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偽善者と攻城戦イベント 二十三月目

偽善者と攻城戦終篇 その03

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 場所は変わって都市の外郭を囲う壁。
 設置した兵器やユニットがスタンバイする中、俺とアンは二人で盛り上がっていた。


「さぁご登場、[夢現の書]!」


 仮契約した奴らを召喚する黒い方コンヴォシオンでも、眷属を呼び出す白い方イステクリスィでもない。
 眷属たちに渡した[〇〇の書]という名の魔本、それらすべてを閲覧できる魔本だ。

 ある意味、これだけでチート無双できる。
 なぜならその種類が豊富で、逆に見つけられないモノの方が少ないという……ファンタジー版のウィッキーさんなのだ。


「というわけで、まずは[魔術の書]から使おうかな。縛りは……アン、どうしよう?」

「では、魔力関連のものに限定してはどうでしょうか? 魔本を使うには制御能力さえあればいいわけですので、使うための魔力の確保と安定化のみとします」

「感知とかは……あっ、はい。魔術と魔法がありますもんね」


 さすがに甘えすぎたみたいだな。
 まあ、交渉の結果どうにか魔力感知ぐらいは使わせてもらえるようになりました。

 ただし、レベルは擬似的にリセットされるそうです……そういう技術、いったいどこで見つけているんでしょうね。


「と、とにかくやってみようか。何を使えばいいかなーっと──“網索モウサク”」


 網目のように魔力が広がっていき、内部にある魔力の反応を掴みやすくなる。
 感知だけでは不安だったので、一番最初に使うのはやっぱりこれだ。


「あとは……うん、戦闘になるまで心当たりがないな。さっさと次に行こうか」

「これは、わたしたちの問題かもしれませんね。事前に使用する魔術を、いくつか新たに開発しておくべきでしょうか?」

「魔法だったら、ちょうどさっきハークから大量に教わったけどな。魔術って、使っている場所を橙色の世界しか知らないし。なら、一工夫して──」

「リーンでの開発も上手くいっています。大衆に魔術の開発を求め、成功した者には報酬がある宣伝すれば……とメルス様ならば、考えそうですね」


 たしかに考えていました。
 意外といいと思うんだけど、逆に怪しまれたり秘匿される可能性が高いんだよな……貴重な魔術を収集するって、悪役っぽいな。

 いっそのこと、魔術組織でも作り上げて魔法組織と戦わせる……なんてのもいいかな?
 実際、魔法を専門とするギルドからクレームが来たこともあったし。


「あれは大変でしたね。メルス様が争いの種火をバラまくので」

「……アンが魔術を使ったから、というのも理由だったことを忘れないでくれよ?」

「それに注目したギルドの方々を跳ね除け、暴れまわったのがメルス様であることもお忘れなく……とてもカッコよかったですが」

「ぐはっ!」


 俺が反応したのは、自分の過去の罪なのかサラッと告げられた一言なのか……いや、どちらも心にクリティカルヒットだけれども。

 ほんのりとではあるが、顔を赤くしているアンの心情は、はたして俺よりも冷めやらぬものに包まれているのだろうか?


「か、かんちがいしないでよね。べ、べつにかんしゃなんて……し、してないんだから」

「……前にも一回やったし、棒読みならしなくてもいいんじゃないか? 本気でぶち切れて言っている、アルカのツンドラ並みに需要があるかどうか分からないぞ」

「彼女の場合は……いえ、言わない方がメルス様の妄想力が高められそうですね」

「俺のことをいったいなんだと……まあいいや、次はこれだ──[精霊の書]」


 なお、これには検閲と監修者が関わっています……もちろん同一人物というか聖霊ユラルが。
 どのような配合でどういった精霊が生みだせるのか、ギリギリの範囲まで試してある。

 精霊魔法の中には、そういう精霊を確実に生み出せるようなものも存在するらしいな。
 条件付きのもので、ただレベルを上げただけでの俺では習得していないんだけど。


「定番の“火炎蜥蜴フレイムサラマンダー”“水泉乙女アクアウンディーネ”“空風少女エアリアルシルフ”“大地小人アースノーム”“光輝導者ルドゥーシュ”“闇冥導者テネーシュ”……あと加えて“無粘喰体ヌルスライム”」


 上位精霊を計七体召喚する。
 前にやったときから研究を重ね、無属性の上級精霊も見つけていたのだ。

 もちろん、それより先の魔改造をやろうとしたらバレたけど。
 どうして精霊に手を出そうとすると、すぐに発覚してしまうのだろうか?


「予想だと契約云々から繋がっていて、バレている可能性が高そうなんだが……合っていると思うか?」

「ほぼ確信したうえで聞いてきますね。メルス様、ご自身の考えをしっかりと伝えることも大切ですよ。浮気はしていないと」

「それ、浮気なのか? 俺は俺なりにそのときそのときに全力なんだが……そう思われるような俺が悪いのか」

「冗談、というほどでもありませんが、皆様それぞれ『愛』の形は異なりますよ」


 俺にとってそれは、ただ欠けたモノを埋めたいという欲望。
 彼女たちの純粋なそれに、相応しいものかと聞かれれば……そうじゃないんだろうな。


「──スライム、“衝撃弾ショックボール”。ぐほっ!」

「あまり、自虐は控えていただけると……」

「それでも、いっしょに居てくれているんだからな。求められる限りは、相応しい奴であろうと努力するべきか」


 少しぐらい、俺も成長できたかな。
 この後はひたすら[夢現の書]を使い、防衛ラインを築き上げるのだった。


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