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偽善者と攻城戦イベント 二十三月目
偽善者と攻城戦終篇 その05
しおりを挟む「[魔法の書]──『上位悪魔召喚』」
「そんなもの──『罪裁く射光』!」
「じゃあ次──『上位天使召喚』」
「だから無駄よ──『穢れ汚す闇針』!」
魔法陣が記載され、そこから俺と眷属が発動可能な全魔法が使える[魔法の書]。
大量の天使と悪魔を用意するが、アルカはそれを魔法一つで捻じ伏せていく。
いや、それは一つであって一つではない。
彼女の使う魔法は、【賢者】の職業能力によって創られたオリジナルのモノ。
複数の魔法が一つに束ねられ、アルカのイメージ通りに効果を発揮する。
一つ目の魔法は業値が低いモノへの特効、二つ目の魔法はその逆の効果を持っていた。
大量の魔法スキルの習得、それこそが就職条件である【賢者】が故の能力。
既存の概念に捉われない、そんな新たな魔法が俺の行く手を阻む。
「[魔術の書]──“魔力精製”」
「ッ! 魔力の……精錬!?」
魔力を強制的に精製する魔術、これによってMP1辺りに内包された魔力の密度が向上する……これによって、より高位の魔技を発動することができるように。
魔法だけの勝負なら、俺に勝ち目はほとんどない……ならば魔術という俺だけの札を出して、有利なように見せかける。
「そして──“斬ノ理”、“阻ノ理”」
「くっ……『絶対防壁』!」
「無駄だ。ただの魔法なら、斬るという概念そのものに敵わない」
「きゃぁ!」
可愛らしい声だな、と場違いなことを考えながらも戦闘は続行。
そして、アルカは顔を真っ赤にして……目や髪の色を紅蓮に染め上げた。
魔力は無限に生み出されるモノの、それ以上に消費が激しいものを使っている。
今もなお、アルカの強化された魔法を防ぐために魔力がゴリゴリ削られていた。
「『止まぬ溶雨』、『割れぬ泡沫』、『消せない朧火』、『黒き雷帝』!」
「たった一言、“阻ノ理”」
強力な酸性雨、触れたら固まって拘束してくる泡、消えない黒炎、そして雷鳴迸る昏き黒雲……それらを薄く伸ばした魔力で防ぐ。
一切合切を無効化し、代わりにあらゆる防御を斬り裂く魔術で攻撃。
最強の矛と盾みたいな感じだな……ちなみに消費した魔力的に、今回は盾が勝ちます。
アルカもそれは理解している。
魔力量なんて調べればすぐに分かるし、稀にぶつかるように誘導をしていた。
当たっても問題ないように、互いに不干渉な設定にしてあるので無駄なんだけどな。
代わりにその度に激しく魔力を減らされるので、時間さえあれば有効な手段だろう。
「早く死になさいよ──『憤怒の纏魔』!」
「ん? なんかそれ、俺の天魔時代に似ているような……」
「うっさい、さっさと死ね!」
「ずいぶんと口が悪いな……」
顔の赤さは【憤怒】とリンクし、髪や瞳がメラメラと燃え盛る。
翼と呼び難いナニカが背中から生えたアルカは、燃え盛るそれを器用に動かす。
「これ以降、あんたに向かうすべての攻撃が炎を纏う。私の怒り、その深さをじっくりと味わいなさい」
「なんだ、それなら早く言ってくれればいいものを。[魔法の書]──“放圧水炮”」
「いきなり消そうとするんじゃないわよ!」
大量の水をぶっ放した……が、アルカのソレは水蒸気すら生まずに魔法を消し去った。
怒りを覚えさせていたのは分かっていたのだが、まさかここまでとはなー。
ちょっと時間を稼ぐため、これまでに準備しておいた魔物や精霊たちを向かわせる。
直接行けば燃やし尽くされるため、あくまで牽制だけで済ませておく。
しかし、背中から生えたソレは体から分離して弾として飛んでくる。
それに命中すると、精霊だろうと命中した部分を切り離さないと対応できないようだ。
「魔導は使わないのかしら?」
「本にできないんだよ。考えてみろ、自分の妄想の塊が本に載っている姿を」
「…………ごめん被るわね」
「それはともかく、魔導は完全に本人の発動イメージが必要だ。少なくとも、魔本の再現程度じゃ真似できないんだよ」
ギー越しに使う魔導も、他者のヤツの場合は劣化してしまう。
俺は俺で、それをかなり強引な方法で同等レベルまで強化したが……まあ、今はいい。
いちいち魔術と魔法を切り替えて、栞を挟み維持していた[探求の書]は今もなおこの場の状況を調べ上げている。
当然、アルカの『憤怒の纏魔』とやらも、かなり時間は掛かっているようだが、それでも少しずつ進んでいた。
代わりに、じわじわと炎は『理』を冠する二つの魔術を燃やしている。
どちらが早く終わるかと言えば、それは後者……一筋縄じゃいかないんだよな。
「[魔術の書]──“偽円隔壁”」
「無駄よ──『尽きぬ散弾』!」
「一度に六万以上の攻撃はできない。ほら、だから壊れない」
超多重防壁をコンセプトにした魔術は、見事にアルカの魔法の雨を防ぐ。
破壊されて燃やされる、しかし再度起動させた魔術が盾を再構築する。
その間、魔法を直接受けることで解析速度が向上した。
ページは開いていないが、俺の脳内では超高速で書き綴られる術式が確認できる。
そして、そのときは訪れた。
術式は魔法陣となり、俺の脳裏にそのすべてが書き込まれる……やっぱり凄いな、アルカはと改めて実感する。
「できた──『憤怒の纏魔』」
「……本ッ当に厄介ね!」
「おい、アルカ。時間は大丈夫か?」
「時間…………ッ!?」
そう、そろそろ幕は閉じるだろう。
だがしかし、俺たちはその結果に納得などしない──全身全霊を以って、相対する者を倒すまでは。
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