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偽善者と攻城戦イベント 二十三月目

偽善者と攻城戦終篇 その07

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 イベントが何をするものなのか、いくら知り合いだとはいえ教えてもらえていない。
 俺としてもネタバレは避けたい……わけでもないが、気が削がれるのもまた事実。

 何をするのか分からないので、まず俺がやるべきなのは──偽装工作である。


「クリスタルを操作して、とりあえず設置していた物は片付けておこう……一度外すとリセットされるものもあるのか、それは手動でどうにかしよう」


 もし、次のイベントの内容が、この場所で行われるようなモノだった時に備えておく。
 具体的には、異常な性能を誇るユニットなどは先に片付けておくのだ。

 他の祈念者には隠しておきたい、何故なら作るため必要な素材の中に貴重な物がある。
 そういうところから、勘づくような奴がいるかもしれない……それに備えてだ。

 あとは単純に、俺の用意したもので楽をさせたくないという親心(笑)である。
 しっかりと苦労して、相応の結果を出してもらいたい……良くも悪くもな。


「十二時間もあるし、片付け自体は確実に終わらせられるな……よし、クリスタルから仕舞える物は全部仕舞えた」


 主である俺以外には弄れないので、再び取り出して利用することは難しい。
 クリスタルの権限を書き換えられれば可能だが……それもできないようにしておく。

 再び使用する[夢現の書]。
 そして、開くページは[魔法の書マゲイアス]。


「──“万覚苦痛オールペイン常駐レジデント極大マキシム”」


 内部に入った者すべて、この魔法を受けなければクリスタルに干渉することは不可能。
 禁忌魔法であるそれは、痛覚を抑えている祈念者にすら強烈な痛みをもたらす。

 それをセットしたうえで、通常よりも増幅された痛みを与える。
 スキルで軽減できたとしても、気絶するぐらいの激痛に苛まれることだろう。


「それでも突破できるなら……まあ、これぐらいで勘弁してやるか」


 ついでと言わんばかりに、耐えられた者を解析する魔法を配置。
 ただし、調べ方が雑すぎて対象が死ぬというリスク付きの……高出力スキャンである。

 万策も尽きたのでとりあえず、クリスタルに関してはこれにて終了。
 あとは……自分が楽しめるように、何かを始めるべきだろう。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 イベントエリア 始まりの町


「というわけで、僕といっしょにイベントを頑張ろう!」

「……あの、兄さん?」

「ニィナ、わざわざ時間を空けてくれてありがとう。お陰で僕は、今回もこれができる」

「ぼくは前回、街の中で仕事を済ませていたから……って、そうじゃなくて。兄さん、危険だよ──このイベントエリアが!」


 イベントエリアそのものが、危険と言うわけではない。
 俺に何かあった場合、イベントエリアが壊滅するという意味であった。

 俺はニィナと前に行った、凡人縛りを引き継いでこの場に居る。
 前回習得したスキルは、そのまま使えるというわけだな。

 しかし、それでも初心者に毛が生えた程度の強さしか持っていない。
 その状態で強力な魔物でも現れた場合……うん、俺が傷を負い『BAD END』だ。


「大丈夫だよ、ニィナ。だって僕にはニィナが居るし、ニィナには僕が居る……たしかに心許ないだろうけど、兄として僕はニィナを守ると誓うよ」

「兄さん……! でも、身を挺して庇ったりしたらどうなるか分かっているよね? 危険だよ、この世界が」

「分かってる、危ないことはあまりしない。あっ、あまりってのはニィナがピンチな時に自分を止められるとは思わないからだよ。だからニィナこそ、僕が危ないからって身を挺したりしないでね」

「……うん、分かった」


 健気すぎるニィナなので、絶対に考えていたんだろう。
 なのでそれは予め封じておいて、イベントにも参加できる部分だけ参加しておく。

 成績の中間発表などは無いが、すでにGM全員と顔を合わせている以上、特段欲しい景品もないのに張り切る必要も無くなったし。


「それで、兄さんは何をするの?」

「とりあえず、またスキルを習得できるような行動をしてみよう。前回は……ほら、途中で止まっちゃったわけだし」

「うん……戦闘系と非戦闘系のどっちを?」

「どっちにしようか?」


 取れるスキルは取れるだけ取っておいた方がいいだろうが、今回はイベント中なので無駄なものは取れない。

 しかし、今だからこそ取れるスキルなどは今の内に取っておきたいわけで……どうすればいいか悩んでしまう。

 ──が、そこはモブスペック。
 面倒になったら頭を空っぽにして、なんとなくで今回の目標を決める。


「よし、犯罪系のスキルを取ろう」

「……いきなりだね、兄さん。その理由を聞いてもいいかな?」

「普段は自由民のみんなが居るけど、今は祈念者しかいない。スキルの獲得条件は、相手がその行動にどういった感情を籠めるか……相手が祈念者なら、質の悪い考え方をしてくれるに違いないよ!」

「うーん……でも、たしかに一理ある。けど兄さん、犯罪は悪いことなんだよ? 散々祈念者を殺してきた、ぼくの言うことじゃないかもしれないけど」


 最終段階で俺に挑む前から、ニィナは当時の『ザ・グロウス』として祈念者の解析を頑張っていたらしいからな。

 ……ニィナは悪くない、その想いを伝えるために──俺はギュッと彼女を抱き締める。


「に、兄さん!?」

「二人で頑張ろう……きっと、僕たち二人なら乗り越えられる」

「やることは悪いことなんだけど……うん、兄さんといっしょならできる気がする」


 と、妹に犯罪の片棒を担がせる屑な兄貴ではありますが、スキルのために祈念者の方々には犠牲になってもらいましょう。


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