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偽善者と攻城戦イベント 二十三月目

偽善者と攻城戦後篇 その20

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 魔導“星刻鳴らす大鐘楼”。
 極めて限定的な条件でしか発動できないこの魔法には、不可逆な理すらも捻じ伏せて発動する効果が存在した。


「……あ、あれ?」

『……魔導の力ですね。記憶はある、けどこれは……』

「は、ハークさん!? どうして……」

「──ふはははっ! これこそが我が魔導、時を巻き戻す禁忌の力よ!」


 ノリノリで魔王ロールをしながら伝える。
 カナは自分と合体し、しばらくは外に出てこれないはずだった『アジ・ダハーカ』ことハークが外に出てきて驚いていた。

 その本人……いや、本龍は俺の魔導を解析しようとしているみたいだが、すでに発動したものを今さら調べることはできない。

 この世界線ルートにおいて、俺はまだその魔導を発動してはいないのだから。


「カナよ、覚えているか? 俺が魔導を告げて効果を発揮しなかったものを」

「えっ? え、えっと……」

『“閉ざされし終焉”、でしたか?』

「そうだ。終幕に告げておいたが、この世界は現在時間が止まっている。外界とは異なる時間が流れる……竜宮城のようなものだ」


 カナが龍玉を集めるアレを読んでいるか分からないので、たとえはこちらにしておく。
 分かる人に説明するなら、ゲーム中にセーブしておくでもいいんだけどな。

 で、今回の魔導はロードをするもの。
 俺の世界だと使い放題なのだが、こっちだと予めセーブポイントを創っておかないと戻ることもできない。

 なお、消費魔力が尋常ではない。
 シュレディンガーの猫的な感じで、俺たちが外を知らないからこそ発動する魔導……それでも、時の遡行は難しいのです。


「必要なのは精確な魔力の消費、時間間隔、仕込みの三つだ。いずれ、カナもハークと共に使えるかもしれぬな。使えれば、望まぬ未来を書き換えることもできるぞ」


 パチンと指を鳴らし、俺たちを取り込んでいた“果てなき虚構の理想郷”を解除する。
 場所は再びイベントエリアとなり、祈念者の眷属たちが守る城が遠くにそびえ立つ。


「俺は勝った。行かせてもらうぞ」

「はい……あっ、名前!」

「そういえば、言う約束だったか。いいか、俺の名を刻むのだぞ。我が名は」

「──見つけたわよ!!」


 せっかくいいところだったのだが、空から凄まじい速度で濃密な魔力が降ってきた。
 まだ制限を戻していなかったスキルの中から、この状況で愛用の“奪魔掌マジックテイカー”を発動。


「チッ、やっぱり対策をしておかないとそれは厄介ね」

「やれやれ、もう少し情緒というものを考えてみてはどうだ? せっかくの俺とカナの密会を邪魔するとは……守衛はどうした?」

「何よその態度……まあいいわ。あの龍人なら突然居なくなったわよ。私同様、何かを感じ取っていたみたいだし」

「…………」


 何か、とはおそらく魔導の発動だ。
 それが“果てなき虚構の理想郷”の方ならいいのだが……もし、時間を戻した二つの魔導の方だったなら、それは異常でしかない。

 本来人族に、時間の流れを感じ取るような感性は存在しない。
 時属性を持つ者など、超激レアな精霊や神にそうあれと創られた生命体だけのはずだ。

 魔法なら、いちおう可能だが……感性を与えられたからと言って、魔導レベルの時間改変に気づくのはやっぱりおかしい。

 アルカって、才能の塊だよな。
 努力すればするほど、際限なく成長をし続けて成果を出す。

 もちろん、それに特化した『超越種スペリオルシリーズ』であるニーナには劣るだろう。
 それでも、普人族の身で『やればできる』が成立するのはおかしくないだろうか?


「カナよ、続きはまだいずれ。前に教えておいたのだ、連絡をしても良いのだぞ」

「え、えっと……その、ごめんなさい」

「……そうか。まあよい、それにそろそろ名も明かされ」

「──アンタ、ずいぶんと余裕ね? 私以外の相手を見る余裕があるなんて」


 全方位から感じ取れる魔力反応。
 すでに魔法として待機しているもの、魔法陣として設置されているもの、条件を満たすと発動するものなど……多種多様だな。

 さすがは絶対俺殺す(ウー)マンだ。
 すべてを喰らってしまえば、実は生命力の縛りに関してはまったく弄っていなかった俺だと耐えられないだろう。

 空から降臨した真の魔(法)王アルカ。
 彼女を倒すための準備はできておらず、戦おうと情報を与えるだけにしかならない。

 それに、この場にはカナが居る。
 アルカのことだから精確に俺だけを殺すようにセットしてあるとは思うが、俺の反応で当たってしまうかもしれないからな。


「魔導解放──“選魔を払う大いなる風”」


 辺り一帯に吹く風。
 それに触れた魔法や魔法陣は、すべて粒子となって霧散していく。

 今回の魔導は魔力の強制霧散。
 塊になっている魔力を分解することで、実行しようとしている何かをいっさい使わせないという魔導である。


「今回はこれまで、といったところか。眷属たちにも撤退命令を出しておこう」

「誰が逃がすものですか!」

「魔導を使う俺に、貴様はまだまだ遠く及ばぬ。魔導解放──“理よ我が意のままに”」

「ッ!?」


 自分ルールを創る魔導で、ここいら一帯で俺以外が魔力を運用することを禁じた。
 それだけで、アルカは空から地上へ真っ逆さま……うん、カナが回収してくれたな。


「ではな、また会おう!」


 アルカが罵ってくるが、罵倒に喜ぶ趣味はないのでそのまま空間魔法で帰還。
 攻城戦も本当にあと少し……さて、何をするべきかな?


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