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偽善者と攻城戦イベント 二十三月目
偽善者と攻城戦終篇 その08
しおりを挟む「凄いよ兄さん! ぼくだって、まだ全然できてないのに!」
「……あっ、うん。ごめん、ニィナ。これって素直に喜べないみたい」
「そうかなぁ? どんな形であれ、兄さんには才能があった……これは褒められたことだと思うよ」
「……ニィナがそう言うなら」
スキル習得の特訓を始めた途端、俺はニィナよりも早くスキルを獲得しまくっていた。
本来、才能の塊であるニィナを超えるのはとても凄いことなんだろう……。
だが、得たスキルがスキルである。
なんかこう……やるせない気持ちがあふれ出てしまった。
「ぼくも頑張らないと」
「ニィナは僕のサポートをしたうえで、自分もやろうとしてくれているんだよね。やっぱり、ニィナはサポートだけに徹してくれた方がいいかもしれない。これは業値を下げちゃうかもしれないから」
「えっ、でも……」
「うん、分かってる。とりあえず、スキルだけは欲しいからね。だから、これを使ってみよう──“伝導宣糸”」
腕に装着した魔術行使用の装置。
登録したプログラムから使うのは、魔力でできた糸を放つ魔術。
「百パーセントとはいかずとも、才能がある僕が得た熟練度をニィナに渡す。それなら、ニィナは手を汚さずともスキルを得られる」
「……いいのかな?」
「もしかしたら、そうしないとで就けない職業があるかもしれないし。あらゆる可能性を模索するためにも、試してほしい」
「兄さんがそう言うなら……」
というわけで、さっそくニィナに俺の得たスキルを習得させるため、これまでやっていたことを再び実行する。
俺たちはまだまだ初心者の域を脱していないので、念入りな準備が必要だ。
魔術と魔法の両方を使えるというアドバンテージを利用して、目的を果たそうとする。
「まずは僕が──“不可視ノ密偵”」
「次はぼくが──“幻光”、“幻闇”」
「そして、“隠蔽”と“隠密”……」
魔術を掛け、魔法を掛けてもらい、スキルで隠れるという三重構え。
徹底した手順を踏まえたうえで、俺は往来に出てスキルを発動させる。
「──“暗躍”、“掏摸”、“拉致”」
一つ目のスキルを使ってから、道行く祈念者に接触した。
その後そっと触れてから二つ目を発動し、三つ目のスキルを使って逃走。
触れられた祈念者はそれに気づかぬまま、自分の目的地へと移動する。
俺も俺でどこかで人々の視線を遮り、再び同じ行動を繰り返していく。
暗躍スキルはこういった盗賊系のスキルを行うときに補正を入れ、掏摸スキルは文字通り掏摸を行う。
ただし、盗める物は保護系の魔法やスキルなどに守られていない物のみ。
レベルが上がったり上位の職に就けば別だが……俺は、無職だし。
そして、最後に使った拉致スキル。
人にしか使えなさそうだが、何かを奪って逃げるときにも補正が入る。
そのため、誰にも気づかれず隠れられた。
「最後に──“証拠隠滅”。これで、痕跡を残さずに逃げられるよ」
なんとなくバレないようにするための方法が分かるだけでなく、精気力を消費することでその場に無い証拠も消すことが可能だ。
まあ、隠滅するだけなので絶対ではない。
職業の中には『探偵』とかそういうのもあるので、決して調子に乗ってはいけないんだよな……今は使いまくるけど。
「僕って、こういうのは才能があるみたいだよな。うん、おまけに詐術スキルだけは瞬時に得られたし……ニィナと二人でスライム詐欺でもやったら成功しそうだ」
現実で言うところの、アイスクリーム詐欺である。
ここなら一人がスライムをぶつけている内に、相方が掏摸を使うだけの簡単な手口。
こっちの世界だとバックとかは魔道具でミニサイズだから、掏摸スキルで中身だけを奪うのが適しているのである。
「それじゃあ、“念話”で……ニィナ、スキルはどうなっているかな?」
《うん、やっぱり兄さんは凄いや! 兄さんが使った四つのスキル、全部習得できたよ》
「え゛っ? ……うん、それならよかった」
おそらくニィナは、その出自の関係からスキルを獲得するために必要な熟練度が、極限まで低く設定されているのでは? と思う。
いくら祈念者からあらゆるスキルを学習できるとはいえ、それを伸ばすために時間が掛かるのでは対『俺』としては使えない。
まだ使ったことがないが、もしニィナの種族因子を使ったら……うん、それっぽいスキルが手に入るかもしれないな。
「“空間転移”。お待たせ、兄さん」
「いいよね、ニィナは空間魔法が使えて。僕も早く使いたいよ」
「今のぼくと兄さんは繋がっているんだし、さっきの要領で取れているんじゃないの?」
「……ダメみたいだ。やっぱり、僕の方が必要な熟練度が高いのかもしれないね」
ニィナと違い、才能に偏りがありすぎる俺なので当然ではあるが。
俺は人を煽ることに特化している、それは得たスキルが証明してくれている。
そういう意味では、ふと思い出したとある祈念者の職業能力が最適なのだろう。
一方的に目視しただけなので、また会うかどうかは微妙なんだけど。
「どうしたの、兄さん?」
「ううん、なんでもない。悪いことでできるスキル、それを早くコンプリートしよう」
「そうだね、兄さんには悪いことなんて似合わないもん」
「……偽善は認めてね」
妹に存在否定をされた気がして、ほんの少しだけ傷つきかけた俺だった。
……なお、この後ニィナが優しくしてくれたのですぐに治ったけど。
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