さんの眷属は、みんなただ優しいだけじゃない。他の人のことを考えられるんだよ。だからぼくも、居心地がよくてすぐに慣れちゃったんだと思う」

「ははっ、そうかそうか。なら、もっと居心地がよくなるように頑張らないと……はあ、いいところだったのに」


 などと会話をしていると、今度は魔王の根城(仮)に変化が生じる。
 瘴気の雲に投影されたのだ、少々痛いともいえる黒い装束に身を包んだ存在。


『性懲りも無く、愚かな人族よ。よくぞこの地まで辿り着いた。我が城はいかがかな、時期に歓迎の使いを送ることにしよう』


 痛いはずの装束も着こなし、その美声でおそらく女たちを骨抜きにしているであろうソイツこそ……魔王に違いない。

 念のためチラリとニィナの方を確認してみたが、彼女も俺の方を見ていて首を傾げていた……よかった、まだそういうタイプには興味が無いみたいだ。


「兄として、ああいう人とのお付き合いは認めませんからね」

「けど、兄さんもたまにあんな風になっていたような気が……」

「僕はいいの! カナタだって、ネロだって似たようなものなんだから!」

「……ぼくは兄さんのああいう姿も……」


 何やら言っているようだが、証拠隠滅スキルを手に入れたニィナの独り言は残念ながら把握できない。

 読唇スキルも習得しておきたかったが……俺の適性はあくまで腹立たせることなので、そっちの方面は向いていなかった。


『人族よ。これが最後の警告だ、我らが秘宝安寧の魔結晶を返してもらう。九つのそれは我が城へ攻め入るために必要な品。貴様らがこの地に持ち込んでいるのは分かっている』


 ああ、それが理由で攻めてくるのか。
 クリスタル……そんな裏設定が用意されていたんだな。


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