1,551 / 2,518
偽善者と攻城戦イベント 二十三月目
偽善者と攻城戦終篇 その03
しおりを挟む場所は変わって都市の外郭を囲う壁。
設置した兵器やユニットがスタンバイする中、俺とアンは二人で盛り上がっていた。
「さぁご登場、[夢現の書]!」
仮契約した奴らを召喚する黒い方でも、眷属を呼び出す白い方でもない。
眷属たちに渡した[〇〇の書]という名の魔本、それらすべてを閲覧できる魔本だ。
ある意味、これだけでチート無双できる。
なぜならその種類が豊富で、逆に見つけられないモノの方が少ないという……ファンタジー版のウィッキーさんなのだ。
「というわけで、まずは[魔術の書]から使おうかな。縛りは……アン、どうしよう?」
「では、魔力関連のものに限定してはどうでしょうか? 魔本を使うには制御能力さえあればいいわけですので、使うための魔力の確保と安定化のみとします」
「感知とかは……あっ、はい。魔術と魔法がありますもんね」
さすがに甘えすぎたみたいだな。
まあ、交渉の結果どうにか魔力感知ぐらいは使わせてもらえるようになりました。
ただし、レベルは擬似的にリセットされるそうです……そういう技術、いったいどこで見つけているんでしょうね。
「と、とにかくやってみようか。何を使えばいいかなーっと──“網索”」
網目のように魔力が広がっていき、内部にある魔力の反応を掴みやすくなる。
感知だけでは不安だったので、一番最初に使うのはやっぱりこれだ。
「あとは……うん、戦闘になるまで心当たりがないな。さっさと次に行こうか」
「これは、わたしたちの問題かもしれませんね。事前に使用する魔術を、いくつか新たに開発しておくべきでしょうか?」
「魔法だったら、ちょうどさっきハークから大量に教わったけどな。魔術って、使っている場所を橙色の世界しか知らないし。なら、一工夫して──」
「リーンでの開発も上手くいっています。大衆に魔術の開発を求め、成功した者には報酬がある宣伝すれば……とメルス様ならば、考えそうですね」
たしかに考えていました。
意外といいと思うんだけど、逆に怪しまれたり秘匿される可能性が高いんだよな……貴重な魔術を収集するって、悪役っぽいな。
いっそのこと、魔術組織でも作り上げて魔法組織と戦わせる……なんてのもいいかな?
実際、魔法を専門とするギルドからクレームが来たこともあったし。
「あれは大変でしたね。メルス様が争いの種火をバラまくので」
「……アンが魔術を使ったから、というのも理由だったことを忘れないでくれよ?」
「それに注目したギルドの方々を跳ね除け、暴れまわったのがメルス様であることもお忘れなく……とてもカッコよかったですが」
「ぐはっ!」
俺が反応したのは、自分の過去の罪なのかサラッと告げられた一言なのか……いや、どちらも心にクリティカルヒットだけれども。
ほんのりとではあるが、顔を赤くしているアンの心情は、はたして俺よりも冷めやらぬものに包まれているのだろうか?
「か、かんちがいしないでよね。べ、べつにかんしゃなんて……し、してないんだから」
「……前にも一回やったし、棒読みならしなくてもいいんじゃないか? 本気でぶち切れて言っている、アルカのツンドラ並みに需要があるかどうか分からないぞ」
「彼女の場合は……いえ、言わない方がメルス様の妄想力が高められそうですね」
「俺のことをいったいなんだと……まあいいや、次はこれだ──[精霊の書]」
なお、これには検閲と監修者が関わっています……もちろん同一人物というか聖霊が。
どのような配合でどういった精霊が生みだせるのか、ギリギリの範囲まで試してある。
精霊魔法の中には、そういう精霊を確実に生み出せるようなものも存在するらしいな。
条件付きのもので、ただレベルを上げただけでの俺では習得していないんだけど。
「定番の“火炎蜥蜴”“水泉乙女”“空風少女”“大地小人”“光輝導者”“闇冥導者”……あと加えて“無粘喰体”」
上位精霊を計七体召喚する。
前にやったときから研究を重ね、無属性の上級精霊も見つけていたのだ。
もちろん、それより先の魔改造をやろうとしたらバレたけど。
どうして精霊に手を出そうとすると、すぐに発覚してしまうのだろうか?
「予想だと契約云々から繋がっていて、バレている可能性が高そうなんだが……合っていると思うか?」
「ほぼ確信したうえで聞いてきますね。メルス様、ご自身の考えをしっかりと伝えることも大切ですよ。浮気はしていないと」
「それ、浮気なのか? 俺は俺なりにそのときそのときに全力なんだが……そう思われるような俺が悪いのか」
「冗談、というほどでもありませんが、皆様それぞれ『愛』の形は異なりますよ」
俺にとってそれは、ただ欠けたモノを埋めたいという欲望。
彼女たちの純粋なそれに、相応しいものかと聞かれれば……そうじゃないんだろうな。
「──スライム、“衝撃弾”。ぐほっ!」
「あまり、自虐は控えていただけると……」
「それでも、いっしょに居てくれているんだからな。求められる限りは、相応しい奴であろうと努力するべきか」
少しぐらい、俺も成長できたかな。
この後はひたすら[夢現の書]を使い、防衛ラインを築き上げるのだった。
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~
三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】
人間を洗脳し、意のままに操るスキル。
非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。
「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」
禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。
商人を操って富を得たり、
領主を操って権力を手にしたり、
貴族の女を操って、次々子を産ませたり。
リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』
王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。
邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる